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戦いに向けて

21:静かな時を刻む

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 他の2人と違い深く交わる事は出来なくてもキトラの心には触れられた、気がする。
サガに逆らって耐える彼に何が出来るかまでは考えつかないけれど。



「やあ」
「……どうも」

 意識が回復すると湿った藁の上で寝ているりんご。隣で寝ているキトラは既に人間態に
戻りシャワーでも浴びてきたかのようにスッキリした様子でズボンを履いた状態。
 何か羽織らせて欲しかったけれどこの場所にそんな気の利いた物なんてない。

  だから大事な所丸出しで寝ていた上にまだしっかり濡れて気持ち悪い。

「エノクに頭を下げるのは嫌だけど、これからの事を考えて興奮しても自我を
抑えられる装置が無いか聞いてみようかな」
「あれでも抑えてたんですよね。キトラさんとえっちするにはレベル足りない…」

 最後まで彼自身は入ってこなかった。もし突き進んでいたら今のりんごでは回復する
以上の破壊が行われたに違いない。少なくともあとレベルを40は積まないと無理。

 りんごが想像していたのと全く違うキトラの正体。

 古代の獣王にどんな関わりがあって転化したのかは分からないが、
もしかしてエノクも目隠しをはずしたら山くらいの魔物に変化するのだろうか。
 まさかサターヌも?

 巨大な魔物たちの間に居る小さな自分を想像してゾワっとする。

「君に正体を見せて良かったのかどうかまだ分からないけど。
でも逃げずに触れてくれたのは素直に嬉しかった」
「しっぽのおふとんが出来ないのは残念でした…えっちなしっぽ」
「この際開き直って獣と交わる日があるのも悪くないか」
「わあ……レベルがいっぱい上がりそう」

 レベルが十分上がるまでに何回体を粉砕されるんだろうか。
 何度も壊してはエノクも流石に怒りそう。

「君は魔王を相手にするんだし丁度いい」
「キトラさんが一緒に戦ってくれるなら心強いです」
「俺は見てる。でもちゃんと応援するよ」
「ええ?!」

 あんな強そうな体を持っていて魔王というボス相手に戦ってくれないと?
獣の本能が強いのならきっと戦闘も圧倒的な力を見せてくれるはずと期待していた
りんごは驚いて彼の顔を見る。

「弟たちの前で気軽に獣にはなりたくないし接近戦は苦手だから無理」
「その弟さんたちが主に戦うことになりますけど」
「彼奴等は戦闘が得意だから」

 あっけらかんというキトラにりんごは思わず起き上がり。

「お、お兄さんとして良いんですかそれでっ」

 ちょっと大きめな声で言った。

「駄目だというのならまず実力がないのに誘った君じゃないか?
それに乗ったエノクも同罪。俺もサターヌも巻き込まれただけで好き好んでは……、
まあ、あいつは君との夜を色々と画策してるようだけど」
「そうだった。私が言ったんだった。すみません声をあげて」

 一気に恥ずかしくなってうつむくりんご。

「いいよ。ちゃんと付いていく事にしてるから」
「……あの、困ったら助けてくれますか?」
「何時でも必要な時に必要なだけの助けをする。それだけ」
「はい」

 自分から誘っておいて助けてもらう前提で話している自分がとても愚かで。
恥ずかしさは加速する。だから視線を別の場所にずらした。

「エノクはしたり顔で君に近づいて計算して全てを把握して支配しようとする。
ちゃんと見極めるんだ。サターヌはただの可愛い生き物だから可愛がってあげて」
「エノクさんには厳しいんですね。魔王になりそう…だから?」
「あいつとは意見が合わない事があってね。それで少し距離を置いてるだけ」
「そう。なんですか」
「所で何時までここに居る気?のんびり夜を明かすの?サターヌには連絡した?」
「あっ」

 まずい何もしてない。きっと滅茶苦茶心配してる。
 服は何処?靴は?カバンは?その前に何かメッセージを送るべき?

「ははは。大丈夫。俺の所に居るのは伝えてる。今ここを出るのは危険だから
明るくなってからにしたほうがいい」
「……良かった」

 何時までも裸は良くないので濡れたままでも渋々服を着る。
待ってもタオルは出て来ない。水浴びをするにも外はもう暗い。
 何か食べるものも欲しいけれど自分で用意しろと笑顔で言われそうで。

「食べる?」
「食べ物!…ほしいです」

 キトラが起こした火を眺めてぼーっとしていると彼が木の実を
幾つか手にしてりんごに渡した。見た感じはどんぐり。
 味は素朴でずっと噛んでいると甘い気がして悪くはない。

「お腹空いてたなら言ってくれないと」
「だ。だって。…キトラさん厳しいから」
「組織全体の監視役も兼ねていたから多少厳しくもなるさ。でも周りからは
弟妹だけ特別視して甘やかしすぎだって言われ」
「うそ」

 普段はどうか分からないけれど魔王を前に弟を前に出す兄は居るだろうか。
 それだけの信頼関係があるとも言えるが。

「自分が厳しく育った分やはり弟妹は可愛くてね。盲目になっていたことは認めるよ。
その結果妹を喪い。本来は厳しく対処するべき立場にありながら弟を見逃した。
むしろあいつが禁忌に踏み込むことを望んだんだ。立場なんてどうでもよかった」
「……」
「例え忘れられようとも。どんな姿であっても妹が生きているだけで構わないと思った。
今もその行動に悔いはない。弟たちが魔物に堕ちた時は俺も望んで堕ちた」

 兄弟の話をする時。いつも胸が苦しくなる。りんごの最初の姿なのに何も
思い出せない歯がゆさ。
 ただ記憶があった所で深い絶望を味わうだけなのだろうけど。彼のように。

「りんごとして生きていた私は皆さんに救われた。そのお返しが出来ているんでしょうか。
妹さんの話を聞く度に後悔してるんじゃないかと思うんです」

 彼らの大事にしている妹がこんな雑魚でいいのか。

「君は姿も声も違うのに妹と一緒に居た時のような感覚がある。
でもやはり少し違う。最初は少し戸惑ったけど今はそれも悪くない。
君が俺の大事な存在には違いないんだ」
「私も皆が大事。りんごとして皆さんを慕ってます」
「とにかく寝たら」
「あの。……毛布とかないですか。何かかけるものが欲しい」
「次はちゃんと準備して持ってくるんだよ」
「はい」

 ですよね。無いですよねそんなもの。言ってみただけ。
寒さは感じないからまだマシだろうか。でも何となく寂しい寝床。
 この世界へ転生して初めて侘しい夕飯とベッドを味わった。




「りんご!ああ、りんごよかった!生きてたぁああ」
「サターヌ」

 翌朝。急いで家に帰ると家の前の道に居たサターヌ。
目があうなり走ってきてギュッとりんごを抱きしめる。

「うわ!獣くさ!」

 でもすぐに逃げるように移動。

「そんな匂う?キトラさんのお家にお風呂無いんだもの」
「すごい臭い!風呂入っておいで薬草を煎じるからそれで体を洗うんだ!」
「そんな大げさな」
「何をされたかは聞かないけどお前からキトラ兄の……ええい!いいから風呂!」
「な、なに?何の匂い?私結構歩いてきたよ?サターヌ?私何されたの?怖い」

 そう言えば今日は全然魔物たちに会わなかったような。
不思議がるりんごを風呂場へ押し込みその後大量の薬草を投入され
 匂いにむせ返りながらも体を洗い流した。
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