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戦いに向けて

17:魔王の資質

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 ちょっとした疑問を抱えながらも体は抵抗せずむしろ足を絡ませて。
更に奥へとエノクを誘うと早速イイ所をグイグイと抉られた。

 一際大きな声を上げ痙攣と共に一瞬意識が遠のいてからの激しい脱力感。
 力なく風呂の床に倒れ込むがすぐ抱き起こされその状態のままじっと座ることに。

 恐らくは傷ついたりんごの体がちゃんと回復するか見ているのだろう。
エノクは真剣な様子でりんごの傷を見つめているけれど。

 こちらはまだお尻から敏感な箇所にかけて熱いものが行き交う痺れた感覚がまだ残っている。

「よし。今までで一番早い回復だ。君の基礎体力が上がっている証拠だね」
「で、でも。なんか違うような」

 切り傷を治すのにこんなにも大掛かりな必要があるんだろうか。
たぶん、いや、絶対無い。聞かなくてもわかっていること。

「そうだ。違うよ……僕は間違っている」
「そんな強い意味はなくて何となく疑問に思っただけで」

 エノクはただ癒そうとしているだけ。あまりにも弱いりんごの強度を
底上げしようとしているだけ。なのはわかっている。

「いくら興奮してもりんごを噛んじゃいけない」
「吸血種ですから血は美味しいですよね」
「味でいうと全然美味しくはないんだけどりんごだと思うと美味しく感じて」
「私は構いませんよ。本気で噛み砕かれるのは多分痛いけど。どうせすぐ直るし」

 人間だった頃も殴られたって日が過ぎれば治っていたし痛みも無くなる。
いつしか消えないアザができたり跡のようなものが残ったりもしたけれど、
それも服を着てしまえば誰にも見られない。気づかれない。

 体が売り物になると決まってからは露骨には殴られなくなったし。

「昔の僕なら君の体に傷をつけたりしないのに。今はキスにも気をつけないといけない。
でも昔の僕じゃ君には会えなかった」
「沢山喪ったから今の私達が居るんです。もう悲しい思いをしないためにも
今を大事にして、少しくらい思ったのと違ってもいいじゃないですか?」
「……そうだね」
「エノクさんは強くてカッコいい魔物です」
「りんご」
「お尻を撫でるのはいいけど穴をなぞるのは駄目」

 最初はしっかり抱きしめていた手が徐々に悪戯にりんごの体に触れだして。
下腹部にまた行くのかと思ったらお尻に伸びた。それ以上触られるのは恥ずかしい。
 やんわりと体を移動させて逃げる。

「でも昔はこっちのほうが好きだったし」
「それは嘘ですよね」
「あー……、でも半分は本当。ちゃんと合意の上で何度か」
「今の私は同意しませんから」
「最初はそう言ってたなぁ。あはは、これはきっと同じ道を歩むね」
「貴方が諦めたらいいだけっ」

 警戒心を強めたりんごによりこれ以上の風呂は危険と見なされて出る。
 エノクは落ち込んだりはせずむしろ楽しそうにしていた。



「お前が欲しがってた物を持ってきたのに何時までも風呂から戻らない。
その辺の奴に呼びに行かせたらりんごと仲良く喘いでるっていうしさ…。
今までずっと待ってたんだけど。何か言う事ある?」
「別に」
「……だと思ったからいいけど」

 りんごはずっと自分を探しているというサターヌの元へ行き。エノクも自分の部屋へ
戻る途中の廊下でとてもくたびれた顔の兄に呼び止められた。
 その手には欲しがっていた素材の入った小さな手のひらサイズの袋。

「りんごに研究室を見せたりしてたんだ。風呂はそのついで」
「お前のおもちゃ部屋か」
「結果りんごを取り戻したんだ。代償を払った価値がある」
「……」
「匂いも質感も中の温もりも全部同じだ。兄さんもそう感じたろ?」
「さあね。獣人の俺が触れるには木偶は脆すぎるよ」

 袋をぽいっとエノクに投げて渡すとさっさと踵を返すキトラ。

「彼女は僕のものだと認めてくれるよね」

 兄を煽るように問いかけるとぴたりと彼の足が止まった。

「彼女をここへ転生させる為にどれだけの魔物や人間を殺した」
「そんな些細な事覚えてるとでも?」
「確かにあの子はただの人形じゃない。だからこそお前が不安なんだ。
兄たちが魔物化しただけでも耐え難いだろうに魔王になったら」
「何でそんな心配を?ソイツはりんごが嫌う悪い奴で僕とは関係ない」
「本気でそう思ってるのか」
「冗談で済むならこんな姿にはなってないだろ?
何より僕らは深く愛し合ってる。だからこそ彼女が応えてくれたんだ」
「違う。お前の執着心が彼女を強引に引き寄せた。サターヌも居るしな。
その面ではお前には勝てない。だからって深く愛し合ったかは関係ない」
「ほら出た。自分こそ魔王に相応しいんじゃないか。その傲慢さなら」
「分かってる。だから俺も気をつけるよ。同じ過ちを繰り返さないように」
「……」

 そう言ってキトラは二度と振り返らずさっさと帰っていった。
もっと言い返されるのかと思っていたのにあっさりで拍子抜け。
少なくとも少し前の長兄ならばもっと激しく言い返してきたはず。
 確認しようもない過去となった自分の最愛を奪われまいと。

 りんごの存在をそれだけ真摯に受け止めているということか。




「サターヌごめんね。怒らないで。今度は3人でお風呂入ろう」
「嫌だ。私はこの体になってから一度も野郎に見せてないんだから」

 その頃。帰宅途中のりんごとサターヌ。
 馬車の中でずっと不機嫌な魔女をなだめ続ける。

「そ、そっか。女の子だもんね」
「女の子って言うなっ」
「ごめんなさいっ」
「あ。ご、ごめん。違うんだよキトラ兄にいつも馬鹿にされててさ。
今日もお嬢ちゃんなんて言われたから。つい。怒ってないよりんごには」
「……いいな。私もそういうのしたいな」
「はあ?」
「兄妹で冗談を言い合うって憧れる。サターヌからしたら許せないことだけど」

 ちょっとくらいイジられてもこれぞ仲良し兄弟という感じで。
 寂しかったりんごからするととても羨ましい。

「い、いいよ。言ってよ。私に冗談を。これでも元兄さんだし」
「今日もすぅっごく美人ですねお兄様!」
「……」
「お、おこった?」
「いや。……悪く、ないね。お兄様…か。うん」
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