二度目の転生は最弱木偶人形!?魔物の世界でも溺愛過保護生活で生き残ります!

堂島うり子

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三巡目の世界:取説

05:木偶人形でも愛されたい

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 今まで生きていることに目標なんて無かった。
それが今唐突に生まれて嬉しくて仕方ないという顔のりんご。
 
 彼女を置いて一旦部屋を出るエノク。
 廊下では話を聞いていた2人が渋い顔で出迎えた。

「ほんっとばぁかなんじゃないの?それともまだ天界の総団長のつもり?」
「煩いな大隊長。じゃあお前ならどう断る」
「断らなくてもどうとでも言いくるめられるでしょ?あの子は純粋な生き物なんだから。
何で魔物が魔王?なんて訳の分からんもんに挑むの?」

 サターヌが即食って掛かる。確かに何とでも言えたかもしれない。
あの子は各所から奪ってきた良いところ取りの木偶の体には不釣り合いなほどに
 無垢な魂を宿しているのだから。

「自分がこの世界で最弱の生き物だって分かってないのかな?
まさか魔物の王の首を欲しがるなんて。どうせ空気が淀んでいて治安が悪い所に居るんだろうな。
汚いのは嫌だけど。本人がやる気なら付き合ってあげたらいいんじゃない?」
「ご自分が天界最強だった事お忘れですかキトラ兄。どっちにしてもあの子は戦うなんて無理だよ」
「こちらの都合で強制的に転生させておいてあの子の希望を潰すのは公平ではないと思うけどね?
サターヌ。それに彼女が戦う必要なんてない。経験豊富な戦闘員が居るから」

 そう言ってキトラは目の前の2人を見つめる。

「また弟に先陣切らせるつもり?前世から変わらんよなこのクズ兄」
「サターヌは女だし僕は体術では劣る吸血種だよ?兄さんはあの頃と違って
完全な接近戦タイプなんだから頑張って弟たちとりんごを守ってよ」
「そうだそうだ。いつも高みの見物ばっかしてさ!何のための爪だよ!」
「自分たちで選んだ道じゃないか甘えるんじゃない。前線で戦うなんて絶対嫌だね」

 喧々囂々と会議がされる中。

 残されていたりんごは眠気に負けて再び眠りについた。いい夢が見られそう。
彼らと天界に居た頃の夢なら良いなと思いながら。

 だけど山のように大きな肉を4人で分けて食べるという夢だった。



 それからまた日は過ぎて。

 新しい体にもすぐに慣れて顔もお腹いっぱいご飯を食べているからかふっくら。
エノクに頼れば体の交換は出来るようだけどそう何度も変わるのは流石に困る。
 出来ればこの姿をずっと保ちたい。それに目標もある。


 先輩魔女のサターヌは攻撃も防御も回復も難なくこなす。いっぽう木偶の体でも
魔物には違いないので魔術は使えるようだけど、貧弱すぎるからか術を放とうと力むだけで
腕に軽いヒビがはいってしまう。
 りんごの体の修理方法は技術は必要ない。強いものから力を分けてもらうだけでいい。

 その方法はなんとキス。

 驚いたけど慣れてしまうと気にはならない。相手が同性で美人のサターヌだから
かもしれないけれど。
 それが今回は何度キスをしてもらってもヒビが治らない。

「……、私に人間態はむりなんです。せっかく転生させてもらっても
この世界では普通に生きていくことすら難しいのかも」

 りんごは魔女の勉強と共に当然この世界の事も学んでいく。
人間と呼べる者は殆どおらず血肉を喰らい争いあう悪い怪物たちの住む場所。
生きることへの執着心や欲望の強さ或いは転化する際に契約した魔物の力。
 
 如何に相手を唆し裏切り食い散らかしてきたか。
それがこの世界での優劣をつける。
 彼らに見限られ捨てられたらりんごは1日も持たないだろう。
 


 サターヌは渋い顔をしたが仕方なくエノクの城へと向かう。

「僕の力が足りなかったせいだ」
「エノクさん」

 事情を説明するとひび割れた手を見てガックリと肩を落とすエノク。
彼が主としてりんごをこの世界へと転生させたのだから。
 それがうまくいかないことはりんごとしても心苦しい。

「辛い思いをさせてごめん。もっといい体を見つけてあげたかったんだけど」
「ううん。私は幸せです。過去の辛い思い出を持ってきてしまったけど。
でも、貴方は楽しい思い出があるのに今こんなに苦しんでる」

 りんごはエノクがどうしても苦しい世界から取り戻したかった妹。
 全ては前世からの強い思いが残っているからだと思うと切ない。

「辛くないよ。こうして君と一緒に居るんだから」

 りんごの頬を撫でる手は冷たい。でも心地いい優しさがある。
 エノクの両目は完全に塞がれているが大体のものは分かるという。

「驚きはしたけど人を捨てたことに未練はないです。
あのまま生きていても親は迎えに来ないし誰からも愛されない…。
魔物は怖いけど今の生き方も受け入れられる」
「りんご」
「見捨てないでくれたら。家族にしてもらえるならどんな形だって嬉しい」
「迎えに行ってよかった。もう一生君を離さないよ。ずっと家族だよ」
「お兄様」

 種族が違うけど大事な家族が出来てりんごは幸せ。

「いっぱい子を産んで増やして賑やかな家庭にしようね」
「子ども」

 え。兄妹で?

 この世界では違うけれど彼は前世の記憶があるはず。倫理的に良いのだろうか。
目を隠されていていても口元がニコニコしてごきげんなのは分かるエノク。
 
 キョトンとするりんご。

「嫌…なの?子どもは嫌いかな?僕たちの子どもはきっと可愛いよ」

 幾ら待っても彼女からの返事がないので不安そうに聞くエノク。

「こど……も?どうやって?」

 ろくな異性との触れ合いもないし処女ではあるが最低限の性教育は受けている。
だけどこの木偶人形の体にそんな機能があるのだろうか。

 異性との性行為、いわゆるセックス。

 サターヌとの森での生活は人間だった頃と同じサイクルでいけたし、
 今のところ彼らとの会話で困ることもあまりないけれど。

「ちゃんと調べてあるから大丈夫。君の中に種を注ぐと産まれる」
「……たね」
「子ども絶対可愛いって。ね?りんご」

 思っていた展開と違ったのか見るからに焦っているエノク。
りんごとしてもしっかりと絆のある家族は欲しいし、普通の女の子なので
 何れは自分を深く愛してくれる異性とも出会いたかったけれども。

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