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三巡目の世界:取説
04:木偶人形は勇者も目指す
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自分の体を作り直せるのならやはり理想的なものにしたい。
特にりんごは今までさんざん容姿を貶されてきたから。
特にチビチビ言われたので相手を見下ろせるくらい大きくなる
なんて、考えるのは意地悪だろうか?
サターヌと話している間も体のパーツがポロポロと落ち始めるので
慌てて彼女の乗り物である馬車に乗せられる。
他の3人は皆強そうなのに何故自分だけこんなにも脆くて特技もない
木偶になってしまったんだろう?
「希望はエノクに言っとくからね」
不公平は何処までも付きまとうのだろうか。体に力が入らなくて
どんどん眠くなってきて目を閉じる。
本当は女性らしく柔らかく温かみのある身体で生まれたかった。
お母さんがどんな人は知らないけれど。そういう感じで。
転生しても悪い子は悪いままだったら嫌だな。
「……もう朝?」
「まだ夜だよ」
「このもふもふさんはキトラさんですね。……優しいふわふわいい匂い」
「そうそう。すっかりしっぽの扱いが上手になったね」
りんごは再びベッドで目を覚ました。けれどやたらと眠くて目が開けられない。
この体の怠い感じは初めてこの世界に来た日と似ている?
でも言葉はしっかり発音できたし動くことも多少は出来た。
だから側にあるのがお気に入りのグレーのふわふわだとすぐ分かる。
目を閉じたままモフモフを堪能。
「……あれ。この温かくてグニーっとしたのは何?」
「なんだろうね。もっと撫でてみれば?」
「はい」
突然手に当たった謎の物体。まだ直接見てはないけれど。
なんだろうこれは?今まで触ったことがない毛のない部分?
いや、一部毛のある何か。
りんごがその形をなぞる度にビクビクっと反応しているような。
「そこまでだ。噛み砕いて肉と血に転生させてあげる」
「その不埒なパーツを切り取ってあげるから」
「まだ居たんだ君たち」
まだしっかりと目を開けられないで居たけれど低い声が2人参加。
自分も話に加わりたくて誘惑に負けずに目を開けると
この世界で最初に見た部屋のベッド。
隣に寝ているキトラ。お怒りの形相で立っている2人。
そして自分は色白で胸の豊満な成人女性の体。
「これが私の新しい体」
「そうだよ。君に相応しい逸材を用意した」
これでサターヌと同じように魔女の術がつかえるようになる?
「それより何時までそこにいるの?さっさと離れてよ」
「想像より遥かに上手に撫でてくれるから今出るのは不味いなぁ」
「エノク」
「汚らわしい獣の血は不味いだろうけど仕方ない…」
エノクがゆっくりと口を開くとどんどん耳元まで裂けていって。
口にいっぱいのギザギザの尖った歯が見えた。
「待て待て。彼女の前でそんな怖いことしたら駄目でしょ」
「アンタが言うな」
一旦離席する3名。何もなければ良いけれど。
「新しい体は気に入ってくれた?」
「はい」
暫くして何もなかったように戻ってきたエノク。
側に座ってそっとりんごの頭を撫でる。
「何を失おうとかまわない。もうずっと一緒だよ」
「お兄さんと呼ぶべきですか?」
「どちらでもいい。僕らの記憶の中でしかない関係だから」
「私には無い記憶です」
兄、と言われてもしっくりこないし大事にされる謂れも無い。
不安もあるけれどそれでも優しくされるのは堪らなく嬉しい。
一緒にいられるなら多少の悪いこともしようと思えるくらいには。
「記憶は……、新しい世界には必要ないから消した。
僕らの場合は過去を背負って生きていけと敢えて残されたけど」
「残念です。人間だった頃は家族が居なくて寂しい人生だったから。
その記憶は転生しても消えないのに……」
「今回は転生というよりは強引に魂を器に移したようなものだから」
「でもこれからは兄姉が居るんですよね。嬉しい」
ひとりじゃない。悲しい時も辛いときも一緒に居てくれる。
1人でギュッと手を握って耐えなくてもいい。
「僕も嬉しい。でも、君はまだ不安定で目が離せない状況なんだ。
堕落した訳でも魔に転化した訳でもない存在だから適応できないでいる。
わかりやすく言えば…脆くて、非常に弱い。
そのために必要なのが僕と君で内なる力を強めること」
「というと?血を飲むとかですか?」
「時が来たら実践して説明するから。安心して」
ニヤリと笑うエノク。歯がちょっと怖いけれど悪い存在ではない。
それはもうわかっている。
りんごを助け強く求める吸血種のお兄ちゃん。
「何かお礼をしないと。でも何も持ってないし…」
「それより君は何か希望とかないのか?」
「温かいご飯をお腹いっぱい食べるのと後は…こ、恋をする…とか」
「それは僕が居るから考えるまでもなく解決だね。こういうのはどうかな。
一緒に魔女の力を上げて最後は僕と」
「パーティを組んで魔王を倒しに行くんですか!?カッコいい!」
「え?魔王って何?」
まさかの返事にキョトンとした顔をするエノク。
だがりんごは初めて見せるくらいのキラキラした顔。
「悪いことをする魔物の王様です!森で噂を聞きました。可哀想に…」
「でもここは魔物の世界だから人間の善悪なんてものは」
「人間だった頃は何の役にも立たないって言われてきたけど。
困っている魔物ちゃんたちの役にたてたら幸せです!」
数秒の間の後。
「……よ、よし。そうしよう。魔王を倒そう」
特にりんごは今までさんざん容姿を貶されてきたから。
特にチビチビ言われたので相手を見下ろせるくらい大きくなる
なんて、考えるのは意地悪だろうか?
サターヌと話している間も体のパーツがポロポロと落ち始めるので
慌てて彼女の乗り物である馬車に乗せられる。
他の3人は皆強そうなのに何故自分だけこんなにも脆くて特技もない
木偶になってしまったんだろう?
「希望はエノクに言っとくからね」
不公平は何処までも付きまとうのだろうか。体に力が入らなくて
どんどん眠くなってきて目を閉じる。
本当は女性らしく柔らかく温かみのある身体で生まれたかった。
お母さんがどんな人は知らないけれど。そういう感じで。
転生しても悪い子は悪いままだったら嫌だな。
「……もう朝?」
「まだ夜だよ」
「このもふもふさんはキトラさんですね。……優しいふわふわいい匂い」
「そうそう。すっかりしっぽの扱いが上手になったね」
りんごは再びベッドで目を覚ました。けれどやたらと眠くて目が開けられない。
この体の怠い感じは初めてこの世界に来た日と似ている?
でも言葉はしっかり発音できたし動くことも多少は出来た。
だから側にあるのがお気に入りのグレーのふわふわだとすぐ分かる。
目を閉じたままモフモフを堪能。
「……あれ。この温かくてグニーっとしたのは何?」
「なんだろうね。もっと撫でてみれば?」
「はい」
突然手に当たった謎の物体。まだ直接見てはないけれど。
なんだろうこれは?今まで触ったことがない毛のない部分?
いや、一部毛のある何か。
りんごがその形をなぞる度にビクビクっと反応しているような。
「そこまでだ。噛み砕いて肉と血に転生させてあげる」
「その不埒なパーツを切り取ってあげるから」
「まだ居たんだ君たち」
まだしっかりと目を開けられないで居たけれど低い声が2人参加。
自分も話に加わりたくて誘惑に負けずに目を開けると
この世界で最初に見た部屋のベッド。
隣に寝ているキトラ。お怒りの形相で立っている2人。
そして自分は色白で胸の豊満な成人女性の体。
「これが私の新しい体」
「そうだよ。君に相応しい逸材を用意した」
これでサターヌと同じように魔女の術がつかえるようになる?
「それより何時までそこにいるの?さっさと離れてよ」
「想像より遥かに上手に撫でてくれるから今出るのは不味いなぁ」
「エノク」
「汚らわしい獣の血は不味いだろうけど仕方ない…」
エノクがゆっくりと口を開くとどんどん耳元まで裂けていって。
口にいっぱいのギザギザの尖った歯が見えた。
「待て待て。彼女の前でそんな怖いことしたら駄目でしょ」
「アンタが言うな」
一旦離席する3名。何もなければ良いけれど。
「新しい体は気に入ってくれた?」
「はい」
暫くして何もなかったように戻ってきたエノク。
側に座ってそっとりんごの頭を撫でる。
「何を失おうとかまわない。もうずっと一緒だよ」
「お兄さんと呼ぶべきですか?」
「どちらでもいい。僕らの記憶の中でしかない関係だから」
「私には無い記憶です」
兄、と言われてもしっくりこないし大事にされる謂れも無い。
不安もあるけれどそれでも優しくされるのは堪らなく嬉しい。
一緒にいられるなら多少の悪いこともしようと思えるくらいには。
「記憶は……、新しい世界には必要ないから消した。
僕らの場合は過去を背負って生きていけと敢えて残されたけど」
「残念です。人間だった頃は家族が居なくて寂しい人生だったから。
その記憶は転生しても消えないのに……」
「今回は転生というよりは強引に魂を器に移したようなものだから」
「でもこれからは兄姉が居るんですよね。嬉しい」
ひとりじゃない。悲しい時も辛いときも一緒に居てくれる。
1人でギュッと手を握って耐えなくてもいい。
「僕も嬉しい。でも、君はまだ不安定で目が離せない状況なんだ。
堕落した訳でも魔に転化した訳でもない存在だから適応できないでいる。
わかりやすく言えば…脆くて、非常に弱い。
そのために必要なのが僕と君で内なる力を強めること」
「というと?血を飲むとかですか?」
「時が来たら実践して説明するから。安心して」
ニヤリと笑うエノク。歯がちょっと怖いけれど悪い存在ではない。
それはもうわかっている。
りんごを助け強く求める吸血種のお兄ちゃん。
「何かお礼をしないと。でも何も持ってないし…」
「それより君は何か希望とかないのか?」
「温かいご飯をお腹いっぱい食べるのと後は…こ、恋をする…とか」
「それは僕が居るから考えるまでもなく解決だね。こういうのはどうかな。
一緒に魔女の力を上げて最後は僕と」
「パーティを組んで魔王を倒しに行くんですか!?カッコいい!」
「え?魔王って何?」
まさかの返事にキョトンとした顔をするエノク。
だがりんごは初めて見せるくらいのキラキラした顔。
「悪いことをする魔物の王様です!森で噂を聞きました。可哀想に…」
「でもここは魔物の世界だから人間の善悪なんてものは」
「人間だった頃は何の役にも立たないって言われてきたけど。
困っている魔物ちゃんたちの役にたてたら幸せです!」
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「……よ、よし。そうしよう。魔王を倒そう」
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