殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi

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ダレイオス王子の処遇が決まっているとはいえ本人から事情を聞かないのも良くないと考え、最後のチャンスのつもりで国王はダレイオス王子を呼び出し事実を確認することにした。

呼び出されたダレイオス王子は婚約破棄の件だと察し、どう問題を切り抜けるか考え、浮気の事実で押し切れると甘く考えていた。

そして一通り釈明をしたのだが、当然国王は納得していなかった。

「ダレイオスよ、そのような嘘が通じると本気で考えているのか?」
「ですから浮気の現場を押さえました。側近たちに訊けば証言も得られるでしょう」
「では手紙は何だと考える? あのような物があれば誰かに嵌められたとも考えられないか?」
「それは違います。もし浮気現場を押さえられた場合の言い訳に使うつもりだったのでしょう」
「そもそも手紙のような証拠を自ら作るほうが問題だと思うのだが、どう考える?」
「……確かに」

ダレイオス王子なりの精一杯の知恵はあっさりと水泡に帰した。
相手を嵌めるにしても詰めが甘すぎであり、これでは将来重要な問題を任せることはできないと国王は思い、やはり他国へ送り出すべきだという思いを強めた。

「ならば手紙は誰かの意図で書かれたもので、それは浮気現場だと言いがかりをつけるためではないのか?」
「そのように思えます」
「ではいったい誰がそのような手紙を書いてフィオナ嬢に浮気の濡れ衣を着せようとしたのかな?」
「……わかりません」

こうなってしまえばダレイオス王子は知らぬ存ぜぬを押し通すしかない。
そのような意図すら見透かした国王は心底落胆し、もうこれ以上のやり取りは時間の無駄だと判断し、ダレイオスに処分を伝える。

「もうよい、この件は終わりだ。もう婚約破棄してしまったのだからダレイオスとフィオナ嬢の婚約は破棄され撤回されることはない。いいな?」
「わかりました」
「だが婚約破棄というのは体裁が悪い。そこで良い相手からの縁談があったことにしてフィオナ嬢との婚約は円満に解消したことにする」
「はい」
「それとダレイオスの新たな婚約者はこちらで探しておく。異論は許さん。婚約者がいないからと女遊びしたりはするなよ?」
「わかりました」

罰を明言されなかったためダレイオス王子は安堵したが、国王の雰囲気からは許されていないことが感じられ、これで問題が終わりではないと予感した。
だが王子という身分に胡坐をかき、後から厳しい処分は下されないだろうと楽観視した。
知らぬ存ぜぬが通用したと思い込んだことも理由の一つだった。





婚約破棄の件が片付き、表向きの理由を知らされたフィオナは問題が片付いたことで気持ちに区切りを付けられた。

「円満に婚約解消したことになったのですね。わかりました」
「これでノーマンと婚約しても問題なくなったが、少し時間を置いたほうがいいだろうな」
「わかっています」
「いつになるかはわからんが、ダレイオス殿下は他国の者と婚約することになるだろう。その発表を待ってからだな」
「はい」

フィオナとノーマンの婚約はアシュフォード伯爵にとって既定路線となっていた。

フィオナにとってもノーマンの気持ちは明らかであり、慌てることもなかった。
婚約することがほぼ確定しているのだから多少待つくらいどうということはなかった。





後日、フィオナとダレイオス王子の婚約は解消されたと発表された。
理由は明らかにされていないが噂では良い縁談があったからとされている。

縁談のためには婚約者がいては問題になるため、縁談に備えて婚約を解消したのだと人々は納得した。
フィオナに非がないことは明らかであり、アシュフォード公爵家の令嬢であるフィオナよりも優先するような相手は誰なのかと社交界で噂された。





余談ながら致命的な事態を無事乗り切れたネイトとロールズ男爵はノーマンに感謝し、ストラウド侯爵家に頭が上がらなくなった。
とはいえ弱小貴族家にとっては悪くない話であり、ある意味一番上手に事態を乗り切ったのかもしれない。

なおダレイオス王子がネイトを守ろうとしなかったため、取り巻きたちはダレイオス王子を見限った。
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