4 / 8
4.
しおりを挟む
マントンがグラディスと離婚した話は社交界でも十分に広まっている。
何しろハンセル公爵家とウィンストン公爵家のことだから影響力が強く、どちらに肩入れするか、あるいは両家から距離を取るか、判断次第で貴族家の命運を分けることになり兼ねない。
そうなれば噂の真偽について表面的なものに惑わされるわけにはいかず、真相を知ろうとせずにはいられない。
そこで新たに広まった噂がマントンにとっては問題だった。
「俺がグラディスの有責だとでっち上げただと!?」
事実ではあるが、自分が悪者になるのはマントンの望んだものではなく、誰が噂を流したのか突き止めてやると鼻息を荒くした。
その意思は固く、周囲の人間や社交の場でも自らの潔白を話し、事実無根の噂を流した相手を絶対に許さないとマントンは息巻いていた。
マントンの精力的な活動は続く。
ある社交パーティーに参加したときのことだ。
「これはこれはウェブスター殿下ではありませんか。このような場でお会いできるとは光栄です」
「マントン殿、随分と活発に活動しているようだな。噂は聞いている。大変なことになったようだな」
「はい。誰のせいなのかはわかりませんが、俺が悪者に仕立て上げようとするのですから悪意しか感じられません。犯人を突き止めて絶対に後悔させてやります」
相手が王子であろうともマントンは自らの主張を強く訴える姿勢に変わりはない。
ウェブスターの表情も変化せず、顔色を窺うマントンはウェブスターも自らの主張を疎ましく思ってはいないと解釈した。
「絶対に後悔させてやるとは随分な意気込みだな。どう後悔させてやるつもりなんだ?」
「そうですね……。ここまで名誉を貶めたのだから謝罪程度で済ませられるはずがありません。相手の立場にもよりますがハンセル公爵家への侮辱であり敵対行為です。最悪、家がつぶれることもあるでしょう」
「ほほぅ? それほどまでに腹を立てていたとはな……」
「無論です。謂れなき誹謗中傷には断固とした姿勢で臨まなければハンセル公爵家の面目が立ちません」
(ここまで無能だったとはな。グラディスが解放されたことは喜ばしいが、できれば結婚自体を阻止したかったものだ)
どこまでも強気のマントンにウェブスターは感心し、グラディスの不幸な生活を想像し胸が苦しくなり、目の前の男を絶対に許さないと心に決めた。
「立派な決意だな。そこまで意思が固いなら手を貸してやろうか? 王家の名にかけてな」
王子まで協力してくれるとなれば犯人にとって致命的な処分が期待でき、自らの主張を信じ助力してくれるウェブスターを取り込めば自分にとって有利になるとマントンは考えた。
だから答えは決まっている。
「ウェブスター殿下の助力を得られるなら心強いです。是非ともお願いします」
「ああ、いいだろう。この場にいる全員が証人だ。俺、ウェブスターは王家の名にかけてマントンとグラディスの離婚の真相を明らかにし、事実無根の噂を広めた相手に徹底的な制裁を下すことを約束する。これはマントン・ハンセル殿の望んだことでもある。間違いないな、マントン殿?」
「はい、ウェブスター殿下の御助力、感謝します」
自然と拍手がパーティー会場を埋め尽くした。
こうなれば噂を流した犯人は王家のみならず多くの貴族家を敵に回すことになるだろうとマントンは考え、ウェブスター王子との縁も深まり、自身にとってもハンセル公爵家にとっても良い未来に続きそうだと思った。
拍手が鳴りやみ、ウェブスターは告げる。
「噂を広めたのは俺だ」
時間が止まったかのように誰もが息を呑み微動だにしなかった。
何しろハンセル公爵家とウィンストン公爵家のことだから影響力が強く、どちらに肩入れするか、あるいは両家から距離を取るか、判断次第で貴族家の命運を分けることになり兼ねない。
そうなれば噂の真偽について表面的なものに惑わされるわけにはいかず、真相を知ろうとせずにはいられない。
そこで新たに広まった噂がマントンにとっては問題だった。
「俺がグラディスの有責だとでっち上げただと!?」
事実ではあるが、自分が悪者になるのはマントンの望んだものではなく、誰が噂を流したのか突き止めてやると鼻息を荒くした。
その意思は固く、周囲の人間や社交の場でも自らの潔白を話し、事実無根の噂を流した相手を絶対に許さないとマントンは息巻いていた。
マントンの精力的な活動は続く。
ある社交パーティーに参加したときのことだ。
「これはこれはウェブスター殿下ではありませんか。このような場でお会いできるとは光栄です」
「マントン殿、随分と活発に活動しているようだな。噂は聞いている。大変なことになったようだな」
「はい。誰のせいなのかはわかりませんが、俺が悪者に仕立て上げようとするのですから悪意しか感じられません。犯人を突き止めて絶対に後悔させてやります」
相手が王子であろうともマントンは自らの主張を強く訴える姿勢に変わりはない。
ウェブスターの表情も変化せず、顔色を窺うマントンはウェブスターも自らの主張を疎ましく思ってはいないと解釈した。
「絶対に後悔させてやるとは随分な意気込みだな。どう後悔させてやるつもりなんだ?」
「そうですね……。ここまで名誉を貶めたのだから謝罪程度で済ませられるはずがありません。相手の立場にもよりますがハンセル公爵家への侮辱であり敵対行為です。最悪、家がつぶれることもあるでしょう」
「ほほぅ? それほどまでに腹を立てていたとはな……」
「無論です。謂れなき誹謗中傷には断固とした姿勢で臨まなければハンセル公爵家の面目が立ちません」
(ここまで無能だったとはな。グラディスが解放されたことは喜ばしいが、できれば結婚自体を阻止したかったものだ)
どこまでも強気のマントンにウェブスターは感心し、グラディスの不幸な生活を想像し胸が苦しくなり、目の前の男を絶対に許さないと心に決めた。
「立派な決意だな。そこまで意思が固いなら手を貸してやろうか? 王家の名にかけてな」
王子まで協力してくれるとなれば犯人にとって致命的な処分が期待でき、自らの主張を信じ助力してくれるウェブスターを取り込めば自分にとって有利になるとマントンは考えた。
だから答えは決まっている。
「ウェブスター殿下の助力を得られるなら心強いです。是非ともお願いします」
「ああ、いいだろう。この場にいる全員が証人だ。俺、ウェブスターは王家の名にかけてマントンとグラディスの離婚の真相を明らかにし、事実無根の噂を広めた相手に徹底的な制裁を下すことを約束する。これはマントン・ハンセル殿の望んだことでもある。間違いないな、マントン殿?」
「はい、ウェブスター殿下の御助力、感謝します」
自然と拍手がパーティー会場を埋め尽くした。
こうなれば噂を流した犯人は王家のみならず多くの貴族家を敵に回すことになるだろうとマントンは考え、ウェブスター王子との縁も深まり、自身にとってもハンセル公爵家にとっても良い未来に続きそうだと思った。
拍手が鳴りやみ、ウェブスターは告げる。
「噂を広めたのは俺だ」
時間が止まったかのように誰もが息を呑み微動だにしなかった。
338
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
完結 私の人生に貴方は要らなくなった
音爽(ネソウ)
恋愛
同棲して3年が過ぎた。
女は将来に悩む、だが男は答えを出さないまま……
身を固める話になると毎回と聞こえない振りをする、そして傷つく彼女を見て男は満足そうに笑うのだ。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
婚約破棄しようがない
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「アンリエット、貴様との婚約を破棄する!私はリジョーヌとの愛を貫く!」
卒業式典のパーティーでばかでかい声を上げ、一人の男爵令嬢を抱き寄せるのは、信じたくはないがこの国の第一王子。
「あっそうですか、どうぞご自由に。と言うかわたくしたち、最初から婚約してませんけど」
そもそも婚約自体成立しないんですけどね…
勘違い系婚約破棄ものです。このパターンはまだなかったはず。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる