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マントンがグラディスと離婚した話は社交界でも十分に広まっている。
何しろハンセル公爵家とウィンストン公爵家のことだから影響力が強く、どちらに肩入れするか、あるいは両家から距離を取るか、判断次第で貴族家の命運を分けることになり兼ねない。
そうなれば噂の真偽について表面的なものに惑わされるわけにはいかず、真相を知ろうとせずにはいられない。

そこで新たに広まった噂がマントンにとっては問題だった。

「俺がグラディスの有責だとでっち上げただと!?」

事実ではあるが、自分が悪者になるのはマントンの望んだものではなく、誰が噂を流したのか突き止めてやると鼻息を荒くした。
その意思は固く、周囲の人間や社交の場でも自らの潔白を話し、事実無根の噂を流した相手を絶対に許さないとマントンは息巻いていた。





マントンの精力的な活動は続く。
ある社交パーティーに参加したときのことだ。

「これはこれはウェブスター殿下ではありませんか。このような場でお会いできるとは光栄です」
「マントン殿、随分と活発に活動しているようだな。噂は聞いている。大変なことになったようだな」
「はい。誰のせいなのかはわかりませんが、俺が悪者に仕立て上げようとするのですから悪意しか感じられません。犯人を突き止めて絶対に後悔させてやります」

相手が王子であろうともマントンは自らの主張を強く訴える姿勢に変わりはない。
ウェブスターの表情も変化せず、顔色を窺うマントンはウェブスターも自らの主張を疎ましく思ってはいないと解釈した。

「絶対に後悔させてやるとは随分な意気込みだな。どう後悔させてやるつもりなんだ?」
「そうですね……。ここまで名誉を貶めたのだから謝罪程度で済ませられるはずがありません。相手の立場にもよりますがハンセル公爵家への侮辱であり敵対行為です。最悪、家がつぶれることもあるでしょう」
「ほほぅ? それほどまでに腹を立てていたとはな……」
「無論です。謂れなき誹謗中傷には断固とした姿勢で臨まなければハンセル公爵家の面目が立ちません」

(ここまで無能だったとはな。グラディスが解放されたことは喜ばしいが、できれば結婚自体を阻止したかったものだ)

どこまでも強気のマントンにウェブスターは感心し、グラディスの不幸な生活を想像し胸が苦しくなり、目の前の男を絶対に許さないと心に決めた。

「立派な決意だな。そこまで意思が固いなら手を貸してやろうか? 王家の名にかけてな」

王子まで協力してくれるとなれば犯人にとって致命的な処分が期待でき、自らの主張を信じ助力してくれるウェブスターを取り込めば自分にとって有利になるとマントンは考えた。
だから答えは決まっている。

「ウェブスター殿下の助力を得られるなら心強いです。是非ともお願いします」
「ああ、いいだろう。この場にいる全員が証人だ。俺、ウェブスターは王家の名にかけてマントンとグラディスの離婚の真相を明らかにし、事実無根の噂を広めた相手に徹底的な制裁を下すことを約束する。これはマントン・ハンセル殿の望んだことでもある。間違いないな、マントン殿?」
「はい、ウェブスター殿下の御助力、感謝します」

自然と拍手がパーティー会場を埋め尽くした。
こうなれば噂を流した犯人は王家のみならず多くの貴族家を敵に回すことになるだろうとマントンは考え、ウェブスター王子との縁も深まり、自身にとってもハンセル公爵家にとっても良い未来に続きそうだと思った。

拍手が鳴りやみ、ウェブスターは告げる。

「噂を広めたのは俺だ」

時間が止まったかのように誰もが息を呑み微動だにしなかった。
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