浮気の一つでもしてくれれば離婚できたのに……。

3.

貴族の社交の場では真偽不明の様々な噂が飛び交う。
グラディスに問題がありマントンから離婚されたという噂も広まり、少なくとも離婚の事実は正しく、本当の離婚の理由は何なのかと人々が話題に上げることもあった。
浮気しただの金遣いが荒いだの根拠のない誹謗中傷のような噂もあり、人々は面白半分に無責任なことを言い合い盛り上がっていた。

（下種どもめ。何も知らないくせに無責任に好き勝手言ってくれる。それよりもグラディスは大丈夫なのだろうか）

そのような中、王子であるウェブスターも噂を耳にし、貴族たちのあまりの醜態にいらついていた。
既知の間柄であるグラディスの現状も気になり、気になってしまえば直接確認したくなり、会おうと決めてしまった。

「ウェブスター殿下、楽しまれておられますか？」
「ああ」

未だに婚約者がいないウェブスターに取り入ろうとする令嬢に話しかけられ、義務感から心にもない言葉と態度を返す。
こんなくだらない相手との会話なんてしたくないと思い、そのような振る舞いが許されない立場に苦しんだ。
もっと心が安らげる相手と婚約したいと思いつつ今になってしまった。

（こんな日々ももう終わらせるべきだな）

令嬢と会話してもウェブスターは目の前の相手のことを意識していなかった。





「ウェブスター殿下がお越しになるのですか！？」
「ああ。そういった連絡があった。グラディスに会いたいということだ」

ウェブスターがウィンストン公爵家を訪ねたいという申し出があり、非公式ながらもグラディスに会うことが目的だと伝えられ、ウィンストン公爵もグラディスも動揺した。
本来であれば婚約していたいかもしれない二人であり、しかもウェブスターは未だに婚約者がいない。
離婚したタイミングといい、グラディスは諦めていた想いが蘇り、ウェブスターの目的に期待せずにはいられなかった。





待ち望んだ再会の日。
ウィンストン公爵邸を訪れたウェブスターはウィンストン公爵との挨拶と僅かな会話をし、グラディスと二人で話せる場を用意された。

「会いたかったよ、グラディス」
「ウェブスター殿下、私もです」
「いろいろと話したいことはあるけど、まずは確認させてほしい。マントンからの離婚はグラディスの有責という噂だが、嘘だろう？」
「そういう理由にすれば離婚に応じると言われたので、事実とも事実ではないとも言えます」
「ははっ、マントンのやりそうなことだな。全くどれだけグラディスを苦しめるというのか……」

ウェブスターが自分のことのように怒ってくれたことをグラディスは嬉しく感じ、嘘に惑わされない聡明さに惹かれずにはいられなかった。

（やはり私にはウェブスター殿下しかないわね）

グラディスは改めてウェブスターへの想いに気付かされた。
ウェブスターと婚約できる立場になったとはいえ離婚後にすぐに婚約するようではウェブスターが何かしたのではないかと勘繰られることになり兼ねない。
それは二人にとって不本意なものであり、理解も自制心もあった二人は相手の本心に踏み込むこともなく会話を続けた。
それでも二人にとっては楽しい時間であり、別れる時間になりさみしさを感じずにはいられなかった。

「また会おう、グラディス。できれば多くの問題が片付いた後で」
「そうなることをお待ちしています」
「ああ、期待していてれ」

言葉を違えるようなウェブスターでないことを理解しているグラディスは言葉通りに受け止め期待した。

（きっと何かしてくれるのよね）