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縁談の日、約束の時間に顔を合わせたオリビアとギルフォードは、両者とも気恥ずかしさのあまり顔をまともに見ることができなかった。
気を使った両家の両親により二人だけの会話の場が設けられたが、やはりお互いの態度は変わらない。
だがここで恥ずかしがっていては縁談が失敗に終わってしまうかもしれず、ギルフォードはこういったときに自分がリードしなければならないと決意した。
「あの……オリビア嬢。こうやって縁談を迎えることができてすごく幸せです」
「ありがとうございます。私もギルフォード様とお話できることを何よりも嬉しく思います」
お互いにいっぱいいっぱいなので何を言っているのかわからず、それからも限界ギリギリの会話が続いたが、ついに耐えきれなくなって二人とも噴き出してしまった。
「あはは、もう駄目だよ。どうもオリビア嬢を前にすると緊張してしまうよ」
「私もギルフォード様の前だと恥ずかしくなってしまい自分らしくいられません」
間接的にではあるが、お互いに相手のことを意識しすぎているから上手く振る舞えないということであり、それは相手への好意が隠れているからだと理解しあった。
そうなってしまえば何を恥ずかしがることがあるというのか。
「実は以前からオリビア嬢の控えめなところを好ましく思っていたんだ。でもこうやって会ってみて違う一面も見れて嬉しいよ。どうか俺の前では素直な自分でいてほしい」
「よろしいのですか? 私もいろいろな事情があるのでギルフォード様も苦労することになるかもしれませんよ?」
「オリビア嬢のための苦労なら喜んで。もちろんそれが二人の幸せになるなら、という条件がつくけどね」
「そこまで言っていただけて嬉しいです」
吹っ切れた二人は好意を隠さなくなり、もう婚約することが確定しているかのように会話を続けた。
そして決定的な言葉をギルフォードは告げる。
「ではもっと喜んでもらおうか。どうか俺と婚約してほしい。幸せになろう。何があっても一緒だ」
「……嬉しいです。婚約、承ります」
こうして二人の婚約は成立し、オルブライト公爵家とファーディナンド公爵家の縁が強まることが確定した。
これにより国内の勢力図が変動するのだが、文句を言うべき対抗派閥は派閥内の有力貴族家であるウィルキンス侯爵家の失態により、この問題では口出しできなくなっていた。
他の派閥は力が弱く、文句を言えるような立場ではない。
こうなることはストラスバーグ大公の予想通りだった。
婚約後も二人の関係は良好で、これほどまでにお似合いの二人はいないと言われるほど誰もが羨み憧れるような幸せ溢れる関係だった。
嫉妬しようにも下手なことをすればオルブライト公爵家とファーディナンド公爵家を敵にするため何もできない。
ストラスバーグ大公は関与を表沙汰にすると特定の勢力派閥に肩入れしていると見なされるため、表向きな無関係を装っていた。
関与していることを知っているような有力な貴族家であれば余計なことをするはずもなく、関与していることすら知らないような有象無象の貴族家であれば余計なことは命取りとなる。
誰の反対もなく、オリビアとギルフォードは結婚の日を迎えることになった。
ウェディングドレスに身を包んだオリビアは幸せそうで、世界中の誰よりも幸せであり美しいとストラスバーグ大公は感慨深く見守った。
愛した女性が平民だったため娶ることはできず、授かった子の出産と引き換えに命を落とした最愛の女性。
生まれた子とは親子であることを表沙汰にできず、苦渋の選択でオルブライト公爵の娘として育てられることになった。
娘は育ち真実を明かされたが、誰にも明かせない秘密として守り続けた。
もし誰かが何か言おうものならオルブライト公爵家とファーディナンド公爵家のみならず、ストラスバーグ大公まで敵にすることになる。
目聡い貴族は触れてはならないものとして認識していた。
実の娘が幸せになる光景を見たストラスバーグ大公の目からは一滴の涙が零れ落ちた。
気を使った両家の両親により二人だけの会話の場が設けられたが、やはりお互いの態度は変わらない。
だがここで恥ずかしがっていては縁談が失敗に終わってしまうかもしれず、ギルフォードはこういったときに自分がリードしなければならないと決意した。
「あの……オリビア嬢。こうやって縁談を迎えることができてすごく幸せです」
「ありがとうございます。私もギルフォード様とお話できることを何よりも嬉しく思います」
お互いにいっぱいいっぱいなので何を言っているのかわからず、それからも限界ギリギリの会話が続いたが、ついに耐えきれなくなって二人とも噴き出してしまった。
「あはは、もう駄目だよ。どうもオリビア嬢を前にすると緊張してしまうよ」
「私もギルフォード様の前だと恥ずかしくなってしまい自分らしくいられません」
間接的にではあるが、お互いに相手のことを意識しすぎているから上手く振る舞えないということであり、それは相手への好意が隠れているからだと理解しあった。
そうなってしまえば何を恥ずかしがることがあるというのか。
「実は以前からオリビア嬢の控えめなところを好ましく思っていたんだ。でもこうやって会ってみて違う一面も見れて嬉しいよ。どうか俺の前では素直な自分でいてほしい」
「よろしいのですか? 私もいろいろな事情があるのでギルフォード様も苦労することになるかもしれませんよ?」
「オリビア嬢のための苦労なら喜んで。もちろんそれが二人の幸せになるなら、という条件がつくけどね」
「そこまで言っていただけて嬉しいです」
吹っ切れた二人は好意を隠さなくなり、もう婚約することが確定しているかのように会話を続けた。
そして決定的な言葉をギルフォードは告げる。
「ではもっと喜んでもらおうか。どうか俺と婚約してほしい。幸せになろう。何があっても一緒だ」
「……嬉しいです。婚約、承ります」
こうして二人の婚約は成立し、オルブライト公爵家とファーディナンド公爵家の縁が強まることが確定した。
これにより国内の勢力図が変動するのだが、文句を言うべき対抗派閥は派閥内の有力貴族家であるウィルキンス侯爵家の失態により、この問題では口出しできなくなっていた。
他の派閥は力が弱く、文句を言えるような立場ではない。
こうなることはストラスバーグ大公の予想通りだった。
婚約後も二人の関係は良好で、これほどまでにお似合いの二人はいないと言われるほど誰もが羨み憧れるような幸せ溢れる関係だった。
嫉妬しようにも下手なことをすればオルブライト公爵家とファーディナンド公爵家を敵にするため何もできない。
ストラスバーグ大公は関与を表沙汰にすると特定の勢力派閥に肩入れしていると見なされるため、表向きな無関係を装っていた。
関与していることを知っているような有力な貴族家であれば余計なことをするはずもなく、関与していることすら知らないような有象無象の貴族家であれば余計なことは命取りとなる。
誰の反対もなく、オリビアとギルフォードは結婚の日を迎えることになった。
ウェディングドレスに身を包んだオリビアは幸せそうで、世界中の誰よりも幸せであり美しいとストラスバーグ大公は感慨深く見守った。
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もし誰かが何か言おうものならオルブライト公爵家とファーディナンド公爵家のみならず、ストラスバーグ大公まで敵にすることになる。
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実の娘が幸せになる光景を見たストラスバーグ大公の目からは一滴の涙が零れ落ちた。
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