私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi

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ウェスリーが勝手に婚約破棄したことで、ウィルキンス侯爵はストラスバーグ大公に面談の約束を取り付け、説明と謝罪をしていた。

「……ウィルキンス侯爵の事情は把握した。全てウェスリーの独断であり責任だというのだな?」
「はい、その通りです」

ストラスバーグ大公がウェスリーを見限っていることは敬称もつけないことからも明らかであり、それを察することができないウィルキンス侯爵ではなかった。
しかしストラスバーグ大公が冷静に対応していることから感情的になるほどの激怒はしていないと判断し、これならウィルキンス侯爵家は存続できるかもしれないと希望を抱いた。

「ウェスリーからの謝罪はないのだな」
「本人が悪いという自覚がないので謝罪は無理でしょう。無理矢理謝罪させたところで反省するどころか逆恨みするかもしれません」
「ふむ……。別にウェスリーからの謝罪は求めぬ。自覚がないのであれば尚更だ」
「不出来な息子で申し訳ありません」

深く頭を下げるウィルキンス侯爵。
少なくともウィルキンス侯爵は事態の深刻さを理解しており、また、秘密を洩らさなかったこともあり、ストラスバーグ大公としては寛大な処置をするに値すると判断した。

「まあ良い。問題はウェスリーの処遇だ。どうしたものかな?」
「処刑を求められるのであれば受け入れます」
「それは求めておらん。だがそれくらい重い処分を下すべきだろうな」

下手に処刑してしまえばオリビアが気にするかもしれないと考え、ストラスバーグ大公は処刑は求めなかった。
しかし重い処分を求めているため、ウィルキンス公爵は返事を間違えるとウィルキンス存続の可能性が失せてしまう事になり兼ねないため、慎重に考え、処分を決めた。

「一生鉱山で働かせることにしたいと思います」
「そうか、妥当なところだな」

鉱山から出てこないのであればオリビアに何かできるはずもなく、仮に事故で命を落としたとしても不運な事故であるためオリビアが気に病む必要もなく、ストラスバーグ公爵は悪くない処分だと考えた。
こうしてウィルキンス侯爵家はウェスリーに責任を取らせることで貴族家として存続することになった。

(ウェスリー一人の処分で助かった。ウェスリーは自業自得だ。だがウィルキンス侯爵家は存続できる)

ウィルキンス侯爵は胸を撫で下ろした。




帰宅したウィルキンス侯爵の動きは早かった。
もしウェスリーが処分を知って逃亡することも考えられたため、使用人や警備の兵士を動員し、ウェスリーが逃げられないように囲って処分を伝えたのだ。

「どうして俺が鉱山送りにならなければならないのです!? 正気ですか、父上!」
「正気かと問いたいのはこちらだ、ウェスリーよ。反省していないことは理解できた。やはり鉱山送りは間違いではなかった」
「おかしいです、父上! どうして身分を偽ったオリビアが罰せられず、偽りを暴いた俺がこのような目に遭わなければならないのですか!?」
「あくまでも自分は悪くないと考えているのだな。どうして裏があると考えられんのだ」
「都合が悪いから隠していたのでしょう。それはウィルキンス侯爵家への不利益になるはずです。俺はそれを防いだというのにこの仕打ちは酷すぎます!」
「……問題は誰にとって不利益になるか、だ。当家にとって不利益にならないことは私が理解している。そうでなければ婚約させるはずがなかろう」
「そんな、まさか……」

ウェスリーの言葉からは父親ですら信頼していなかったことは明らかであり、ウィルキンス侯爵を更に落胆させるだけだった。
一方で自分が知らない何かを父親が知っていたことが明らかになり、ウェスリーは自分が一人で勝手に盛り上がっていたことを自覚したが、必要なことを知らせなかった父親に責任があると考えた。

「酷いです、父上。父上も俺を謀ったのですね」
「謀ってなんかいない。ただウェスリーが自分にとって都合良く物事を考えただけのことだ」

どこまでも反省しないウェスリーに、これ以上の会話は無駄だと考え、ウィルキンス侯爵はウェスリーを拘束し鉱山に送るよう指示を出した。
それでも口だけは減らないウェスリーの言葉を聞き流し、連れていかれるウェスリーを見送った。

「これでウィルキンス侯爵家は存続できるだろう」

実の息子であれ貴族家として存続するために邪魔ならば切り捨てる。
それが貴族家当主としての覚悟だった。
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