5 / 7
5.
しおりを挟む
ウェスリーが勝手に婚約破棄したことで、ウィルキンス侯爵はストラスバーグ大公に面談の約束を取り付け、説明と謝罪をしていた。
「……ウィルキンス侯爵の事情は把握した。全てウェスリーの独断であり責任だというのだな?」
「はい、その通りです」
ストラスバーグ大公がウェスリーを見限っていることは敬称もつけないことからも明らかであり、それを察することができないウィルキンス侯爵ではなかった。
しかしストラスバーグ大公が冷静に対応していることから感情的になるほどの激怒はしていないと判断し、これならウィルキンス侯爵家は存続できるかもしれないと希望を抱いた。
「ウェスリーからの謝罪はないのだな」
「本人が悪いという自覚がないので謝罪は無理でしょう。無理矢理謝罪させたところで反省するどころか逆恨みするかもしれません」
「ふむ……。別にウェスリーからの謝罪は求めぬ。自覚がないのであれば尚更だ」
「不出来な息子で申し訳ありません」
深く頭を下げるウィルキンス侯爵。
少なくともウィルキンス侯爵は事態の深刻さを理解しており、また、秘密を洩らさなかったこともあり、ストラスバーグ大公としては寛大な処置をするに値すると判断した。
「まあ良い。問題はウェスリーの処遇だ。どうしたものかな?」
「処刑を求められるのであれば受け入れます」
「それは求めておらん。だがそれくらい重い処分を下すべきだろうな」
下手に処刑してしまえばオリビアが気にするかもしれないと考え、ストラスバーグ大公は処刑は求めなかった。
しかし重い処分を求めているため、ウィルキンス公爵は返事を間違えるとウィルキンス存続の可能性が失せてしまう事になり兼ねないため、慎重に考え、処分を決めた。
「一生鉱山で働かせることにしたいと思います」
「そうか、妥当なところだな」
鉱山から出てこないのであればオリビアに何かできるはずもなく、仮に事故で命を落としたとしても不運な事故であるためオリビアが気に病む必要もなく、ストラスバーグ公爵は悪くない処分だと考えた。
こうしてウィルキンス侯爵家はウェスリーに責任を取らせることで貴族家として存続することになった。
(ウェスリー一人の処分で助かった。ウェスリーは自業自得だ。だがウィルキンス侯爵家は存続できる)
ウィルキンス侯爵は胸を撫で下ろした。
帰宅したウィルキンス侯爵の動きは早かった。
もしウェスリーが処分を知って逃亡することも考えられたため、使用人や警備の兵士を動員し、ウェスリーが逃げられないように囲って処分を伝えたのだ。
「どうして俺が鉱山送りにならなければならないのです!? 正気ですか、父上!」
「正気かと問いたいのはこちらだ、ウェスリーよ。反省していないことは理解できた。やはり鉱山送りは間違いではなかった」
「おかしいです、父上! どうして身分を偽ったオリビアが罰せられず、偽りを暴いた俺がこのような目に遭わなければならないのですか!?」
「あくまでも自分は悪くないと考えているのだな。どうして裏があると考えられんのだ」
「都合が悪いから隠していたのでしょう。それはウィルキンス侯爵家への不利益になるはずです。俺はそれを防いだというのにこの仕打ちは酷すぎます!」
「……問題は誰にとって不利益になるか、だ。当家にとって不利益にならないことは私が理解している。そうでなければ婚約させるはずがなかろう」
「そんな、まさか……」
ウェスリーの言葉からは父親ですら信頼していなかったことは明らかであり、ウィルキンス侯爵を更に落胆させるだけだった。
一方で自分が知らない何かを父親が知っていたことが明らかになり、ウェスリーは自分が一人で勝手に盛り上がっていたことを自覚したが、必要なことを知らせなかった父親に責任があると考えた。
「酷いです、父上。父上も俺を謀ったのですね」
「謀ってなんかいない。ただウェスリーが自分にとって都合良く物事を考えただけのことだ」
どこまでも反省しないウェスリーに、これ以上の会話は無駄だと考え、ウィルキンス侯爵はウェスリーを拘束し鉱山に送るよう指示を出した。
それでも口だけは減らないウェスリーの言葉を聞き流し、連れていかれるウェスリーを見送った。
「これでウィルキンス侯爵家は存続できるだろう」
実の息子であれ貴族家として存続するために邪魔ならば切り捨てる。
それが貴族家当主としての覚悟だった。
「……ウィルキンス侯爵の事情は把握した。全てウェスリーの独断であり責任だというのだな?」
「はい、その通りです」
ストラスバーグ大公がウェスリーを見限っていることは敬称もつけないことからも明らかであり、それを察することができないウィルキンス侯爵ではなかった。
しかしストラスバーグ大公が冷静に対応していることから感情的になるほどの激怒はしていないと判断し、これならウィルキンス侯爵家は存続できるかもしれないと希望を抱いた。
「ウェスリーからの謝罪はないのだな」
「本人が悪いという自覚がないので謝罪は無理でしょう。無理矢理謝罪させたところで反省するどころか逆恨みするかもしれません」
「ふむ……。別にウェスリーからの謝罪は求めぬ。自覚がないのであれば尚更だ」
「不出来な息子で申し訳ありません」
深く頭を下げるウィルキンス侯爵。
少なくともウィルキンス侯爵は事態の深刻さを理解しており、また、秘密を洩らさなかったこともあり、ストラスバーグ大公としては寛大な処置をするに値すると判断した。
「まあ良い。問題はウェスリーの処遇だ。どうしたものかな?」
「処刑を求められるのであれば受け入れます」
「それは求めておらん。だがそれくらい重い処分を下すべきだろうな」
下手に処刑してしまえばオリビアが気にするかもしれないと考え、ストラスバーグ大公は処刑は求めなかった。
しかし重い処分を求めているため、ウィルキンス公爵は返事を間違えるとウィルキンス存続の可能性が失せてしまう事になり兼ねないため、慎重に考え、処分を決めた。
「一生鉱山で働かせることにしたいと思います」
「そうか、妥当なところだな」
鉱山から出てこないのであればオリビアに何かできるはずもなく、仮に事故で命を落としたとしても不運な事故であるためオリビアが気に病む必要もなく、ストラスバーグ公爵は悪くない処分だと考えた。
こうしてウィルキンス侯爵家はウェスリーに責任を取らせることで貴族家として存続することになった。
(ウェスリー一人の処分で助かった。ウェスリーは自業自得だ。だがウィルキンス侯爵家は存続できる)
ウィルキンス侯爵は胸を撫で下ろした。
帰宅したウィルキンス侯爵の動きは早かった。
もしウェスリーが処分を知って逃亡することも考えられたため、使用人や警備の兵士を動員し、ウェスリーが逃げられないように囲って処分を伝えたのだ。
「どうして俺が鉱山送りにならなければならないのです!? 正気ですか、父上!」
「正気かと問いたいのはこちらだ、ウェスリーよ。反省していないことは理解できた。やはり鉱山送りは間違いではなかった」
「おかしいです、父上! どうして身分を偽ったオリビアが罰せられず、偽りを暴いた俺がこのような目に遭わなければならないのですか!?」
「あくまでも自分は悪くないと考えているのだな。どうして裏があると考えられんのだ」
「都合が悪いから隠していたのでしょう。それはウィルキンス侯爵家への不利益になるはずです。俺はそれを防いだというのにこの仕打ちは酷すぎます!」
「……問題は誰にとって不利益になるか、だ。当家にとって不利益にならないことは私が理解している。そうでなければ婚約させるはずがなかろう」
「そんな、まさか……」
ウェスリーの言葉からは父親ですら信頼していなかったことは明らかであり、ウィルキンス侯爵を更に落胆させるだけだった。
一方で自分が知らない何かを父親が知っていたことが明らかになり、ウェスリーは自分が一人で勝手に盛り上がっていたことを自覚したが、必要なことを知らせなかった父親に責任があると考えた。
「酷いです、父上。父上も俺を謀ったのですね」
「謀ってなんかいない。ただウェスリーが自分にとって都合良く物事を考えただけのことだ」
どこまでも反省しないウェスリーに、これ以上の会話は無駄だと考え、ウィルキンス侯爵はウェスリーを拘束し鉱山に送るよう指示を出した。
それでも口だけは減らないウェスリーの言葉を聞き流し、連れていかれるウェスリーを見送った。
「これでウィルキンス侯爵家は存続できるだろう」
実の息子であれ貴族家として存続するために邪魔ならば切り捨てる。
それが貴族家当主としての覚悟だった。
1,041
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?
花見 有
恋愛
「ダーシャ!お前との婚約を破棄する!!」
伯爵令嬢のダーシャ・パレデスは、婚約者であるアーモス・ディデス侯爵令息から、突然に婚約破棄を言い渡された。
婚約破棄ですって?アーモス様は私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。


お姉ちゃん今回も我慢してくれる?
あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」
「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」
「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」
私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。
代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。
お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。
ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい?
お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

【短編完結】婚約破棄ですか?了承致いたしますが確認です婚約者様
鏑木 うりこ
恋愛
マリア・ライナス!お前との婚約を破棄して、私はこのリーリエ・カント男爵令嬢と婚約する事にする!
わたくしの婚約者であるサルトル様が声高に叫びました。
なるほど分かりましたが、状況を良く確認させていただきましょうか?
あとからやはりなかった、間違いだったなどと言われてはたまったものではございませんからね?
シーン書き2作目です(*'ω'*)楽しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる