私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi

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オリビアとウェスリーの婚約はストラスバーグ大公が認めたものであり、ウェスリーからの一方的なストラスバーグ大公の面子を潰すものだった。
オルブライト公爵から連絡を受け事態を知ることとなったストラスバーグ大公はオルブライト公爵とオリビアを呼び出し事情を把握した。

「……ウェスリーは駄目だな。だがウィルキンス侯爵は秘密を守ったということだ。処分の対象はウェスリーに限定するか」
「大公の仰せのままに」

いくら公爵といえども大公に頭が上がるはずもないが、妥当な判断でもあるためオルブライト公爵に異論はない。
異論もなかったことでストラスバーグ大公は次なる問題への対処のため、オリビアへ確認しなければならないことがある。

「それよりも重要なことはオリビアの婚約者だ。新しい相手を探さなくてはな。オリビアには意中の相手はいるのか?」
「いません。そのような贅沢を言えるような身分ではありませんので……」
「そうか。ならばこちらで相手を決めるとしよう」

ストラスバーグ大公はオリビアの言葉と態度に胸が苦しくなった。
非のないオリビアが言いがかりのようなものでウェスリーから婚約破棄され、どれだけ傷ついたのか。
それなのに自らの意思よりも問題を起こさないよう大公の意向に沿おうという殊勝な態度。

難しい立場にしてしまった責任の一端はストラスバーグ大公にもあり、それを責めることもなく不満を口にすることもなく、真っすぐに育ってくれたことを嬉しく思い、そのように育てたオルブライト公爵にも感謝した。

「こうなったなら……ギルフォードが良いか。こうなった以上、反対の声も上げにくいだろう」

ギルフォードの名を耳にしたオリビアは心臓が跳ね上がった。

(まさかギルフォード様への気持ちを見抜かれていたの!?)

それはオリビアの思い過ごしでしかないのだが、偶然とはいえ動揺するようなことになってしまい、目聡いストラスバーグ大公はオリビアの反応から何かしらの感情を抱いていることを察した。
万が一悪い感情だった場合は婚約者として候補にするだけでもオリビアを苦しめることになるため、念のため確認することにした。

「ギルフォードはなかなかの好青年だし婚約者として申し分ない。もし婚約できるとなればオリビアはどう思う?」
「……大変嬉しく思います」

ギルフォードが婚約者になるのであればオリビアに異論があるはずもなく、まるで夢のような相手との婚約が実現しそうになり、思わず頬を赤らめてしまう。
それは理性ではどうにもならないものであり、正直な気持ちは口よりも頬の赤みが雄弁に語っていた。

「オルブライト公爵はどう思う?」
「良い相手だと思います。ですがファーディナンド公爵家と当家の縁が深まることで不満を抱く貴族もいるでしょう」
「問題はそこだな」

ギルフォードはファーディナンド公爵家の令息であり、嫡男ではないとはいえ、他の公爵家との縁が深まることは別の貴族家や派閥の警戒心を高めることになる。

「オリビアが他の相手でもいいなら問題ないが……そこはオリビアの本心を知ってから決めたい。他の事は考慮せずオリビアの正直な気持ちを聞かせてほしい。ギルフォードが婚約者になることについてだ」
「私は……叶うのであればギルフォード様の婚約者になりたく思います。それが身分不相応の願いだということも理解しています。ですが正直な気持ちとしてはギルフォード様以外に良い相手がいるとは思えません。私は……ギルフォード様に想いを寄せています」

正直な気持ちを打ち明けることは恥ずかしくもあったが、ここで遠慮したり気持ちを偽っては幸せを手にする機会を逃すことにもなる。
わざわざ意思確認をしたのはストラスバーグ大公がオリビアの本当の気持ちを知りたいからであり、意に沿うようにするということでもある。

顔を赤くしてギルフォードへの想いを口にしたオリビアを揶揄うような者はこの場にはいない。

「わかった。よく話してくれた。後は任せておきなさい」
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
「それくらいはしてやらんとな」

オリビアの幸せのためにひと肌脱ごうとするストラスバーグ公爵は、実の娘に向けるような優しい目でオリビアを見た。
オリビアもストラスバーグ公爵の視線と合い、そこに込められている言葉にしていない気持ちを察した。

(私は幸せだわ。こうして私の幸せのために尽力してくださる方々がいるのだから)
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