私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi

文字の大きさ
上 下
3 / 7

3.

しおりを挟む
ウェスリーはオリビアに婚約破棄したことをウィルキンス侯爵に伝えたが、頭を抱え込んだ様子を見て、なぜそうなったのか疑問を抱いた。

「どうして頭を抱えるのです? 父上」
「一応確認させてくれ。ウェスリー、お前はオリビア嬢に婚約破棄したのだな?」
「はい、間違いありません」

堂々と答えるウェスリーの姿に、ウィルキンス侯爵はウェスリーがオリビアとの婚約の裏に何があるのか何も考えていないのだと理解した。

「オルブライト公爵家との関係も問題になるだろう。それに婚約を認めたのはストラスバーグ大公だ。それを勝手に婚約破棄したのだから当家もただでは済まないだろう」
「お言葉ですが父上、最初に騙したのはオリビアのほうです。どうして当家の責任になるのですか?」
「騙した? 何のことだ?」
「ですからオリビアの出自です。オリビアはオルブライト公爵の実の娘ではありません。これは調べたので間違いありませんし、オリビアも否定しませんでした。そのことを伝えずに婚約するなんて騙す以外の何でもありません」
「……そうだったのか。どうしてそこまで調べておきながら婚約に反対する者がいなかったのか考えが及ばなかったのだ?」
「知られると不都合だったから共謀して隠していたのでしょう。何も知らせず俺に押し付ければいいと考えるような奴らに一泡吹かせてやりましたよ」

ウェスリーは得意気に語り、どこまでも自分の正しさを信じて疑わないウェスリーにウィルキンス侯爵の堪忍袋の緒もブチ切れた。

「全て思い込みで都合良く捉えるな! どうして政治的な理由があっての婚約だったと思わない!? もう終わりだ、ウェスリーのせいでウィルキンス侯爵家は終わりだ……」
「落ち着いてください、父上。いったい何が問題だというのですか? 出自を伏せ俺を謀ろうとしたオリビアが全て悪いのではありませんか?」

オリビアの出自の秘密はごく限られた人しか知らず、知らされているウィルキンス侯爵も実の息子であろうともウェスリーに伝えることは許されてはいなかった。
この場で真実を伝えられればウェスリーを納得させられるのかもしれないが、秘密を洩らしたことでウィルキンス侯爵家にとって致命的な失態になる可能性もあり、真実を伝えることはできない。
せめてウェスリーが察するよう誘導するくらいが関の山だが、そもそも思い込みが激しく自分は間違っていないと考えるウェスリーが察するとは思えず、どうにもならない現状を悲観し将来に絶望するだけだった。

ウィルキンス侯爵はウェスリーに真実を察するようにしても無駄だと考え、もう投げ出すことにした。
せめてウィルキンス侯爵家が存続できるよう、オルブライト公爵やストラスバーグ大公に謝罪し許しを請い、ウェスリーの処遇を委ねることが最善だと、死中に活を求めた。

「……」
「……父上?」
「ウェスリー、お前はしばらく軟禁することに決めた。しばらく大人しくしていろ。その間に問題の解決を図る」
「……わかりました」

微妙に納得できないウェスリーだったが、ウィルキンス侯爵自らが解決に動くのであれば従うしかなく、少なくとも悪いことにはならないだろうと自分の正しさを疑うことはなかった。

(面倒なことになったものだ。謝罪で済むような段階ではないだろうな。しかしウェスリーめ、どこで知ったのだ?)

ウェスリーは調べたと言ったが、それはどこで知ったのかとは関係がない。

「ウェスリー、一つ確認させてくれ。オリビア嬢の出自を調べたのは何がきっかけだったのだ?」
「相手に問題がないのか調べることが悪いとは思えません」
「だからどうして調べようと思ったのだ? 誰かに何か言われたとか、不審な点があったとか、そういったことを聞いている」
「偶然出会った女に惚れたら相手が詐欺師だったという話を聞いたからです。相手のことを盲目的に信じるのではなく、信じるに値する根拠が必要です。それでオルブライト公爵家で働いていた者と接触でき、オリビアが引き取られたことを突き止めたのです」
「そうだったのか……」

悪意のある第三者に唆されたのではなかったことに安堵するものの、どうしてそこまで気が回るのに政治的な理由があったと思い至らないのかと、ウィルキンス侯爵はやはりウェスリーに幻滅することとなった。
無駄に行動力が高かったことも問題だったが、軟禁となれば使用人たちがウェスリーを逃がすはずもなく、とりあえずはウェスリーが更なる問題を引き起こすことはないであろうと考え、少しだけ安心することができた。

「もういい。下がれ」
「はい」

ウェスリーが下がった後、ウィルキンス侯爵は侯爵家の存続のためにどうすべきか考えを巡らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

花見 有
恋愛
「ダーシャ!お前との婚約を破棄する!!」 伯爵令嬢のダーシャ・パレデスは、婚約者であるアーモス・ディデス侯爵令息から、突然に婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄ですって?アーモス様は私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

婚約したがっていると両親に聞かされ大事にされること間違いなしのはずが、彼はずっととある令嬢を見続けていて話が違いませんか?

珠宮さくら
恋愛
レイチェルは、婚約したがっていると両親に聞かされて大事にされること間違いなしだと婚約した。 だが、その子息はレイチェルのことより、別の令嬢をずっと見続けていて……。 ※全4話。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

処理中です...