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社交の場では真偽の定かでない噂が飛び交うが、最近ではある一つの噂が広まっていた。

「ねえ、知ってる? ベンソン子爵家の嫡男から離婚されたボールドウィン伯爵家の令嬢、今度はハーシェル子爵家の令息と婚約したそうよ」
「不治の病が発覚したから療養のために離婚したって話じゃなかったの?」
「そんなの離婚するための嘘に決まってるじゃない。だってベンソン子爵家の嫡男、名前はアラン様でしたっけ? どうもメイドに夢中らしいじゃない。妻が邪魔だったから離婚したに決まってるわ」
「それならどうして不治の病なんてことになったの?」
「相手に非があるとアピールするためでしょ?」
「メイドのために離婚したってこと? 最低ね、ええと……」
「アラン・ベンソンよ。変なことに巻き込まれないよう注意しないとね。求婚されてもきっとすぐに捨てられて変な噂まで広められてしまうわよ」
「そうだったのね。気をつけないと」
「貴女はぼんやりしているし信じやすいから気をつけてね?」
「もう!」

ベンソン伯爵がアランのために大げさに噂を広めたことが逆効果になっていた。

当事者のアランはというと。

「メイドを相手にしたほうが気楽でいいな」
「アラン様、素敵~。もっと可愛がってください~」
「ははっ、可愛いやつめ」

お手付きになったメイドは仕事をサボり同僚の反感を買いつつもアランの愛人扱いになったことで好き勝手振る舞うようになっていた。
当然まともな使用人たちはベンソン子爵家を見限り暇を願い出た。

ベンソン子爵もアランは嫡男であるため落ち着くことを期待し待っていたが、社交の場で広まっている噂を知り、全てをアランの責任にしてしまう策を思いついた。

(アランは駄目だな。更生するとも思えん。そんなに平民メイドが好きなら同じく平民に落としてやろうか)

家督は次男に継がせればよく、アランだけ切り捨てることでベンソン子爵家の生き残りを画策した。

「アラン、お前は廃嫡し親子の縁も切る。これからは平民として生きるがいい」
「待ってください、父上! どうしてそのような仕打ちをするのですか!?」
「勝手に離婚したことは忘れてはいまいな? それにメイドに夢中だろう? ベンソン子爵家の利益になるような相手と結婚する意思がないなら相応しい立場を与えるだけだ」
「そんな……」
「もう決まったことだ。潔く受け入れろ」

この処分も社交界では噂となり、やはりアランが問題だったという認識を確かなものとした。
ベンソン子爵家としては責任をアランに擦り付けることに成功し、ジュリアは被害者として同情を集めることとなった。
なお親子の縁を切られ平民となったアランは愛人扱いしていたメイドからも別れを告げられた。





社交界の噂話は当然ジュリアとユースタスの耳にも入ってくる。

「聞いた? アランが廃嫡されベンソン子爵家から追放されたようだけど」
「聞いたわ。でももうどうでもいいの。アランに関わるとまたストレスで寝込みそうだし」
「ごめん、嫌なことを思い出させてしまって……」

ジュリアは体調不良が長引いた理由がアランによるストレスだと自覚しており、ユースタスもそのことを教えられていた。
できれば触れなくない話題だったが、いつまでも触れないままでいるよりも乗り越えられるなら乗り越えたいとユースタスは悩んだ末に答えを出し、慎重にジュリアの様子を見極める。

乗り越えるべき問題だという自覚はジュリアにもあり、この機会に自分からもう大丈夫というメッセージを込め、冗談めかしてユースタスに伝えることを選んだ。

「ううん、いいの。もし寝込んだら看病してくれる?」
「もちろんだとも! でも寝込んだりしないで元気でいてくれるほうがいいけどね」
「そうね、そうよね」

ユースタスはジュリアを裏切ったアランではない。
過去の出来事はもう乗り越えることができ、今度こそジュリアは本当の幸せを手にしたのだった。
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