7 / 7
7.
しおりを挟む
社交の場では真偽の定かでない噂が飛び交うが、最近ではある一つの噂が広まっていた。
「ねえ、知ってる? ベンソン子爵家の嫡男から離婚されたボールドウィン伯爵家の令嬢、今度はハーシェル子爵家の令息と婚約したそうよ」
「不治の病が発覚したから療養のために離婚したって話じゃなかったの?」
「そんなの離婚するための嘘に決まってるじゃない。だってベンソン子爵家の嫡男、名前はアラン様でしたっけ? どうもメイドに夢中らしいじゃない。妻が邪魔だったから離婚したに決まってるわ」
「それならどうして不治の病なんてことになったの?」
「相手に非があるとアピールするためでしょ?」
「メイドのために離婚したってこと? 最低ね、ええと……」
「アラン・ベンソンよ。変なことに巻き込まれないよう注意しないとね。求婚されてもきっとすぐに捨てられて変な噂まで広められてしまうわよ」
「そうだったのね。気をつけないと」
「貴女はぼんやりしているし信じやすいから気をつけてね?」
「もう!」
ベンソン伯爵がアランのために大げさに噂を広めたことが逆効果になっていた。
当事者のアランはというと。
「メイドを相手にしたほうが気楽でいいな」
「アラン様、素敵~。もっと可愛がってください~」
「ははっ、可愛いやつめ」
お手付きになったメイドは仕事をサボり同僚の反感を買いつつもアランの愛人扱いになったことで好き勝手振る舞うようになっていた。
当然まともな使用人たちはベンソン子爵家を見限り暇を願い出た。
ベンソン子爵もアランは嫡男であるため落ち着くことを期待し待っていたが、社交の場で広まっている噂を知り、全てをアランの責任にしてしまう策を思いついた。
(アランは駄目だな。更生するとも思えん。そんなに平民メイドが好きなら同じく平民に落としてやろうか)
家督は次男に継がせればよく、アランだけ切り捨てることでベンソン子爵家の生き残りを画策した。
「アラン、お前は廃嫡し親子の縁も切る。これからは平民として生きるがいい」
「待ってください、父上! どうしてそのような仕打ちをするのですか!?」
「勝手に離婚したことは忘れてはいまいな? それにメイドに夢中だろう? ベンソン子爵家の利益になるような相手と結婚する意思がないなら相応しい立場を与えるだけだ」
「そんな……」
「もう決まったことだ。潔く受け入れろ」
この処分も社交界では噂となり、やはりアランが問題だったという認識を確かなものとした。
ベンソン子爵家としては責任をアランに擦り付けることに成功し、ジュリアは被害者として同情を集めることとなった。
なお親子の縁を切られ平民となったアランは愛人扱いしていたメイドからも別れを告げられた。
社交界の噂話は当然ジュリアとユースタスの耳にも入ってくる。
「聞いた? アランが廃嫡されベンソン子爵家から追放されたようだけど」
「聞いたわ。でももうどうでもいいの。アランに関わるとまたストレスで寝込みそうだし」
「ごめん、嫌なことを思い出させてしまって……」
ジュリアは体調不良が長引いた理由がアランによるストレスだと自覚しており、ユースタスもそのことを教えられていた。
できれば触れなくない話題だったが、いつまでも触れないままでいるよりも乗り越えられるなら乗り越えたいとユースタスは悩んだ末に答えを出し、慎重にジュリアの様子を見極める。
乗り越えるべき問題だという自覚はジュリアにもあり、この機会に自分からもう大丈夫というメッセージを込め、冗談めかしてユースタスに伝えることを選んだ。
「ううん、いいの。もし寝込んだら看病してくれる?」
「もちろんだとも! でも寝込んだりしないで元気でいてくれるほうがいいけどね」
「そうね、そうよね」
ユースタスはジュリアを裏切ったアランではない。
過去の出来事はもう乗り越えることができ、今度こそジュリアは本当の幸せを手にしたのだった。
「ねえ、知ってる? ベンソン子爵家の嫡男から離婚されたボールドウィン伯爵家の令嬢、今度はハーシェル子爵家の令息と婚約したそうよ」
「不治の病が発覚したから療養のために離婚したって話じゃなかったの?」
「そんなの離婚するための嘘に決まってるじゃない。だってベンソン子爵家の嫡男、名前はアラン様でしたっけ? どうもメイドに夢中らしいじゃない。妻が邪魔だったから離婚したに決まってるわ」
「それならどうして不治の病なんてことになったの?」
「相手に非があるとアピールするためでしょ?」
「メイドのために離婚したってこと? 最低ね、ええと……」
「アラン・ベンソンよ。変なことに巻き込まれないよう注意しないとね。求婚されてもきっとすぐに捨てられて変な噂まで広められてしまうわよ」
「そうだったのね。気をつけないと」
「貴女はぼんやりしているし信じやすいから気をつけてね?」
「もう!」
ベンソン伯爵がアランのために大げさに噂を広めたことが逆効果になっていた。
当事者のアランはというと。
「メイドを相手にしたほうが気楽でいいな」
「アラン様、素敵~。もっと可愛がってください~」
「ははっ、可愛いやつめ」
お手付きになったメイドは仕事をサボり同僚の反感を買いつつもアランの愛人扱いになったことで好き勝手振る舞うようになっていた。
当然まともな使用人たちはベンソン子爵家を見限り暇を願い出た。
ベンソン子爵もアランは嫡男であるため落ち着くことを期待し待っていたが、社交の場で広まっている噂を知り、全てをアランの責任にしてしまう策を思いついた。
(アランは駄目だな。更生するとも思えん。そんなに平民メイドが好きなら同じく平民に落としてやろうか)
家督は次男に継がせればよく、アランだけ切り捨てることでベンソン子爵家の生き残りを画策した。
「アラン、お前は廃嫡し親子の縁も切る。これからは平民として生きるがいい」
「待ってください、父上! どうしてそのような仕打ちをするのですか!?」
「勝手に離婚したことは忘れてはいまいな? それにメイドに夢中だろう? ベンソン子爵家の利益になるような相手と結婚する意思がないなら相応しい立場を与えるだけだ」
「そんな……」
「もう決まったことだ。潔く受け入れろ」
この処分も社交界では噂となり、やはりアランが問題だったという認識を確かなものとした。
ベンソン子爵家としては責任をアランに擦り付けることに成功し、ジュリアは被害者として同情を集めることとなった。
なお親子の縁を切られ平民となったアランは愛人扱いしていたメイドからも別れを告げられた。
社交界の噂話は当然ジュリアとユースタスの耳にも入ってくる。
「聞いた? アランが廃嫡されベンソン子爵家から追放されたようだけど」
「聞いたわ。でももうどうでもいいの。アランに関わるとまたストレスで寝込みそうだし」
「ごめん、嫌なことを思い出させてしまって……」
ジュリアは体調不良が長引いた理由がアランによるストレスだと自覚しており、ユースタスもそのことを教えられていた。
できれば触れなくない話題だったが、いつまでも触れないままでいるよりも乗り越えられるなら乗り越えたいとユースタスは悩んだ末に答えを出し、慎重にジュリアの様子を見極める。
乗り越えるべき問題だという自覚はジュリアにもあり、この機会に自分からもう大丈夫というメッセージを込め、冗談めかしてユースタスに伝えることを選んだ。
「ううん、いいの。もし寝込んだら看病してくれる?」
「もちろんだとも! でも寝込んだりしないで元気でいてくれるほうがいいけどね」
「そうね、そうよね」
ユースタスはジュリアを裏切ったアランではない。
過去の出来事はもう乗り越えることができ、今度こそジュリアは本当の幸せを手にしたのだった。
264
お気に入りに追加
224
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】要らない私は消えます
かずき りり
恋愛
虐げてくる義母、義妹
会わない父と兄
浮気ばかりの婚約者
どうして私なの?
どうして
どうして
どうして
妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。
もう戻れないのだと知る。
……ならば……
◇
HOT&人気ランキング一位
ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
側室の妊娠により正妃は婚約破棄されました。愛して貰えなかった正妃はどうしたらいいの?
五月ふう
恋愛
「今日はね、ソラに
一つ嬉しい知らせがあって
教えに来たのよ。」
「なによ?
貴方がこの城を出ていくの?」
私にとって、
それ以上の知らせはない。
「いいえ。
私ね、
フィリップの子供を
妊娠したの。 」
「え、、、?」
側室である貴方がが、
正妃である私より先に妊娠したら、
私はどうなるの、、?
「ああ、
そんなにびっくりしないで。
ソラは正妃としての仕事を
そのまま続けてくれていいのよ。」
私は助かったの、かな、、?
「お飾りの正妃として、
このまま頑張ってね。
ソラ。」
その言葉は私を絶望させた。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
婚約者が幼馴染を愛人にすると宣言するので、別れることにしました
法華
恋愛
貴族令嬢のメリヤは、見合いで婚約者となったカールの浮気の証拠をつかみ、彼に突きつける。しかし彼は悪びれもせず、自分は幼馴染と愛し合っていて、彼女を愛人にすると言い出した。そんなことを許すわけにはいきません。速やかに別れ、カールには相応の報いを受けてもらいます。
※四話完結
【短編】浮気症の公爵様から離縁されるのを待っていましたが、彼はこの婚姻を続けるつもりのようです。私を利用しようとしたって無駄ですよ、公爵様?
五月ふう
恋愛
「私と離縁してくれますか?公爵様?」
16歳のとき、ユナ・ハクストルは公爵リューク・イタルクに嫁いだ。
愛とは何か。恋とは何か。
まだ何も知らない彼女は公爵との幸せな未来を夢見ていた。だが、リュークには10人を超える愛人がいて、ユナを愛するつもりは無かった。
ねぇ、公爵様。私を馬鹿にしていると痛い目を見ますよ?
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる