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ユースタスは幼馴染であり婚約者候補だったが、ハーシェル子爵家の次男であるため将来ハーシェル子爵家を継ぐ可能性は低く、条件で選べばベンソン子爵家の嫡男であるアランのほうに分があった。
条件以外で選ぶなら気心を知っており安心感を得られ誠実で堅実なユースタスを選ぶところだったが、ジュリアはボールドウィン伯爵家の令嬢として家の利益となる相手と婚約しなければならなかった。
婚約者ができれば幼馴染とはいえ不用意に親しくすべきではないとユースタスは考え、自分の気持ちを抑え込んで身を引いていた。
そのような経緯によりジュリアもユースタスも顔を合わせにくくなり、二人の関係が疎遠になってしまった。
だが結婚したジュリアがすぐに離婚したと聞き、しかも病気で寝込んでいると知れば何もせずじっとしているなんて無理なこと。
ユースタスはボールドウィン伯爵家へと使者を送り、見舞いの約束を取り付けた。
なおジュリアに知らされたのはボールドウィン伯爵が許可を出した後のことだった。
ジュリアは久々の再会となるユースタスにどんな顔で会えばいいのか悩んだが、それ以前に寝込んでいるため、病人として振る舞うことを選んだ。
考えすぎると熱を出しそうであり、親にもユースタスにも心配をかけてしまいそうということも理由の一つだった。
そうしないと気持ちが落ち着かなかったことが大きな理由だった。
ユースタスが見舞いにやってきた。
「久しぶりだね。体調は……あまり良くなさそうだね」
「大丈夫よ、心配しないで。きっとすぐに良くなるわ」
顔が赤いジュリアを見たユースタスは熱があるのだろうと思ったが、ジュリアはユースタスと再会し、秘めていた想いに気付いてしまったから顔が赤くなってしまったのだ。
(ユースタスは優しいのね。昔からずっとそうだったわ。どうして私はユースタスを選ばなかったの? こんなにも私の心はユースタスに会えたことを喜んでいるというのに……)
「……本当に大丈夫?」
「駄目かも?」
「それは大変だ。僕にできることはあるかい?」
「ありすぎて大変よ?」
「それなら一つずつするよ。まず何をすればいい?」
このような冗談にも優しい言葉と態度を見せるユースタスに裏はなく、このような関係こそジュリアが望んでいたものだった。
つい調子に乗ってしまったジュリアは本気でユースタスに何かしてもらうつもりではなく、逆にどうすればいいのか悩んでしまった。
悩む表情を見たユースタスはジュリアに優しい言葉をかける。
「時間はあるから何か思いついたら言ってね」
「……ありがとう、ユースタス」
「またこうやって会っても問題なくなったからね」
「……ごめんなさい、ユースタス」
選ばなかったこと、それなのに文句も言わなかったこと、余計な問題を起こさないよう身を引いたこと。
ジュリアにとって謝りたいようなこともあれば、ユースタスに感謝したいこともあり、ジュリアの中では様々な感情が入り混じっていた。
ユースタスはジュリアへの想いを貫き、他の女性に目移りすることもなく、ジュリアがアランと婚約しても諦めることはできなかった。
婚約者を作ろうとしないことを親に注意されようとも、そこは次男という気楽な立場を巧みに利用し乗り越えた。
そして今がある。
「あまり負担をかけて体調が悪くなると僕が原因とされてしまうかもしれない。名残惜しいけど、そろそろお暇するよ」
「……また来てくれる?」
「もちろんだとも!」
「今日は来てくれてありがとう。本当に嬉しかったわ」
「僕だってジュリアに会えて嬉しかったよ」
二人は見つめ合い、別れを名残惜しむ。
言葉は交わさずともお互いの気持ちは察することができていた。
「またね、ジュリア」
「待ってるわ、ユースタス」
ユースタスが去り、ジュリアは心にぽっかりと穴が空いたような感覚に陥っていた。
(やはり私はユースタスのことを……)
自分の心を偽ることはできなかった。
条件以外で選ぶなら気心を知っており安心感を得られ誠実で堅実なユースタスを選ぶところだったが、ジュリアはボールドウィン伯爵家の令嬢として家の利益となる相手と婚約しなければならなかった。
婚約者ができれば幼馴染とはいえ不用意に親しくすべきではないとユースタスは考え、自分の気持ちを抑え込んで身を引いていた。
そのような経緯によりジュリアもユースタスも顔を合わせにくくなり、二人の関係が疎遠になってしまった。
だが結婚したジュリアがすぐに離婚したと聞き、しかも病気で寝込んでいると知れば何もせずじっとしているなんて無理なこと。
ユースタスはボールドウィン伯爵家へと使者を送り、見舞いの約束を取り付けた。
なおジュリアに知らされたのはボールドウィン伯爵が許可を出した後のことだった。
ジュリアは久々の再会となるユースタスにどんな顔で会えばいいのか悩んだが、それ以前に寝込んでいるため、病人として振る舞うことを選んだ。
考えすぎると熱を出しそうであり、親にもユースタスにも心配をかけてしまいそうということも理由の一つだった。
そうしないと気持ちが落ち着かなかったことが大きな理由だった。
ユースタスが見舞いにやってきた。
「久しぶりだね。体調は……あまり良くなさそうだね」
「大丈夫よ、心配しないで。きっとすぐに良くなるわ」
顔が赤いジュリアを見たユースタスは熱があるのだろうと思ったが、ジュリアはユースタスと再会し、秘めていた想いに気付いてしまったから顔が赤くなってしまったのだ。
(ユースタスは優しいのね。昔からずっとそうだったわ。どうして私はユースタスを選ばなかったの? こんなにも私の心はユースタスに会えたことを喜んでいるというのに……)
「……本当に大丈夫?」
「駄目かも?」
「それは大変だ。僕にできることはあるかい?」
「ありすぎて大変よ?」
「それなら一つずつするよ。まず何をすればいい?」
このような冗談にも優しい言葉と態度を見せるユースタスに裏はなく、このような関係こそジュリアが望んでいたものだった。
つい調子に乗ってしまったジュリアは本気でユースタスに何かしてもらうつもりではなく、逆にどうすればいいのか悩んでしまった。
悩む表情を見たユースタスはジュリアに優しい言葉をかける。
「時間はあるから何か思いついたら言ってね」
「……ありがとう、ユースタス」
「またこうやって会っても問題なくなったからね」
「……ごめんなさい、ユースタス」
選ばなかったこと、それなのに文句も言わなかったこと、余計な問題を起こさないよう身を引いたこと。
ジュリアにとって謝りたいようなこともあれば、ユースタスに感謝したいこともあり、ジュリアの中では様々な感情が入り混じっていた。
ユースタスはジュリアへの想いを貫き、他の女性に目移りすることもなく、ジュリアがアランと婚約しても諦めることはできなかった。
婚約者を作ろうとしないことを親に注意されようとも、そこは次男という気楽な立場を巧みに利用し乗り越えた。
そして今がある。
「あまり負担をかけて体調が悪くなると僕が原因とされてしまうかもしれない。名残惜しいけど、そろそろお暇するよ」
「……また来てくれる?」
「もちろんだとも!」
「今日は来てくれてありがとう。本当に嬉しかったわ」
「僕だってジュリアに会えて嬉しかったよ」
二人は見つめ合い、別れを名残惜しむ。
言葉は交わさずともお互いの気持ちは察することができていた。
「またね、ジュリア」
「待ってるわ、ユースタス」
ユースタスが去り、ジュリアは心にぽっかりと穴が空いたような感覚に陥っていた。
(やはり私はユースタスのことを……)
自分の心を偽ることはできなかった。
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