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ジュリアが寝込んでから一週間が経とうとも体調は回復せず、状況を知ったそれぞれの両親からの意向もあり、医者に診てもらうことになった。
一応表面的には良好な夫婦を演じるようにしているアランは拒否することもなく、どうせなら重病でも発覚すれば都合がいいと考えていた。

医師による診断の結果。

「奥様は今後も慢性的に体調不良に悩まされることでしょう。治すなら静かな環境で時間をかけて療養することになります」
「……わかった」

医師の診察結果にアランは短くそう言った。
簡単には治らないことに加え、どことなく冷たさを感じさせるアランにジュリアは何も言わなかった。

(アラン……。優しいアランは嘘だったの?)

まだ結婚して半月も経っていないのに、優しい言葉で微笑みかけてくれたアランは遠い存在のように思えてしまった。

(やはりアランは……)

ジュリアはアランの浮気に勘付いていたが決定的な証拠は掴めていなかった。
浮気が事実だとすれば態度が変わってしまったことも納得できる。

考えている途中でアランの言葉により思考は中断される。

「簡単には治らないということか。せっかく結婚したというのに、とんだお荷物だな」
「……」

明確に発せられた悪意のある言葉にジュリアは驚き戸惑い何も言えなかった。
だが納得できる部分もあり、これが本心だから最近の態度が以前とは異なっていたのだろうと理解した。
それはもう愛されていないということの証明であり、浮気が事実だという思いが強まる。

アランからの愛は偽りのものであり、愛されていると信じた自分が惨めに思え、ジュリアは涙を流してしまった。

「治らないわけではありません。ただ時間が必要です。それに環境の変化も。……希望を捨てないでください、奥様」
「……ええ」

医師の優しい言葉にジュリアは気丈に振る舞う。
だがアランは違った。

「さて、困ったな。これでは跡継ぎを産めるのか? 今ならまだ傷も浅い。離婚するなら早いほうがいいだろう」

アランの口ぶりからはジュリアへの愛は完全に消え失せていることが感じられ、できる限り速やかに離婚したいと望んでいることは明らかだった。
現実に打ちのめされたジュリアはアランへの執着もなく、お互いにとって最善である選択が離婚であると理解し、優しかった頃のアランは過去の記憶として封印し、離婚を決意した。

「わかりました、離婚に応じます」
「そうか。手続きはできるだけこちらで進めておく。せめて実家に戻れるくらいの体調にはしておけよ」
「……はい」

離婚に応じる意思を確認したアランはもうジュリアへの気遣いや良い夫であろうと取り繕うことをやめた。

(こうなってしまったのは仕方ないわ。ううん、これで良かったのよ。アランが本当はこんな人だったなんて、私は騙された被害者だわ)

ジュリアもこの機会を前向きに捉えた。
お互いが望んだことにより短かった婚姻関係は終わりを迎え、二人は別々の道を歩むこととなった。
そこに後悔はない。





だが急に離婚したことを知らされた親たちは慌てた。

ベンソン子爵はアランに対し怒りをぶつけていた。

「勝手に離婚するとは何事だ! それにアラン! お前、メイドに手を出したそうじゃないか。それで離婚か!? ボールドウィン伯爵に知られたらどうなると思っているんだ!」
「ジュリアが子作りを拒否したからです。ベンソン子爵家の跡継ぎを産もうとしないなら離婚も仕方ないでしょう」
「そうか……。だが本当なのか?」
「本当ですとも」
「そうか……」

子作りを拒否したとなれば離婚の理由としては十分だが、ジュリアがそうするとは考えられず、かといってアランが嘘をつくとも思えず、ベンソン子爵はアランの言葉を信じることにした。

「それならボールドウィン伯爵に慰謝料を請求しないといけないな」
「待ってください!」
「ジュリアに問題があっての離婚なら慰謝料を請求するのが当然だろう?」

責任回避のためについた嘘がアランの首を絞めることになったが、ここでアランは一つの方便を思いつく。

「俺の浮気を理由にされると次の結婚に影響が出てしまうかもしれません。ここはお互いに何も追及しないことが得策でしょう」
「ふむ……。ならば仕方ない」

どうにか問題を小さなものにすることができ、アランは安堵した。

(アランに非がないことを広めておかねばならんな。それにしても子作り拒否か。滅多に聞かない話だな)

貴族家に嫁ぐなら跡継ぎを望まれるのは常識であり、結婚してから拒否すれば大問題に発展する可能性は高い。
ボールドウィン伯爵家の令嬢であるジュリアがそのようなことを知らないはずがないのだが、ベンソン子爵は疑問を抱きつつもアランの言い分を信じることにした。

既に離婚してしまった以上、もう何もなかったことにはできない。
ならば、せめて少しでもアランが有利になるよう、ベンソン子爵家が不利益を被らないようにすることをベンソン子爵は選んだ。
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