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アランはベッドで寝込むジュリアの手を取り、安心させるように優しく微笑む。
それがジュリアには心苦しかった。
二人はつい先日結婚したばかりであり、疲労からなのか、ジュリアは寝込んでしまったのだ。
「ごめんなさい、どうしても体調が優れなくて……」
「いいんだ、今はゆっくり休んでくれ」
アランの優しい言葉にジュリアはますます申し訳ないと思い、優しい夫と結婚できたことを嬉しく思った。
(アランを選んで良かったわ。不安もあったけど、こうして私の心配をしてくれたもの。やはり私のことを愛していたのよ)
アラン・ベンソンとの婚約は複数いた候補者の中からジュリアが選んだものだ。
ジュリアが選んだとはいえ、そこは貴族同士の婚約なのだから両家にとって利益のある相手を選ばなくてはならず、相手の為人を知るほどの余裕がない中での、いわば賭けのようなものだった。
条件で選んだようなアランだがベンソン子爵家の嫡男であり、ほぼ間違いなく爵位を継ぎ領主となるため悪い選択ではない。
一方のジュリア・ボールドウィンは伯爵家の令嬢であり、両家にとってメリットのある婚約だった。
そのような条件で選んだ相手だったため、ジュリアは結婚する前からアランに本当に愛されているのか確信が持てず、不安が解消されないまま結婚を迎えることとなった。
しかし、こうして問題が起きてみれば相手の本当の気持ちを知ることができるため、アランには悪いと思いつつもジュリアは寝込んでしまったことを喜んだ。
「愛しているよ、ジュリア」
「私もよ、アラン」
アランは寝ているジュリアに顔を近づけキスをした。
愛されている実感がジュリアの心を埋め尽くし、アランに抱かれたいと思ってしまった。
「顔が赤いが大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。心配しないで」
結婚して初夜も済ませたがジュリアは男性に慣れておらず、夫であろうともまだまだ初々しい反応を見せてしまう。
アランは揶揄ったりせず、ジュリアの負担にならないよう、これ以上の触れ合いを避けることにした。
「それならいいんだ。今はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、アラン」
名残惜しいとはいえアランの気遣いも理解でき、ジュリアは素直に従うことにした。
(早く元気にならないとね)
アランのためにもジュリアは早く体調を整えようと決意した。
(まったくジュリアは役に立たないな。俺に抱かれたくないから仮病なんじゃないか?)
ジュリアの部屋から去ったアランの心の中は不満でいっぱいであり、邪推してしまった。
ジュリアはボールドウィン伯爵の令嬢であり、問題を起こして婚約を破談にすることは避けなくてはならず、アランは女遊びを自粛し我慢の日々を過ごしてきた。
(それがジュリアの意思なら仕方ないな。拒否するジュリアが悪いんだ。何のために結婚したと思っているんだ?)
邪推はエスカレートし、事実はどうあれアランにとってジュリアは思い通りにならない存在であり面倒な存在と思えるようになっていた。
もし問題視されるようならジュリアが子作りを拒否したと責めればいいと都合良く考え、我慢をやめることに決めた。
(まあいい。適当なメイドで済ませるとするか)
アランは欲求を解消するため、適当なメイドを見繕うことにした。
メイドは平民であり、もし貴族のお手付きとなればメイドたちの中でも立場が良くなり働きやすくなる。
それに特別手当を貰えたり便宜を図ってもらったりするメリットも期待でき、倫理的なものはともかく、お手付きになりたいと思うメイドはそれなりにいた。
望まないメイドに手を出しても面倒になるだけであり、アランはお互いの合意があっての関係を望み、その願いは容易に実現した。
使用人たちの主人はアランであり、アランを裏切るようなことをすれば解雇されるだけならまだしも、下手すれば家族や一族にまで危害が及ぶ可能性もある。
正義感を発揮するようなこともなく、使用人たちはジュリアを味方することもなかったが、中にはアランやベンソン子爵家に幻滅する人もいた。
心の内で何を思おうがジュリアに味方することはなく、アランの浮気を知らせる者はいなかった。
アランの裏切りをジュリアが知る由もなかった。
それがジュリアには心苦しかった。
二人はつい先日結婚したばかりであり、疲労からなのか、ジュリアは寝込んでしまったのだ。
「ごめんなさい、どうしても体調が優れなくて……」
「いいんだ、今はゆっくり休んでくれ」
アランの優しい言葉にジュリアはますます申し訳ないと思い、優しい夫と結婚できたことを嬉しく思った。
(アランを選んで良かったわ。不安もあったけど、こうして私の心配をしてくれたもの。やはり私のことを愛していたのよ)
アラン・ベンソンとの婚約は複数いた候補者の中からジュリアが選んだものだ。
ジュリアが選んだとはいえ、そこは貴族同士の婚約なのだから両家にとって利益のある相手を選ばなくてはならず、相手の為人を知るほどの余裕がない中での、いわば賭けのようなものだった。
条件で選んだようなアランだがベンソン子爵家の嫡男であり、ほぼ間違いなく爵位を継ぎ領主となるため悪い選択ではない。
一方のジュリア・ボールドウィンは伯爵家の令嬢であり、両家にとってメリットのある婚約だった。
そのような条件で選んだ相手だったため、ジュリアは結婚する前からアランに本当に愛されているのか確信が持てず、不安が解消されないまま結婚を迎えることとなった。
しかし、こうして問題が起きてみれば相手の本当の気持ちを知ることができるため、アランには悪いと思いつつもジュリアは寝込んでしまったことを喜んだ。
「愛しているよ、ジュリア」
「私もよ、アラン」
アランは寝ているジュリアに顔を近づけキスをした。
愛されている実感がジュリアの心を埋め尽くし、アランに抱かれたいと思ってしまった。
「顔が赤いが大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。心配しないで」
結婚して初夜も済ませたがジュリアは男性に慣れておらず、夫であろうともまだまだ初々しい反応を見せてしまう。
アランは揶揄ったりせず、ジュリアの負担にならないよう、これ以上の触れ合いを避けることにした。
「それならいいんだ。今はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、アラン」
名残惜しいとはいえアランの気遣いも理解でき、ジュリアは素直に従うことにした。
(早く元気にならないとね)
アランのためにもジュリアは早く体調を整えようと決意した。
(まったくジュリアは役に立たないな。俺に抱かれたくないから仮病なんじゃないか?)
ジュリアの部屋から去ったアランの心の中は不満でいっぱいであり、邪推してしまった。
ジュリアはボールドウィン伯爵の令嬢であり、問題を起こして婚約を破談にすることは避けなくてはならず、アランは女遊びを自粛し我慢の日々を過ごしてきた。
(それがジュリアの意思なら仕方ないな。拒否するジュリアが悪いんだ。何のために結婚したと思っているんだ?)
邪推はエスカレートし、事実はどうあれアランにとってジュリアは思い通りにならない存在であり面倒な存在と思えるようになっていた。
もし問題視されるようならジュリアが子作りを拒否したと責めればいいと都合良く考え、我慢をやめることに決めた。
(まあいい。適当なメイドで済ませるとするか)
アランは欲求を解消するため、適当なメイドを見繕うことにした。
メイドは平民であり、もし貴族のお手付きとなればメイドたちの中でも立場が良くなり働きやすくなる。
それに特別手当を貰えたり便宜を図ってもらったりするメリットも期待でき、倫理的なものはともかく、お手付きになりたいと思うメイドはそれなりにいた。
望まないメイドに手を出しても面倒になるだけであり、アランはお互いの合意があっての関係を望み、その願いは容易に実現した。
使用人たちの主人はアランであり、アランを裏切るようなことをすれば解雇されるだけならまだしも、下手すれば家族や一族にまで危害が及ぶ可能性もある。
正義感を発揮するようなこともなく、使用人たちはジュリアを味方することもなかったが、中にはアランやベンソン子爵家に幻滅する人もいた。
心の内で何を思おうがジュリアに味方することはなく、アランの浮気を知らせる者はいなかった。
アランの裏切りをジュリアが知る由もなかった。
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