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クローディアは正妃であり自由に動くにも限界がある。
そこで実家のマクファーレン公爵家に連絡を取り、誰か寄越すようにした。

「お兄様」
「やあ、クローディア。あまり幸せそうではなさそうだな。噂では知っているが、やはり陛下やメラニー殿下が原因か?」

やってきたのは兄のクライドだった。
クローディアを安心させるように微笑んでいるが、その目の奥に怒りの火が宿っていることをクローディアは見て取った。
今さら隠し立てするようなことでもなく、クローディアは素直に全部打ち明けることにした。

「はい、そうです。それで今後について話し合いをしたいと思って連絡したのです。でもお兄様が来てくださったので助かりました」
「まあな。任せておけ。それでどうしたいんだ?」
「陛下のメラニーへの扱いは力のないトランブル子爵を優遇するようで他の貴族家が不満を抱くでしょう。このままでは国内が荒れてしまうかもしれません。そこで先手を打ちたいと考えています」
「具体的な考えはあるのか?」
「はい。トランブル子爵の力を削ぎたいと思います」

言うのは簡単だが実現は容易でないとクライドは考えた。

トランブル子爵領は辺境とは言えないが隣国と接しているほど遠くにあり、マクファーレン公爵領からも遠い。
多くの人を動かすと目立つことは間違いない。

「方法は考えてあるのか?」
「はい。隣国に秘かに協力を求めようかと考えています」
「……それは危ういだろう。戦争にでもなれば民に被害が及ぶ。国内も荒れるだろう」
「もちろんです。ですがトランブル子爵領だけを狙い、迅速に軍を派遣すればどうでしょう? 対処も間に合わないと思います」
「それはそうだが……。工作ではなく戦争なのだな? 国が荒れる問題はどうする?」
「手緩いことは言っていられません。それにその後のこともあるので戦争です。トランブル子爵領を占領してから休戦すれば混乱も最小限で済ませられるでしょう」
「そうかもしれないが……」

妹がこのような過激なことを口にしたことでクライドも困惑し、同時にそこまで追い詰められていることを理解した。
それにまだ話の途中であり全貌を明かされてはいない。

「この次が本命です。休戦の条件としてわたくしを人質として差し出すよう要求させるのです。あの国王陛下なら喜んで私を差し出すでしょうね」
「……そうだろうが、クローディアはそれでいいのか? 人質ともなれば二度と帰ってくることもできないかもしれないぞ?」
「この国で正妃という立場でいるほうが恥辱ではありませんか?」

クローディアの状況を鑑みれば反対できるはずがなかった。
だがそれだけの理由でクローディアが人質となることを望むとは思えず、別の何かしらの理由、あるいは狙いがあるのではとクライドは考えた。

そして思い当たった一つの可能性。

「……まさか」
「お兄様が来てくださって助かりました。隣国への使者になっていただけませんか?」

マクファーレン公爵家は外交に携わることもあり、クライドも外交使節団の一員として他国へ派遣されることもある。
裏では諜報員を派遣することもあり、クライドが隣国と接触しようとも不審に思われないかもしれない。

もっとも国王がキングズリーなのだからそこまで気にしないというのがクローディアとクライドの共通認識だった。

「構わないが……本当の狙いは何だ?」
「それはですね――」

他に誰もいないが事が事だけにクローディアもクライドだけに聞こえるよう耳元で囁いた。
聞かされた内容はクライドにとって予想していたものだったが、実際に口にされると驚かないわけがなかった。

「そうではないかと予想はしていたが……。わかった、親の説得も含めて任せておけ。だが時間がかかるぞ?」
「ありがとうございます、お兄様。時間がかかることは承知しています。それでも希望があれば我慢できます」
「……できるだけ早く実現できるよう、全力を尽くす」

こうして秘密の打ち合わせは終わった。





クライドによりクローディアの現状や企みを聞かされたマクファーレン公爵夫妻は同情や憤慨の末に国王であるキングズリーに見切りをつけることになった。
クローディアの望む未来が手にできるようマクファーレン公爵家は全力を尽くすことになる。

とはいえ現状で怪しまれるわけにはいかず、将来的にも裏切り者扱いされることは避けたい。
真実と嘘が混ざり合った報告を国王であるキングズリーに挙げたが予想通り軽視され、真意に気付かれることもなく水面下で事態は進んでいった。

キングズリーはメラニーに夢中であり、自分たちに迫る危機に全く気づいていなかった。
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