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ミシェルが次にオーティスと会ったのは、オーティスから調査報告書ができたと連絡を受けてのことだった。
内容が内容なのでルービン男爵の目に留まる前に、ミシェルだけに確認してほしいと伝えられており、以前と同じ場所で待ち合わせることにした。
ミシェルが待ち合わせ場所につくとオーティスは既に待っており、その手には封筒があった。
挨拶もそこそこにオーティスはミシェルに封筒を渡し、さっそく中身を確認したミシェルは衝撃を受けることになった。
「本当だとしたら大変よ!」
「調べた限り、事実です」
「すみません、オーティス様のことを疑ったわけではありません。あまりにも驚いてしまったので……」
「それだけの内容ですから当然です。それよりも一刻も早く手を打ったほうがいいでしょう」
「はい。ありがとうございます、オーティス様」
「いえ」
相変わらず感情の薄いオーティスの言葉だったがミシェルのために気を使っていることは伝わっていた。
せっかくの気遣いを無駄にしないよう、ミシェルは足早に帰宅した。
「お父様、大変です!」
帰宅するなりミシェルは父親に伝えた。
「どうしたのだ? そんなに慌てて。もっと淑女としての振る舞いを身につけないとダグ殿との婚約が破談になってしまうぞ」
「破談になるなら好都合です。お父様はダグ様の正体をご存じないのですよね?」
「正体? 優秀な商人だろう?」
「その評価は裏付けがあってのことですか?」
「紹介してくれた商人とは懇意にしている。その人が自信を持って紹介したのだから問題なかろう」
「懇意にしている商人とはバナン商会のことですよね?」
「そうだが……」
ミシェルの剣幕にルービン男爵はたじろぎ、言い訳するかのように問われたことに答えていった。
だがバナン商会の名が出てきて、どうしてここでその名が出るのかと不思議に思った。
バナン商会はルービン男爵に何度か贈り物をしており、ルービン男爵としても貴族家との伝手を作りたいのだと判断し贈り物を受け取っていた。
これは貴族と商人の関係として珍しいことではない。
「バナン商会の悪評は存じ上げないのですか? そのような相手の紹介なら裏があるに決まっています」
「だが……」
商人の世界は厳しく、相手の弱みがあればそこを突くことも当然だ。
誇りや礼儀を重んじる貴族からすれば商人は何でもありの卑怯者であり下賎の者でしかなく、悪評はあって当然のものだと考えている。
ルービン男爵も同じような考えだったが、ミシェルがこのように、あえて追及するのだから何かがあるとは察することができた。
「お父様はルービン男爵家がどうなろうとも構わないというのですか?」
「そのようなことはない! ルービン男爵家のためにもダグ殿との婚約が必要なのだ!」
「ですからそのダグ様もバナン商会と共謀して当家を嵌めようとしているのです」
「……本当なのか? 信じられん」
ついに告げられたダグの狙い。
認めてしまえば自分の非を認めることになり、思わず否定したルービン男爵だったが、全てが仕組まれていたことだとすれば自分の非などと拘っている場合はではない。
ルービン男爵にとっては商人風情が貴族を嵌めようとしたことのほうが大問題だった。
「私の言い分を信じて下さらなくても構いません。ですがこの情報をもたらしたのはラングレイ子爵家のご令息、オーティス様なのです」
「何だと!? それならば信じるしかあるまい。だが……まさか……」
ルービン男爵はラングレイ子爵家の役割を知っていたため、その令息であるオーティスがもたらした情報であるなら信憑性が高いことを理解している。
認めたくなくともミシェルの言い分を信じ認めるしかない。
「お父様、ダグ様はきっと事実を認めないでしょう。ですが追及すれば諦めるかもしれません。これも当家を守るためです。どうかご理解ください」
「……仕方あるまい」
ダグとミシェルを婚約させようとしたのは財政的な理由であり、ルービン男爵家の存続が脅かされるのであれば婚約なんて推し進めるはずがなかった。
言葉では渋々認めたようになったが、ルービン男爵の内心は、これで危険を回避できそうだと安堵していた。
内容が内容なのでルービン男爵の目に留まる前に、ミシェルだけに確認してほしいと伝えられており、以前と同じ場所で待ち合わせることにした。
ミシェルが待ち合わせ場所につくとオーティスは既に待っており、その手には封筒があった。
挨拶もそこそこにオーティスはミシェルに封筒を渡し、さっそく中身を確認したミシェルは衝撃を受けることになった。
「本当だとしたら大変よ!」
「調べた限り、事実です」
「すみません、オーティス様のことを疑ったわけではありません。あまりにも驚いてしまったので……」
「それだけの内容ですから当然です。それよりも一刻も早く手を打ったほうがいいでしょう」
「はい。ありがとうございます、オーティス様」
「いえ」
相変わらず感情の薄いオーティスの言葉だったがミシェルのために気を使っていることは伝わっていた。
せっかくの気遣いを無駄にしないよう、ミシェルは足早に帰宅した。
「お父様、大変です!」
帰宅するなりミシェルは父親に伝えた。
「どうしたのだ? そんなに慌てて。もっと淑女としての振る舞いを身につけないとダグ殿との婚約が破談になってしまうぞ」
「破談になるなら好都合です。お父様はダグ様の正体をご存じないのですよね?」
「正体? 優秀な商人だろう?」
「その評価は裏付けがあってのことですか?」
「紹介してくれた商人とは懇意にしている。その人が自信を持って紹介したのだから問題なかろう」
「懇意にしている商人とはバナン商会のことですよね?」
「そうだが……」
ミシェルの剣幕にルービン男爵はたじろぎ、言い訳するかのように問われたことに答えていった。
だがバナン商会の名が出てきて、どうしてここでその名が出るのかと不思議に思った。
バナン商会はルービン男爵に何度か贈り物をしており、ルービン男爵としても貴族家との伝手を作りたいのだと判断し贈り物を受け取っていた。
これは貴族と商人の関係として珍しいことではない。
「バナン商会の悪評は存じ上げないのですか? そのような相手の紹介なら裏があるに決まっています」
「だが……」
商人の世界は厳しく、相手の弱みがあればそこを突くことも当然だ。
誇りや礼儀を重んじる貴族からすれば商人は何でもありの卑怯者であり下賎の者でしかなく、悪評はあって当然のものだと考えている。
ルービン男爵も同じような考えだったが、ミシェルがこのように、あえて追及するのだから何かがあるとは察することができた。
「お父様はルービン男爵家がどうなろうとも構わないというのですか?」
「そのようなことはない! ルービン男爵家のためにもダグ殿との婚約が必要なのだ!」
「ですからそのダグ様もバナン商会と共謀して当家を嵌めようとしているのです」
「……本当なのか? 信じられん」
ついに告げられたダグの狙い。
認めてしまえば自分の非を認めることになり、思わず否定したルービン男爵だったが、全てが仕組まれていたことだとすれば自分の非などと拘っている場合はではない。
ルービン男爵にとっては商人風情が貴族を嵌めようとしたことのほうが大問題だった。
「私の言い分を信じて下さらなくても構いません。ですがこの情報をもたらしたのはラングレイ子爵家のご令息、オーティス様なのです」
「何だと!? それならば信じるしかあるまい。だが……まさか……」
ルービン男爵はラングレイ子爵家の役割を知っていたため、その令息であるオーティスがもたらした情報であるなら信憑性が高いことを理解している。
認めたくなくともミシェルの言い分を信じ認めるしかない。
「お父様、ダグ様はきっと事実を認めないでしょう。ですが追及すれば諦めるかもしれません。これも当家を守るためです。どうかご理解ください」
「……仕方あるまい」
ダグとミシェルを婚約させようとしたのは財政的な理由であり、ルービン男爵家の存続が脅かされるのであれば婚約なんて推し進めるはずがなかった。
言葉では渋々認めたようになったが、ルービン男爵の内心は、これで危険を回避できそうだと安堵していた。
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