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「ひ、卑怯だぞ! どうして自ら戦おうとしない!? それでも貴族か!? 貴族の誇りはどうした!?」
「代理人を立てることは国の法で認められていることだ。何の問題もなかろう? まさか知らなかったとでも言うのか?」
「くっ……だが……」
このままでは負けることが半ば決まっているためブレントンは必死に抗議したが、それは自らの無知を晒すだけだった。
知らなかったと認めても事態は解決するはずがなく、恥の上塗りになるだけだ。
ブレントンが窮地を乗り切ろうと知恵を絞っている間にもウォレスは準備を進め、威嚇するように剣を素振りする。
あまりにも鋭い剣筋にブレントンは死の恐怖を覚え身震いした。
(あんなの相手にして勝てるはずがない! それにあの殺気は何だ!? 本気で俺を殺そうとしているのか!?)
マーガレットに危害を加えた相手であるブレントンが相手ならウォレスは容赦したくなかった。
とはいえ本当にブレントンの命を奪ってしまえば面倒なことになり兼ねないため、あくまでも本気で殺したいと思うことによる殺気だった。
(代理を立てるにしてもベイトマン男爵領ではまともな武力を持つ者は少ない。あの騎士に勝てるような奴なんていないぞ)
考えれば考えるほど詰んでいる現状を痛感することになる。
あれだけの殺気を放つ相手と決闘すれば最悪命を落とすことになり、最悪でなくとも大怪我をする可能性は否定できない。
まともに勝負を挑んで勝てるはずがなく、降参すれば怪我もせずマーガレットと離婚するだけ。
ブレントンには選択肢は用意されていなかったのだ。
「……降参する」
「ん? 何か言ったかな?」
「降参する」
「準備はいいかな? そろそろ決闘を始めるべきだと思うのだが?」
スティグラー伯爵はあえて聞こえないふりをしていた。
降参は相手が認めなければ意味がないため、ブレントンは大声で降参を宣言するしかない状況に追い込まれた。
「降参する! 俺の負けだ!」
「そうか、それがベイトマン男爵の選択ならば仕方ない。降参を受け入れよう。決闘で命を散らす覚悟すらないような小心者を相手にしてはスティグラー伯爵家の恥となるからな」
「ぐ……」
「それよりもマーガレットとの離婚だ。正式な手続きは後でするが実質的にはもう離婚が成立したものとして扱う。異論はないな?」
「ありません」
「ということだ。マーガレット、もう大丈夫だ」
「ありがとうございます、お父様。それにウォレスも」
「は、はい! マーガレット様のお役に立てたことを光栄に思います!」
こうしてベイトマン男爵領で行われた決闘はブレントンの降参により戦わずして幕を閉じた。
その後のブレントンを取り巻く状況は哀れとしか言いようがなかった。
多くの人が目撃したことで噂は広まり、ブレントンがマーガレットにした仕打ちも広まり、ブレントンは人として最低の領主だと評価されるようになった。
決闘で戦わずして降参を選んだことも腰抜けと嘲笑われることになった。
積極的にスティグラー伯爵家が制裁したわけではないが、これだけでもブレントンに対しては十分だとマーガレットは一応納得した。
これ以上の制裁はより上位の貴族や、下手すれば国王の介入を招くことにもなり兼ねない。
いくら被害者とはいえ国中に名が知れ渡るようなことはマーガレットも避けたく、追加制裁を求めることはなかった。
「代理人を立てることは国の法で認められていることだ。何の問題もなかろう? まさか知らなかったとでも言うのか?」
「くっ……だが……」
このままでは負けることが半ば決まっているためブレントンは必死に抗議したが、それは自らの無知を晒すだけだった。
知らなかったと認めても事態は解決するはずがなく、恥の上塗りになるだけだ。
ブレントンが窮地を乗り切ろうと知恵を絞っている間にもウォレスは準備を進め、威嚇するように剣を素振りする。
あまりにも鋭い剣筋にブレントンは死の恐怖を覚え身震いした。
(あんなの相手にして勝てるはずがない! それにあの殺気は何だ!? 本気で俺を殺そうとしているのか!?)
マーガレットに危害を加えた相手であるブレントンが相手ならウォレスは容赦したくなかった。
とはいえ本当にブレントンの命を奪ってしまえば面倒なことになり兼ねないため、あくまでも本気で殺したいと思うことによる殺気だった。
(代理を立てるにしてもベイトマン男爵領ではまともな武力を持つ者は少ない。あの騎士に勝てるような奴なんていないぞ)
考えれば考えるほど詰んでいる現状を痛感することになる。
あれだけの殺気を放つ相手と決闘すれば最悪命を落とすことになり、最悪でなくとも大怪我をする可能性は否定できない。
まともに勝負を挑んで勝てるはずがなく、降参すれば怪我もせずマーガレットと離婚するだけ。
ブレントンには選択肢は用意されていなかったのだ。
「……降参する」
「ん? 何か言ったかな?」
「降参する」
「準備はいいかな? そろそろ決闘を始めるべきだと思うのだが?」
スティグラー伯爵はあえて聞こえないふりをしていた。
降参は相手が認めなければ意味がないため、ブレントンは大声で降参を宣言するしかない状況に追い込まれた。
「降参する! 俺の負けだ!」
「そうか、それがベイトマン男爵の選択ならば仕方ない。降参を受け入れよう。決闘で命を散らす覚悟すらないような小心者を相手にしてはスティグラー伯爵家の恥となるからな」
「ぐ……」
「それよりもマーガレットとの離婚だ。正式な手続きは後でするが実質的にはもう離婚が成立したものとして扱う。異論はないな?」
「ありません」
「ということだ。マーガレット、もう大丈夫だ」
「ありがとうございます、お父様。それにウォレスも」
「は、はい! マーガレット様のお役に立てたことを光栄に思います!」
こうしてベイトマン男爵領で行われた決闘はブレントンの降参により戦わずして幕を閉じた。
その後のブレントンを取り巻く状況は哀れとしか言いようがなかった。
多くの人が目撃したことで噂は広まり、ブレントンがマーガレットにした仕打ちも広まり、ブレントンは人として最低の領主だと評価されるようになった。
決闘で戦わずして降参を選んだことも腰抜けと嘲笑われることになった。
積極的にスティグラー伯爵家が制裁したわけではないが、これだけでもブレントンに対しては十分だとマーガレットは一応納得した。
これ以上の制裁はより上位の貴族や、下手すれば国王の介入を招くことにもなり兼ねない。
いくら被害者とはいえ国中に名が知れ渡るようなことはマーガレットも避けたく、追加制裁を求めることはなかった。
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