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マーガレットが結婚してから何の知らせもなく、スティグラー夫妻は最初こそ何の不安も抱かなかったものの、少しずつ不安が強くなってきていた。
そこにマーガレットから手紙が届いたことでスティグラー伯爵夫妻は安堵し、揃って中身を読むことにした。
「マーガレットからの手紙ね。何かあったのかしら?」
「子供でもできたという報告か? 幸せに過ごしているならそれは何よりだが」
考えを言い合いつつスティグラー伯爵は手紙の封を切り、中身に目を通すが、読み進めるにつれスティグラー伯爵の顔は困惑したものへと変わっていく。
「どうしたの?」
「いや、不可解なことが書かれていてな。実際に読んでもらったほうが早ないな」
スティグラー伯爵夫人は手紙を渡され目を通すが、やはりスティグラー伯爵と同じような表情となった。
「犬なんて飼ったことがないのにね。マーガレットは何を伝えたかったの?」
「明らかにおかしい。となると他に書かれていることも怪しんだほうがいいのかもしれないな。もしかしたら、あえて違和感を覚えるように嘘を仕込んだのかもしれん」
「どうしてそんなことをするの?」
「本当のことを書けないからだ。これはマーガレットが助けを求めているのかもしれん」
「ブレントンと結婚して幸せになっていたのではないの? 結婚する前は何の問題もなかったわよ? 結婚してから連絡も寄越さないけど、新婚生活を満喫しているだけかと思ったけど」
考えても予想であり実態がどうなのか知ることはできない。
かといって証拠もなく直接ベイトマン男爵領へ乗り込めば非難されるのはスティグラー伯爵のほうになり、マーガレットの立場を悪くしてしまうことも考えられる。
スティグラー伯爵がどうすべきか、苦渋の決断となるが現状の方針は自ずと決まる。
「……実際にどうなっているのか調べる必要がありそうだな」
「そうね、何もなければいいけど。何かあったなら早く手を打たないとね」
マーガレットはブレントンに幼少の頃の話をあまりしておらず、さりげなく思い出に触れるような内容には不信感を抱くことはなかった。
これによりマーガレットが仕込んだメッセージはスティグラー伯爵夫妻に伝わった。
スティグラー伯爵はすぐに調査を命じ、その道のプロによりブレントンに気付かれることもなく実態を調べることに成功した。
調査結果の報告を受けるべく、スティグラー伯爵夫妻は調査員から直々に話を聞くことにした。
間に人を挟むと誤解の原因になるため、できるだけマーガレットの正確な状況を把握しようという意図によるものだ。
伯爵夫妻を前にした調査員は緊張しつつも調べた事実を報告する。
「マーガレット様の姿を直接確認することはできませんでした。マーガレット様が外出されたことも確認できません。恐らくはずっと館にいるものだと思われます」
「そうか。社交の場にも顔を出していなかったはずだ。病気か何かなのか? だが手紙には元気とあったが……」
「まだ報告の続きがあるでしょ? それを聞くべきよ」
「そうだ、すまなかった。報告を続けてくれ」
「はい。使用人に直接接触するとブレントン様に勘付かれる可能性もあるため、使用人が出入りしている店で張り込んだところ、どうもマーガレット様が使用人のように扱われているらしいという話を耳にしました」
「なんだと!? 間違いないのか!?」
「使用人が直接口にしていたので信憑性は高いかと思われます」
「何ということだ……」
「マーガレット……」
この報告にはスティグラー夫妻もショックを受けたが、すぐに立ち直り、そのような状況から娘を救い出さなくてはならないと決意した。
「こうなったら直接乗り込んで実態を確認してやろう。もし……マーガレットを酷い目に遭わせていたなら許さん。ベイトマン男爵家なんぞ捻り潰してやる」
「そうよ、それくらいしないと気が治まらないわ」
スティグラー伯爵はすぐにブレントンのもとへ向かう手配をし、怒りが収まらないまま馬を走らせマーガレットのもとへと急いだ。
スティグラー伯爵は領主という身分であり、当然護衛の騎士もそれなりの数が同行することになる。
かなり急いでいることもあり、疾走する騎士と貴族らしい姿を目撃した人々は何事かと噂した。
護衛の騎士の一人、ウォレスはスティグラー伯爵の急な命令を受け、ブレントンに嫁いだマーガレットに何かあったのではないかと気が気でなかった。
ウォレスの父親もスティグラー伯爵家に仕える騎士であり、ウォレス自身も幼い頃から騎士になるべく訓練に励んだ。
当初の目標はそうであったが、いつの頃からか姫を助ける騎士に憧れるようになり、それをマーガレットと自分に置き換えるようになっていた。
思春期を迎える頃にはマーガレットに恋心を抱き、身分や立場の違いから叶わない想いだと理解しつつ、何があろうと絶対に守ると心の中で誓っていた。
マーガレットがブレントンと婚約したことを知り悲しみ、いっそう厳しい訓練で自分の気持ちをごまかし、結婚しベイトマン男爵領へ嫁ぐ際の護衛として同行したときは気持ちの整理を付けていた。
付けていたはずだった。
(マーガレット様、どうかご無事で)
無事を祈るだけではなく、愛する女性の窮地かもしれないとなれば落ち着いてはいられない。
ウォレスは自分の気持ちに気付くも頭では叶わない恋だと理解しており、心の中では気持ちと理性がせめぎ合っていた。
そこにマーガレットから手紙が届いたことでスティグラー伯爵夫妻は安堵し、揃って中身を読むことにした。
「マーガレットからの手紙ね。何かあったのかしら?」
「子供でもできたという報告か? 幸せに過ごしているならそれは何よりだが」
考えを言い合いつつスティグラー伯爵は手紙の封を切り、中身に目を通すが、読み進めるにつれスティグラー伯爵の顔は困惑したものへと変わっていく。
「どうしたの?」
「いや、不可解なことが書かれていてな。実際に読んでもらったほうが早ないな」
スティグラー伯爵夫人は手紙を渡され目を通すが、やはりスティグラー伯爵と同じような表情となった。
「犬なんて飼ったことがないのにね。マーガレットは何を伝えたかったの?」
「明らかにおかしい。となると他に書かれていることも怪しんだほうがいいのかもしれないな。もしかしたら、あえて違和感を覚えるように嘘を仕込んだのかもしれん」
「どうしてそんなことをするの?」
「本当のことを書けないからだ。これはマーガレットが助けを求めているのかもしれん」
「ブレントンと結婚して幸せになっていたのではないの? 結婚する前は何の問題もなかったわよ? 結婚してから連絡も寄越さないけど、新婚生活を満喫しているだけかと思ったけど」
考えても予想であり実態がどうなのか知ることはできない。
かといって証拠もなく直接ベイトマン男爵領へ乗り込めば非難されるのはスティグラー伯爵のほうになり、マーガレットの立場を悪くしてしまうことも考えられる。
スティグラー伯爵がどうすべきか、苦渋の決断となるが現状の方針は自ずと決まる。
「……実際にどうなっているのか調べる必要がありそうだな」
「そうね、何もなければいいけど。何かあったなら早く手を打たないとね」
マーガレットはブレントンに幼少の頃の話をあまりしておらず、さりげなく思い出に触れるような内容には不信感を抱くことはなかった。
これによりマーガレットが仕込んだメッセージはスティグラー伯爵夫妻に伝わった。
スティグラー伯爵はすぐに調査を命じ、その道のプロによりブレントンに気付かれることもなく実態を調べることに成功した。
調査結果の報告を受けるべく、スティグラー伯爵夫妻は調査員から直々に話を聞くことにした。
間に人を挟むと誤解の原因になるため、できるだけマーガレットの正確な状況を把握しようという意図によるものだ。
伯爵夫妻を前にした調査員は緊張しつつも調べた事実を報告する。
「マーガレット様の姿を直接確認することはできませんでした。マーガレット様が外出されたことも確認できません。恐らくはずっと館にいるものだと思われます」
「そうか。社交の場にも顔を出していなかったはずだ。病気か何かなのか? だが手紙には元気とあったが……」
「まだ報告の続きがあるでしょ? それを聞くべきよ」
「そうだ、すまなかった。報告を続けてくれ」
「はい。使用人に直接接触するとブレントン様に勘付かれる可能性もあるため、使用人が出入りしている店で張り込んだところ、どうもマーガレット様が使用人のように扱われているらしいという話を耳にしました」
「なんだと!? 間違いないのか!?」
「使用人が直接口にしていたので信憑性は高いかと思われます」
「何ということだ……」
「マーガレット……」
この報告にはスティグラー夫妻もショックを受けたが、すぐに立ち直り、そのような状況から娘を救い出さなくてはならないと決意した。
「こうなったら直接乗り込んで実態を確認してやろう。もし……マーガレットを酷い目に遭わせていたなら許さん。ベイトマン男爵家なんぞ捻り潰してやる」
「そうよ、それくらいしないと気が治まらないわ」
スティグラー伯爵はすぐにブレントンのもとへ向かう手配をし、怒りが収まらないまま馬を走らせマーガレットのもとへと急いだ。
スティグラー伯爵は領主という身分であり、当然護衛の騎士もそれなりの数が同行することになる。
かなり急いでいることもあり、疾走する騎士と貴族らしい姿を目撃した人々は何事かと噂した。
護衛の騎士の一人、ウォレスはスティグラー伯爵の急な命令を受け、ブレントンに嫁いだマーガレットに何かあったのではないかと気が気でなかった。
ウォレスの父親もスティグラー伯爵家に仕える騎士であり、ウォレス自身も幼い頃から騎士になるべく訓練に励んだ。
当初の目標はそうであったが、いつの頃からか姫を助ける騎士に憧れるようになり、それをマーガレットと自分に置き換えるようになっていた。
思春期を迎える頃にはマーガレットに恋心を抱き、身分や立場の違いから叶わない想いだと理解しつつ、何があろうと絶対に守ると心の中で誓っていた。
マーガレットがブレントンと婚約したことを知り悲しみ、いっそう厳しい訓練で自分の気持ちをごまかし、結婚しベイトマン男爵領へ嫁ぐ際の護衛として同行したときは気持ちの整理を付けていた。
付けていたはずだった。
(マーガレット様、どうかご無事で)
無事を祈るだけではなく、愛する女性の窮地かもしれないとなれば落ち着いてはいられない。
ウォレスは自分の気持ちに気付くも頭では叶わない恋だと理解しており、心の中では気持ちと理性がせめぎ合っていた。
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