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ブリタニーは事あるごとにエミリアを侮辱したり挑発していたが、エミリアは相手にすることもなく、ブリタニーがムキになるばかりだった。
「まだ領主夫人の座にしがみ付いてるの? みっともないわね」
「……」
ブリタニーの挑発にエミリアは無言で、特に悔しがるような表情でもなく、それがブリタニーの怒りをさらに燃え上がらせる。
「貴女なんて勉強以外全然駄目じゃない。ちょっと勉強ができたからってアンドルー様の婚約者に選ばれたこと自体おかしかったのよ」
「……」
「私はブロメル侯爵の娘なのよ。エイムズ子爵の娘とは比べ物にならないほど立派な家柄なのよ」
「……」
「貴女の働きぶりにアンドルー様は満足されていないようなの。それに夜のほうもね。何もかもが私のほうが上なのよ。わかる?」
「……」
アンドルーの浮気を知らされようが既に冷めているエミリアにとっては動揺するようなことでもなく、反論したところでブリタニーには意味がないと考え、ずっと無言を貫いた。
(ブリタニーは必死ね。アンドルーもブリタニーのほうが良さそうだし、もう十分よね。今ならアンドルーも喜んで離婚してくれそうだし。喜んだ分だけ後で後悔すればいいわ)
そう考え、つい笑みがこぼれてしまう。
だがそれはブリタニーにとって取るに足りない相手を嘲笑っているように見えてしまった。
「このっ……どこまで私を侮辱すれば気が済むのよ!」
ついに不満を爆発させたブリタニー。
運命の悪戯なのか、そこに偶然アンドルーがやってきた。
「何の騒ぎだ? まさかエミリア、お前、ブリタニーに酷いことを言ったのか?」
「そうなんです、アンドルー様。エミリアが私に無能で役立たずだからブロメル侯爵領に帰れって言ったんです。酷いですよね?」
「何だと!? それは酷いな。許すことはできない!」
「……」
「今まで我慢してきたがもう見限ることにした! エミリア! お前とは離婚する! 領地から出て行け!」
それこそエミリアが望んでいた言葉だった。
自分から言い出して離婚するよりもアンドルーから理不尽な理由で離婚されたほうがアンドルーを悪者にできるからだ。
離婚すると決めていたとはいえ自分から告げるよりも良い展開となり、アンドルーにより大きなダメージを与えられる運命の悪戯に感謝した。
アンドルーの発言はブリタニーにも大きな影響を与えた。
「やっと決断したのね、アンドルー様!」
「ははっ、言ってやったぞ。これでブリタニーを妻として迎えられるな」
「これで私が領主夫人になれるのね」
「そうだとも! やはり俺はブリタニーを妻に迎えるべきだったんだ。エミリアのせいで遠回りしたが、ブリタニー、一緒に幸せになろう!」
「はい!」
三文芝居よりも酷いものを見せられ、エミリアは呆然としていた。
ここまで人は愚かになれるのかと、ただの侮辱よりもエミリアにとっては衝撃的だった。
「ふふん、やはりこうなったわね。最初からエミリアがアンドルー様の妻なんておかしかったのよ」
「そうだとも。ショックかもしれないが、これが現実だ。受け入れるんだな」
ショックで呆然としていたわけではないが、アンドルーは都合良く解釈した。
この機会に今まで溜め込んだ鬱憤を少しでも晴らそうという意図があり、もやは適当な理由でエミリアを傷つけようとしたが、エミリアはそれに付き合う義理は既にない。
「離婚を告げられたので失礼します。準備して出ていきますので」
アンドルーとブリタニーの相手をするのも馬鹿らしかったため、エミリアは出て行く準備をすることにした。
アンドルーとブリタニーは去り行くエミリアに侮辱の言葉を浴びせていたがエミリアは気にしなかった。
(私がいなければ領地が破綻すると思うけど、これもアンドルーの選んだことだから。でも部下に罪はないのだから挨拶くらいはしておかないとね)
エミリアの言った準備とは別れの挨拶も含まれている。
エミリアの離婚と追放を知った部下たちからは別れを惜しまれ、中にはアシュビー伯爵領に未来はないと判断し仕事をやめることを決断した人もいた。
そのようなことがあったとはアンドルーもブリタニーも知らない。
こうしてエミリアはアシュビー伯爵領から出て行った。
「まだ領主夫人の座にしがみ付いてるの? みっともないわね」
「……」
ブリタニーの挑発にエミリアは無言で、特に悔しがるような表情でもなく、それがブリタニーの怒りをさらに燃え上がらせる。
「貴女なんて勉強以外全然駄目じゃない。ちょっと勉強ができたからってアンドルー様の婚約者に選ばれたこと自体おかしかったのよ」
「……」
「私はブロメル侯爵の娘なのよ。エイムズ子爵の娘とは比べ物にならないほど立派な家柄なのよ」
「……」
「貴女の働きぶりにアンドルー様は満足されていないようなの。それに夜のほうもね。何もかもが私のほうが上なのよ。わかる?」
「……」
アンドルーの浮気を知らされようが既に冷めているエミリアにとっては動揺するようなことでもなく、反論したところでブリタニーには意味がないと考え、ずっと無言を貫いた。
(ブリタニーは必死ね。アンドルーもブリタニーのほうが良さそうだし、もう十分よね。今ならアンドルーも喜んで離婚してくれそうだし。喜んだ分だけ後で後悔すればいいわ)
そう考え、つい笑みがこぼれてしまう。
だがそれはブリタニーにとって取るに足りない相手を嘲笑っているように見えてしまった。
「このっ……どこまで私を侮辱すれば気が済むのよ!」
ついに不満を爆発させたブリタニー。
運命の悪戯なのか、そこに偶然アンドルーがやってきた。
「何の騒ぎだ? まさかエミリア、お前、ブリタニーに酷いことを言ったのか?」
「そうなんです、アンドルー様。エミリアが私に無能で役立たずだからブロメル侯爵領に帰れって言ったんです。酷いですよね?」
「何だと!? それは酷いな。許すことはできない!」
「……」
「今まで我慢してきたがもう見限ることにした! エミリア! お前とは離婚する! 領地から出て行け!」
それこそエミリアが望んでいた言葉だった。
自分から言い出して離婚するよりもアンドルーから理不尽な理由で離婚されたほうがアンドルーを悪者にできるからだ。
離婚すると決めていたとはいえ自分から告げるよりも良い展開となり、アンドルーにより大きなダメージを与えられる運命の悪戯に感謝した。
アンドルーの発言はブリタニーにも大きな影響を与えた。
「やっと決断したのね、アンドルー様!」
「ははっ、言ってやったぞ。これでブリタニーを妻として迎えられるな」
「これで私が領主夫人になれるのね」
「そうだとも! やはり俺はブリタニーを妻に迎えるべきだったんだ。エミリアのせいで遠回りしたが、ブリタニー、一緒に幸せになろう!」
「はい!」
三文芝居よりも酷いものを見せられ、エミリアは呆然としていた。
ここまで人は愚かになれるのかと、ただの侮辱よりもエミリアにとっては衝撃的だった。
「ふふん、やはりこうなったわね。最初からエミリアがアンドルー様の妻なんておかしかったのよ」
「そうだとも。ショックかもしれないが、これが現実だ。受け入れるんだな」
ショックで呆然としていたわけではないが、アンドルーは都合良く解釈した。
この機会に今まで溜め込んだ鬱憤を少しでも晴らそうという意図があり、もやは適当な理由でエミリアを傷つけようとしたが、エミリアはそれに付き合う義理は既にない。
「離婚を告げられたので失礼します。準備して出ていきますので」
アンドルーとブリタニーの相手をするのも馬鹿らしかったため、エミリアは出て行く準備をすることにした。
アンドルーとブリタニーは去り行くエミリアに侮辱の言葉を浴びせていたがエミリアは気にしなかった。
(私がいなければ領地が破綻すると思うけど、これもアンドルーの選んだことだから。でも部下に罪はないのだから挨拶くらいはしておかないとね)
エミリアの言った準備とは別れの挨拶も含まれている。
エミリアの離婚と追放を知った部下たちからは別れを惜しまれ、中にはアシュビー伯爵領に未来はないと判断し仕事をやめることを決断した人もいた。
そのようなことがあったとはアンドルーもブリタニーも知らない。
こうしてエミリアはアシュビー伯爵領から出て行った。
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