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ブロメル侯爵との用事を終えたアンドルーは帰り際に令嬢から呼び止められた。
「お久しぶりです、アンドルー様」
「君は……確かブリタニー嬢か!?」
「はい、覚えていてくださって光栄です」
学園で同級生だったブリタニーだった。
ブリタニーはブロメル侯爵の令嬢であり、この場にいてもおかしくはない。
だがもう結婚していてもおかしくはない年齢であり、結婚していれば実家に用があって訪れた際に偶然出会ったことになる。
あり得ないくらいの偶然よりも結婚していない可能性が高いと思ったアンドルーは、万が一失礼なことをしてしまえばブロメル侯爵との関係の悪化を招きかねないため、念のため確認する。
「もうとっくに結婚していたかと思ったよ」
「デリカシーがありませんよ、アンドルー様。でもあのエミリアと結婚されたアンドルー様なら問題ありませんね」
アンドルーはブリタニーの言葉の意味を理解できなかった。
「……反応に困るな」
「ふふっ、女性に結婚していないのかなんて失礼なことを訊いた仕返しですよ」
失礼なことを言ったアンドルーに対しブリタニーは悪戯っぽく微笑み本心を隠す。
アンドルーはブリタニーの微笑みに見とれ、エミリア相手には感じたことのない感情を抱いた。
「……どうかしました? 私の顔に何かついてます?」
「いや、そんなことはない」
「ふふっ、アンドルー様は領主になられたというのに相変わらずですね」
「まあ、な。領主になったとはいえまだ若いことには変わらない。学園生活の日々だって懐かしむほど昔の話でもないしな」
「そうですよね。でも領主として苦労されていますよね? エミリアが足を引っ張っているのではありませんか?」
アンドルーはちっぽけなプライドによりエミリアのせいに仕立て上げることを閃いた。
ブリタニーの前で良いところを見せようという意図もあってのことだ。
「そうだとも。領主になって上手くいかないのは全部エミリアのせいなんだ。結婚して後悔している。こんな役立たずだとは思わなかったんだがな」
「それでしたら私がお手伝いしましょうか? これでもブロメル侯爵の娘です。その辺の令嬢よりも領地の運営についても詳しいですよ?」
「それは助かる。是非お願いしたい。だがいいのか? その……誰かに何か言われたりはしないのか?」
「安心してください。婚約者から捨てられた身ですから。こうしてアンドルー様に出会えたのも偶然とは思えません。どうか私にアンドルー様のお手伝いをさせてください」
「……わかった。よろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
やっとブリタニーが結婚していないことが明らかになった。
アンドルーにとってはブリタニーさえいればエミリアに屈辱を味わわされることもなくなると考え好都合であり、このままブリタニーと良い関係になれればという下心もあった。
ブリタニーから望んだことでもあり、ブロメル侯爵はブリタニーがアンドルーに同行し領地の運営を手伝う許可を与えた。
ただし一つだけ条件があった。
――ブリタニーが問題を起こそうとも責任を問わない。
領地の運営で失態を犯し責任を追及されればブロメル侯爵家としても面倒なことになるのはアンドルーでも想像できた。
アンドルーとしてもブリタニーの責任を問えばブロメル侯爵家との関係が悪化することは明らかであり、それだけは絶対に避けなくてはならないと考え、提示された条件を受け入れた。
こうしてブリタニーを連れてアシュビー伯爵領へと戻ったアンドルーだったが、エミリアにとっては夫が女性を連れてきたことになる。
仕事上の関係だと言われようが、ブリタニーはアンドルーの恋人のように振る舞い、仕事上でもエミリアの権限を剥奪しブリタニーに権限を与えた。
(これがアンドルーの気持ちなのね。こうなれば十分すぎるくらいアンドルーの有責になるわよね。それにブリタニーなんかに任せたら領地ももう終わりよ。私がいなくなれば私の価値が明らかになるわ)
アンドルーへの仕返しもあったが、何よりも見下すような視線を投げかけてくるブリタニーの存在が不愉快だった。
それを許すアンドルーからは反省の気配が微塵も感じられず、ブリタニーのこともあり離婚を早めようと考えた。
(でもせっかくだからブリタニーにも少しだけ仕返ししてあげないと。ムキになってアンドルーに執着してくれれば面白いことになりそうだし)
「お久しぶりです、アンドルー様」
「君は……確かブリタニー嬢か!?」
「はい、覚えていてくださって光栄です」
学園で同級生だったブリタニーだった。
ブリタニーはブロメル侯爵の令嬢であり、この場にいてもおかしくはない。
だがもう結婚していてもおかしくはない年齢であり、結婚していれば実家に用があって訪れた際に偶然出会ったことになる。
あり得ないくらいの偶然よりも結婚していない可能性が高いと思ったアンドルーは、万が一失礼なことをしてしまえばブロメル侯爵との関係の悪化を招きかねないため、念のため確認する。
「もうとっくに結婚していたかと思ったよ」
「デリカシーがありませんよ、アンドルー様。でもあのエミリアと結婚されたアンドルー様なら問題ありませんね」
アンドルーはブリタニーの言葉の意味を理解できなかった。
「……反応に困るな」
「ふふっ、女性に結婚していないのかなんて失礼なことを訊いた仕返しですよ」
失礼なことを言ったアンドルーに対しブリタニーは悪戯っぽく微笑み本心を隠す。
アンドルーはブリタニーの微笑みに見とれ、エミリア相手には感じたことのない感情を抱いた。
「……どうかしました? 私の顔に何かついてます?」
「いや、そんなことはない」
「ふふっ、アンドルー様は領主になられたというのに相変わらずですね」
「まあ、な。領主になったとはいえまだ若いことには変わらない。学園生活の日々だって懐かしむほど昔の話でもないしな」
「そうですよね。でも領主として苦労されていますよね? エミリアが足を引っ張っているのではありませんか?」
アンドルーはちっぽけなプライドによりエミリアのせいに仕立て上げることを閃いた。
ブリタニーの前で良いところを見せようという意図もあってのことだ。
「そうだとも。領主になって上手くいかないのは全部エミリアのせいなんだ。結婚して後悔している。こんな役立たずだとは思わなかったんだがな」
「それでしたら私がお手伝いしましょうか? これでもブロメル侯爵の娘です。その辺の令嬢よりも領地の運営についても詳しいですよ?」
「それは助かる。是非お願いしたい。だがいいのか? その……誰かに何か言われたりはしないのか?」
「安心してください。婚約者から捨てられた身ですから。こうしてアンドルー様に出会えたのも偶然とは思えません。どうか私にアンドルー様のお手伝いをさせてください」
「……わかった。よろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
やっとブリタニーが結婚していないことが明らかになった。
アンドルーにとってはブリタニーさえいればエミリアに屈辱を味わわされることもなくなると考え好都合であり、このままブリタニーと良い関係になれればという下心もあった。
ブリタニーから望んだことでもあり、ブロメル侯爵はブリタニーがアンドルーに同行し領地の運営を手伝う許可を与えた。
ただし一つだけ条件があった。
――ブリタニーが問題を起こそうとも責任を問わない。
領地の運営で失態を犯し責任を追及されればブロメル侯爵家としても面倒なことになるのはアンドルーでも想像できた。
アンドルーとしてもブリタニーの責任を問えばブロメル侯爵家との関係が悪化することは明らかであり、それだけは絶対に避けなくてはならないと考え、提示された条件を受け入れた。
こうしてブリタニーを連れてアシュビー伯爵領へと戻ったアンドルーだったが、エミリアにとっては夫が女性を連れてきたことになる。
仕事上の関係だと言われようが、ブリタニーはアンドルーの恋人のように振る舞い、仕事上でもエミリアの権限を剥奪しブリタニーに権限を与えた。
(これがアンドルーの気持ちなのね。こうなれば十分すぎるくらいアンドルーの有責になるわよね。それにブリタニーなんかに任せたら領地ももう終わりよ。私がいなくなれば私の価値が明らかになるわ)
アンドルーへの仕返しもあったが、何よりも見下すような視線を投げかけてくるブリタニーの存在が不愉快だった。
それを許すアンドルーからは反省の気配が微塵も感じられず、ブリタニーのこともあり離婚を早めようと考えた。
(でもせっかくだからブリタニーにも少しだけ仕返ししてあげないと。ムキになってアンドルーに執着してくれれば面白いことになりそうだし)
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