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実務をエミリアに丸投げしている自覚はアンドルーにもあり、エミリアが逆らって仕事を投げ出せばどうにもならなくなることも想像できた。
今更、ではあるのだが。
(まずい、まずいぞ……。だがエミリアに頭は下げたくない。どうしてアシュビー伯爵である俺がエイムズ子爵の娘ごときに頭を下げなければならないんだ? おかしいだろう?)
アンドルーは悩んだがまだ見込みが甘く、事態を正しく認識できていなかった。
そこにエミリアは妥協案のようであって、そうではない案を出す。
「私も言い過ぎでした。ではアンドルー様がどうするか答えを出すまで私は仕事を放棄することにします。どうぞごゆっくりお考えください」
「……それが夫への態度か? そのような態度が許されると思っているのか?」
「許されないなら離婚で構いません。後悔しない選択をしていただきたいので、今は熟考していただけたらと思います」
「……いいだろう」
問題の先送りでしかないが、アンドルーにとっては離婚という選択肢は選べなかった。
エミリアが仕事を放棄すれば当然仕事は回らなくなる。
部下の不満も高まりアンドルーの評価も低下し、アンドルーはどうにかしなければならないと考えるが対策は思いつかなかった。
(仕方ない、エミリアに頭を下げるか。だがこれは俺の負けではない。勝利のために一時的に頭を下げてやるんだ!)
自分に言い訳するが勝利の道筋が見えているはずもない。
「エミリア、離婚には応じない。どうか仕事に復帰してくれないか?」
「役立たずの私が復帰したところで足を引っ張るだけではありませんか?」
「そんなはずはない。エミリアは今までしっかり働いてくれたじゃないか」
「しっかり働いた結果が役立たず扱いですよね?」
謝罪しないアンドルーにエミリアもつい正論で返してしまったが、そこに後悔はなく、むしろ今まで我慢してきた分だけ気分も爽快になる。
(今まで文句を言わずに従ってきた私が馬鹿みたい。私が間違っていたわ。アンドルー相手に我慢しても意味がないじゃない)
今までとは違う行動をしたことでエミリアも自分が抱いていた不満の大きさが予想以上だったことを自覚することができ、こうなってしまえばアンドルーとの関係も今まで通りではいられない。
「エミリアの能力は認めている。だから力を貸してほしい」
アンドルーとエミリアの力関係が逆転した瞬間だ。
「わかったわ。でもそれが人にものを頼む態度なの?」
「くっ……」
苦渋の選択でアンドルーは頭を下げ、改めて謝罪する。
「どうか力を貸してほしい。この通りだ」
「いいわよ」
エミリアの協力を取り付けたとはいえ、アンドルーにとっては屈辱でしかなかった。
(これで問題が解決したとでも考えているの? 許すはずないのに)
エミリアがなぜこうもあっさりと了承したのか、アンドルーは全く疑問を抱かなかった。
エミリアが復帰したことで仕事は回り始め、さすがエミリアと部下たちも称賛した。
一方で領主であるアンドルーを称賛することはなく、かといって陰口を叩こうにも誰かに密告されればどのような処分を下されるかわからず、迂闊なことはできずにいた。
しかしアンドルーを称賛しないことで批判の意思を示し鬱憤を晴らすことになった。
(くそっ、屈辱だ。このままエミリアに裏から操られるのは癪だ。どうにかしないと……)
屈辱に耐えるアンドルーは逆転を諦めていない。
そのようなアンドルーが逆転の可能性を見出したのは、領主としてブロメル侯爵に会いに行ったときのことだった。
今更、ではあるのだが。
(まずい、まずいぞ……。だがエミリアに頭は下げたくない。どうしてアシュビー伯爵である俺がエイムズ子爵の娘ごときに頭を下げなければならないんだ? おかしいだろう?)
アンドルーは悩んだがまだ見込みが甘く、事態を正しく認識できていなかった。
そこにエミリアは妥協案のようであって、そうではない案を出す。
「私も言い過ぎでした。ではアンドルー様がどうするか答えを出すまで私は仕事を放棄することにします。どうぞごゆっくりお考えください」
「……それが夫への態度か? そのような態度が許されると思っているのか?」
「許されないなら離婚で構いません。後悔しない選択をしていただきたいので、今は熟考していただけたらと思います」
「……いいだろう」
問題の先送りでしかないが、アンドルーにとっては離婚という選択肢は選べなかった。
エミリアが仕事を放棄すれば当然仕事は回らなくなる。
部下の不満も高まりアンドルーの評価も低下し、アンドルーはどうにかしなければならないと考えるが対策は思いつかなかった。
(仕方ない、エミリアに頭を下げるか。だがこれは俺の負けではない。勝利のために一時的に頭を下げてやるんだ!)
自分に言い訳するが勝利の道筋が見えているはずもない。
「エミリア、離婚には応じない。どうか仕事に復帰してくれないか?」
「役立たずの私が復帰したところで足を引っ張るだけではありませんか?」
「そんなはずはない。エミリアは今までしっかり働いてくれたじゃないか」
「しっかり働いた結果が役立たず扱いですよね?」
謝罪しないアンドルーにエミリアもつい正論で返してしまったが、そこに後悔はなく、むしろ今まで我慢してきた分だけ気分も爽快になる。
(今まで文句を言わずに従ってきた私が馬鹿みたい。私が間違っていたわ。アンドルー相手に我慢しても意味がないじゃない)
今までとは違う行動をしたことでエミリアも自分が抱いていた不満の大きさが予想以上だったことを自覚することができ、こうなってしまえばアンドルーとの関係も今まで通りではいられない。
「エミリアの能力は認めている。だから力を貸してほしい」
アンドルーとエミリアの力関係が逆転した瞬間だ。
「わかったわ。でもそれが人にものを頼む態度なの?」
「くっ……」
苦渋の選択でアンドルーは頭を下げ、改めて謝罪する。
「どうか力を貸してほしい。この通りだ」
「いいわよ」
エミリアの協力を取り付けたとはいえ、アンドルーにとっては屈辱でしかなかった。
(これで問題が解決したとでも考えているの? 許すはずないのに)
エミリアがなぜこうもあっさりと了承したのか、アンドルーは全く疑問を抱かなかった。
エミリアが復帰したことで仕事は回り始め、さすがエミリアと部下たちも称賛した。
一方で領主であるアンドルーを称賛することはなく、かといって陰口を叩こうにも誰かに密告されればどのような処分を下されるかわからず、迂闊なことはできずにいた。
しかしアンドルーを称賛しないことで批判の意思を示し鬱憤を晴らすことになった。
(くそっ、屈辱だ。このままエミリアに裏から操られるのは癪だ。どうにかしないと……)
屈辱に耐えるアンドルーは逆転を諦めていない。
そのようなアンドルーが逆転の可能性を見出したのは、領主としてブロメル侯爵に会いに行ったときのことだった。
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