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それから何度もアシュビー伯爵はアンドルーに課題を与え、エミリアの働きによって褒められるほどの成果を上げ続けた。

「ふむ、これならアンドルーに家督を譲ってもいいかもしれん」
「本当ですか、父上!?」
「なんだ、自信がないなら数年後でも構わんが」
「いえ、自信はあります。任せてください」
「よし、ならば家督を譲るべく手続きを進めよう」
「はい」

アシュビー伯爵はアンドルーの成果がエミリアによるものだと正確に把握することはなく、エミリアはせいぜいアンドルーの手伝い程度であると認識していた。
エミリアの寄与がどれほどのものであれ成果を上げ続けたことは事実であり、今後もアンドルーとエミリアが協力すれば領地の運営も問題ないとの判断だ。

アンドルーは喜びエミリアにも家督を継ぐ旨伝える。

「喜べ、エミリア」
「どうしたのですか?」
「父上が俺に家督を譲ることが決まった。これで俺が領主となる。アシュビー伯爵領は今後さらなる飛躍を遂げるだろう。期待しているぞ、エミリア」
「おめでとうございます、アンドルー様。働きが認められたのですね」
「ああ」

喜ぶアンドルーはエミリアに感謝の言葉を伝えることはなく、エミリアも利用されているだけという事実を受け入れているため、アンドルーの変わらない態度に何も思わなかった。
何も思わなかったのはアンドルーの態度にであり、エミリアの心の中は別のことを考えていた。

(アンドルーの働きではなくて私の働きだけどね。でもアンドルーが領主になるなら私抜きでは成り立たないわよね)

エミリアはついにこの時がやってきたかとほくそ笑んだ。
愛されず利用され続けてきたが、ついに仕返しのチャンスが巡ってきたのだ。

アンドルーの立場はエミリアの気持ち一つで容易く崩れ去る、脆弱なものだった。
当然そのことに気付くようなアンドルーではない。





アシュビー伯爵位を継いだアンドルーは領地の発展を領民に約束した。
そのこともあり、他の領主たちからも注視されることとなったが、必ずしも言葉通りに受け止められたわけではない。
むしろ若造が何を言うか、と思った老獪な領主たちもいたくらいだ。

アンドルーは自分の有能さを実証すべく、領地が発展を遂げるよう部下に指示を出したが、出した指示は「領地を発展させろ」であり、具体的なことは何も言っていなかった。
部下としても勝手なことをするわけにはいかず困り、現状の延長線上で少しでも良い成果を出そうと苦心することとなった。

当然アンドルーが望んだような発展を遂げられるはずがなかった。

「思ったような成果が出ないな。エミリア、まさか手を抜いてはいないよな?」
「そんなはずありません。それに部下もみんな努力しています」
「ならばどうして成果が出ない? おかしいだろう?」

自分のことを省みることもなく、アンドルーは理解できないといった面持ちでエミリアに問いかけた。

(おかしいのはアンドルーのほうじゃない。領主が具体的な指示を出さないからこうなっているのに)

何も理解していないアンドルーにエミリアは心の中で溜め息をつき、アンドルーの機嫌を損なわないよう、それでいて希望に沿うためにはどうすればいいのか悩んだ。

「……エミリアは優秀だから婚約し結婚までしてやったんだ。成果が出ないなら結婚した意味がないだろう? せめて役に立ってくれよ、頼むから」
「……そんなに私が役立たずなら離婚してくださっても構いません。役立たずはアンドルー様の邪魔になるだけですから」

エミリアが口答えしたのは初めてのことであり、アンドルーは動揺し目を見開いた。

「本気で言ってるのか?」
「本気です」

困惑するアンドルーとは対照的に、冷静に毅然と答えたエミリア。
我慢の日々は終わりを告げ、エミリアの逆襲が始まった。
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