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アンドルーは次期領主であり、今は領主の仕事を学んでいる最中だ。
学ぶとはいえエミリアの優秀さを利用するために婚約し結婚したのであって、本人が積極的に苦労を買って成長の糧にするような意思はなかった。
当然学んでいるはずなのに身につかず、アシュビー伯爵もやり方が間違っているのではないかと考えることになった。
ならば実際に何かを任せてみることで現場を知り苦労を知り幅広い視野を持たせようと考えた。
「村の代官の監督ですか?」
「ああ、そうだ。代官が真面目に働いているかチェックしてもらう」
「……わかりました」
「エミリアも連れていっていいぞ。たまには出かけてみるのもいいだろう。環境が変われば気分も変わるだろうしな」
「そうですね」
アシュビー伯爵は跡継ぎの誕生を期待しているがためのお節介だった。
アンドルーにとっては余計なお節介だったが、下手に反論して跡継ぎを作ろうとしないことが発覚することを恐れ、素直に返事をすることで問題の発覚を避けることに成功した。
村へ行くことが決まったのだから、同行者となるエミリアに伝えないわけにはいかない。
「エミリア、俺たちは村の代官の監督をしに行くことになった。明日にでも出発するから準備をしておけ」
「はい。必要なものはありますか?」
「それくらい自分で考えろ。とにかく不備がないようにしろ。いいな?」
「はい」
アンドルーが何も把握していないことをエミリアは理解した。
知っていそうな人に訊くしかないと思い、これもアンドルーらしいと思えてしまった。
このような扱いには慣れており、今になってどうこう思うこともなくなっていた。
幸いなことは次期領主の妻という立場は使用人たちにも有効であり、訊けば教えてくれたため、こうして必要な情報を自分で集めることに成功した。
必要なものの手配も済ませたことでエミリアとアンドルーは無事に村へ出立することができたのだ。
道中の馬車では会話もなく、重苦しい空気のままだった。
(仕事に集中できるほうが気楽よね。アンドルー様だって私と一緒だと楽しくないでしょうし)
村に着いてもアンドルーは仕事らしいことはしないで偉そうにふんぞり返って座っていただけだった。
エミリアは代官から話を聞いたり書類をチェックした。
「しっかり働けよ。サボったら承知しないぞ」
たまに言葉を発したかと思えばこのような自分のことを棚に上げたものだった。
これでもアンドルーは次期領主であり誰も文句を言えない。
(そんなこと言ってもみんなのやる気を削ぐだけでしょう? アンドルー様はいないほうが仕事が捗るわ)
そのような思いはエミリアだけでなく代官も同じだった。
下手に手出しされたり口出しされれば邪魔になるだけであり、文句を言わないことで余計な仕事を増やさなくすることに成功した。
仕事をエミリアに丸投げした結果、代官の仕事で些細なミスは見つかったものの、大きな問題はないことが明らかとなった。
報告を受けたアシュビー伯爵はアンドルーの働きぶりに満足した。
「良い報告書だった。些細なミスであれば罰を与えるほどではない。いいか、アンドルー。寛大さも人の上に立つなら必要なことだ。それに仕事ぶりを褒めることも有効だ。覚えておくといい」
「はい、父上」
良い学びを得たことで、アンドルーはエミリアを褒めてやる気になった。
愛や感謝からではなく、学んだばかりの上に立つ者の心得を実践するためだ。
「エミリア、良い働きぶりだった。褒めてやろう」
「ありがとうございます」
「今後も見事な働きに期待しているぞ」
「はい」
今になってアンドルーに褒められたところで嬉しいはずがなく、ましてや仕事の価値をアンドルーが理解しているとも思えなかった。
(どうせ私を都合良く扱うためだろうし。そんな気持ちのこもってない言葉で私を操ろうなんて無駄よ)
アンドルーが褒めたことは逆効果であり、エミリアは表に出さないが不満を貯め込んでいった。
学ぶとはいえエミリアの優秀さを利用するために婚約し結婚したのであって、本人が積極的に苦労を買って成長の糧にするような意思はなかった。
当然学んでいるはずなのに身につかず、アシュビー伯爵もやり方が間違っているのではないかと考えることになった。
ならば実際に何かを任せてみることで現場を知り苦労を知り幅広い視野を持たせようと考えた。
「村の代官の監督ですか?」
「ああ、そうだ。代官が真面目に働いているかチェックしてもらう」
「……わかりました」
「エミリアも連れていっていいぞ。たまには出かけてみるのもいいだろう。環境が変われば気分も変わるだろうしな」
「そうですね」
アシュビー伯爵は跡継ぎの誕生を期待しているがためのお節介だった。
アンドルーにとっては余計なお節介だったが、下手に反論して跡継ぎを作ろうとしないことが発覚することを恐れ、素直に返事をすることで問題の発覚を避けることに成功した。
村へ行くことが決まったのだから、同行者となるエミリアに伝えないわけにはいかない。
「エミリア、俺たちは村の代官の監督をしに行くことになった。明日にでも出発するから準備をしておけ」
「はい。必要なものはありますか?」
「それくらい自分で考えろ。とにかく不備がないようにしろ。いいな?」
「はい」
アンドルーが何も把握していないことをエミリアは理解した。
知っていそうな人に訊くしかないと思い、これもアンドルーらしいと思えてしまった。
このような扱いには慣れており、今になってどうこう思うこともなくなっていた。
幸いなことは次期領主の妻という立場は使用人たちにも有効であり、訊けば教えてくれたため、こうして必要な情報を自分で集めることに成功した。
必要なものの手配も済ませたことでエミリアとアンドルーは無事に村へ出立することができたのだ。
道中の馬車では会話もなく、重苦しい空気のままだった。
(仕事に集中できるほうが気楽よね。アンドルー様だって私と一緒だと楽しくないでしょうし)
村に着いてもアンドルーは仕事らしいことはしないで偉そうにふんぞり返って座っていただけだった。
エミリアは代官から話を聞いたり書類をチェックした。
「しっかり働けよ。サボったら承知しないぞ」
たまに言葉を発したかと思えばこのような自分のことを棚に上げたものだった。
これでもアンドルーは次期領主であり誰も文句を言えない。
(そんなこと言ってもみんなのやる気を削ぐだけでしょう? アンドルー様はいないほうが仕事が捗るわ)
そのような思いはエミリアだけでなく代官も同じだった。
下手に手出しされたり口出しされれば邪魔になるだけであり、文句を言わないことで余計な仕事を増やさなくすることに成功した。
仕事をエミリアに丸投げした結果、代官の仕事で些細なミスは見つかったものの、大きな問題はないことが明らかとなった。
報告を受けたアシュビー伯爵はアンドルーの働きぶりに満足した。
「良い報告書だった。些細なミスであれば罰を与えるほどではない。いいか、アンドルー。寛大さも人の上に立つなら必要なことだ。それに仕事ぶりを褒めることも有効だ。覚えておくといい」
「はい、父上」
良い学びを得たことで、アンドルーはエミリアを褒めてやる気になった。
愛や感謝からではなく、学んだばかりの上に立つ者の心得を実践するためだ。
「エミリア、良い働きぶりだった。褒めてやろう」
「ありがとうございます」
「今後も見事な働きに期待しているぞ」
「はい」
今になってアンドルーに褒められたところで嬉しいはずがなく、ましてや仕事の価値をアンドルーが理解しているとも思えなかった。
(どうせ私を都合良く扱うためだろうし。そんな気持ちのこもってない言葉で私を操ろうなんて無駄よ)
アンドルーが褒めたことは逆効果であり、エミリアは表に出さないが不満を貯め込んでいった。
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