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「こんなことを言える立場でもないし、言ってしまえば君を苦しめることになることも理解している。でもこの想いを告げずにはいられないんだ! 僕はエミリアのことが好きなんだ!」
熱烈な愛の告白をしたのはテンプルトン子爵家の令息ディラン。
告白されたほうはエイムズ子爵令嬢エミリア。
「ごめんなさい、ディラン様の気持ちは嬉しいです。本当にそう思います。でも……」
「言わなくていい。これは僕のわがままだから。無理だとわかっていても伝えたかったんだ。ごめん、困らせてしまったよね」
「……」
エミリアにはアシュビー伯爵嫡男アンドルーという婚約者がいるため、ディランがどれほど熱い想いを伝えようとエミリアが受け入れるはずがなかった。
「自分勝手でごめん……」
「……ありがとう、嬉しかったわ」
エミリアの気持ちに嘘はないが、婚約という契約を軽んじることはできず、たとえ婚約者からの愛を感じられずとも自ら婚約を解消するような選択は選べなかった。
こうしてディランにとってもエミリアにとっても学園生活のほろ苦い思い出となった。
貴族の子女たちが通う学園で、勉学で優秀な成績を収めたのがエミリアだった。
子爵家の令嬢でありながらも学園内でトップクラスの成績は注目を集めないはずがなく、優秀な人材を婚約者にしようと企てる令息たちが大勢いた。
しかしエミリアは子爵家の令嬢であり、爵位が高い令息にとっては婚約者として爵位が釣り合わず、爵位が低い令息にとっては優秀な婚約者に引け目を感じることになり兼ねず、結局アシュビー伯爵家の嫡男アンドルーが婚約者となった。
アンドルーもエミリアのことを愛して婚約したわけではなく、優秀な成績を収めた能力を利用しようと考えてのことであり、実家の力関係も都合良かったことも理由の一つだった。
アンドルーは嫡男であるため、将来的にアシュビー伯爵位を継ぎ領主になる立場だ。
エミリアの親のエイムズ子爵は反対することもなく、むしろ積極的に賛成したくらいだった。
下手に逆らってアシュビー伯爵家を敵にすることを避けたかったという理由もあったが、娘が将来の伯爵夫人になることは悪いものではなく、表面的には反対するような素振りは見せなかった。
エミリアにとっては自分の気持ちなんてものが考慮されない婚約でしかなく、これも貴族家に生まれた宿命だと望まない婚約を受け入れた。
アンドルーがエミリアを愛していないことは学園に在学中に嫌というほど思い知ることになったが、政略のための婚約であり、エミリアが嫌な気持ちを抱こうが婚約関係は変わらない。
結局そのまま卒業を迎え、二人は結婚することとなった。
結婚してアンドルーの態度が変わることを期待していなかったエミリアだったが、アンドルーからこれだけは伝えておきたいと言われ、もしかしたら関係の改善のために謝罪してくれるのかと期待を抱いてしまった。
だがアンドルーの伝えたことは想像とは違うものだった。
「エミリアも気付いているだろうが愛があって結婚したわけではない。エミリアには仕事で役立ってもらうことになる。望むなら子作りの相手をしてやってもいいが、仕事に差し障りが出ると困る。抱くなら仕事が安定してからになる」
どこまでも都合良く扱われることにエミリアは失望し、幸せな結婚生活は実現しないと理解した。
現状は耐える日々になることは明らかであるが、エミリアの心の奥底ではアンドルーの思い通りのままになりたくないという気持ちも存在している。
「役割は理解しました。まずは仕事に専念したいと思います。アンドルー様から求められれば応じますが、できれば仕事を優先したいと思います」
「いいだろう。その分仕事の成果に期待しているからな」
「はい」
愛がなく義務で抱かれるのはエミリアにとって唾棄すべき行為であり、仕事を理由にできたのは幸いだった。
このような現実からエミリアは目を逸らしたかったが、逸らしたところで問題は何も解決しない。
せめてもの救いは幸せだった思い出があったことだ。
(ディランと婚約できていたならこうはならなかったのに……)
現実逃避したくなるほどエミリアは将来に希望を見いだせなかった。
熱烈な愛の告白をしたのはテンプルトン子爵家の令息ディラン。
告白されたほうはエイムズ子爵令嬢エミリア。
「ごめんなさい、ディラン様の気持ちは嬉しいです。本当にそう思います。でも……」
「言わなくていい。これは僕のわがままだから。無理だとわかっていても伝えたかったんだ。ごめん、困らせてしまったよね」
「……」
エミリアにはアシュビー伯爵嫡男アンドルーという婚約者がいるため、ディランがどれほど熱い想いを伝えようとエミリアが受け入れるはずがなかった。
「自分勝手でごめん……」
「……ありがとう、嬉しかったわ」
エミリアの気持ちに嘘はないが、婚約という契約を軽んじることはできず、たとえ婚約者からの愛を感じられずとも自ら婚約を解消するような選択は選べなかった。
こうしてディランにとってもエミリアにとっても学園生活のほろ苦い思い出となった。
貴族の子女たちが通う学園で、勉学で優秀な成績を収めたのがエミリアだった。
子爵家の令嬢でありながらも学園内でトップクラスの成績は注目を集めないはずがなく、優秀な人材を婚約者にしようと企てる令息たちが大勢いた。
しかしエミリアは子爵家の令嬢であり、爵位が高い令息にとっては婚約者として爵位が釣り合わず、爵位が低い令息にとっては優秀な婚約者に引け目を感じることになり兼ねず、結局アシュビー伯爵家の嫡男アンドルーが婚約者となった。
アンドルーもエミリアのことを愛して婚約したわけではなく、優秀な成績を収めた能力を利用しようと考えてのことであり、実家の力関係も都合良かったことも理由の一つだった。
アンドルーは嫡男であるため、将来的にアシュビー伯爵位を継ぎ領主になる立場だ。
エミリアの親のエイムズ子爵は反対することもなく、むしろ積極的に賛成したくらいだった。
下手に逆らってアシュビー伯爵家を敵にすることを避けたかったという理由もあったが、娘が将来の伯爵夫人になることは悪いものではなく、表面的には反対するような素振りは見せなかった。
エミリアにとっては自分の気持ちなんてものが考慮されない婚約でしかなく、これも貴族家に生まれた宿命だと望まない婚約を受け入れた。
アンドルーがエミリアを愛していないことは学園に在学中に嫌というほど思い知ることになったが、政略のための婚約であり、エミリアが嫌な気持ちを抱こうが婚約関係は変わらない。
結局そのまま卒業を迎え、二人は結婚することとなった。
結婚してアンドルーの態度が変わることを期待していなかったエミリアだったが、アンドルーからこれだけは伝えておきたいと言われ、もしかしたら関係の改善のために謝罪してくれるのかと期待を抱いてしまった。
だがアンドルーの伝えたことは想像とは違うものだった。
「エミリアも気付いているだろうが愛があって結婚したわけではない。エミリアには仕事で役立ってもらうことになる。望むなら子作りの相手をしてやってもいいが、仕事に差し障りが出ると困る。抱くなら仕事が安定してからになる」
どこまでも都合良く扱われることにエミリアは失望し、幸せな結婚生活は実現しないと理解した。
現状は耐える日々になることは明らかであるが、エミリアの心の奥底ではアンドルーの思い通りのままになりたくないという気持ちも存在している。
「役割は理解しました。まずは仕事に専念したいと思います。アンドルー様から求められれば応じますが、できれば仕事を優先したいと思います」
「いいだろう。その分仕事の成果に期待しているからな」
「はい」
愛がなく義務で抱かれるのはエミリアにとって唾棄すべき行為であり、仕事を理由にできたのは幸いだった。
このような現実からエミリアは目を逸らしたかったが、逸らしたところで問題は何も解決しない。
せめてもの救いは幸せだった思い出があったことだ。
(ディランと婚約できていたならこうはならなかったのに……)
現実逃避したくなるほどエミリアは将来に希望を見いだせなかった。
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