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いよいよ後がなくなってきたクレイグは相変わらず積極的に社交パーティーに参加していた。
そしてある日、ついに見つけてしまったのだ。

「よくこんなところに顔を出せたな、マティルダ」

パーティーに参加した早々、会いたくない相手とはいえ会ってしまって話しかけられたのだから無視することもできない。
相手が非礼を働こうが自分が同じような態度を返す理由にはならず、マティルダは丁寧に、そして嫌味を含めて言葉を返す。

「呼び捨てにするとは無作法ですね、クレイグ様」

自分が先に非礼を働いたことを棚上げし、クレイグはマティルダの言葉は宣戦布告だと勝手に解釈した。

「いやあ、参ったよ。マティルダのせいで俺がどれだけ苦労したのかわかるか? わからないだろうな。全部計画通りに事が進んで満足か?」
「おっしゃる意味がわかりません。それに苦労させられたのは私のほうです。どうも良からぬ噂が広まっているようで苦労しているのですよ?」
「それは自業自得というものだろう。それで謝罪はまだか?」
「……謝罪、ですか?」
「そうだ」

謝罪と言われたマティルダのほうが困惑した。
結婚中のことも今の言いがかりも謝罪するのはクレイグのほうであり、どうして自分が謝罪を求められるのかマティルダは全然理解できなかった。

「どうして謝罪しなければならないのですか?」
「謝罪しなければ始まらないだろう。まずは誠心誠意謝罪することだな」

クレイグの考えは謝罪することで許してやり、慰謝料を支払わせるか復縁し再び資金援助を受けるつもりだった。
復縁といっても形だけのものであり、既に愛するつもりもなければ大切にするつもりもなく、愛人を囲うことを認めさせることまで考えていた。
どこまでも自分にとって都合良く考えたため常識的なマティルダに意図が伝わるはずがなく、同様に常識的な周囲の人たちを困惑させるだけだった。

「謝罪する必要性を感じられません」
「ウィルクス男爵家のせいでコフマン子爵家の財政が危うくなったのだ。悪いと思う心があるなら今からでも謝罪するんだな」
「もう縁は切れました。今になって援助する義理も何もありません」
「随分と非情なのだな。それが本性か」
「勝手に援助を期待するような厚かましい人に言われたくはありません」

周囲の人たちにとってはクレイグの言い分のほうが間違いであり、それにマティルダがどう返すのか見物だった。
いつしか観客は増え、そこに少し遅れてパーティーに参加した異国の貴族の男性の姿もあった。

「コフマン子爵家がこのまま没落しても構わないというのか!」
「没落するのは無能の証明ではありませんか? そもそも援助しなければ破綻するような身の程を弁えないような生活をするほうが間違いだと思いますけど?」
「この……生意気な! 大人しく俺の言うことに従え!」
「お断りします。もう他人なので従う義理もありません。それにそのように無理矢理言うことをきかせようとするから他の人に相手にされないのですよ?」

周囲から失笑が漏れ、クレイグは怒りと羞恥から顔が赤くなり、恥をかかせたマティルダを絶対に許さないと決めた。

「そのようなことを言ったがウィルクス男爵家のほうはどうなのだ? そろそろ破綻するのではないか?」
「いえ、そのようなことはありません。寄生虫のようなコフマン子爵家への援助がなくなったので財政的には楽になりました。それに――」
「ええい、そんなはずあるか! 嘘に決まっている! どうしてもコフマン子爵家を敵にしたいならいいだろ、受けて立つ! ウィルクス男爵家ごときが生意気なんだ! 絶対に潰してやる!」

侮辱され怒りのあまりに我を失い、脅すためにも強い言葉を選んだクレイグ。
だがそれを許さない人間がいた。

「それは困るな。君はクレイグ・コフマン子爵令息だったな?」
「貴様は……」

周囲の観客から前に出た男性は異国の貴族だった。
クレイグにとっては結婚相手探しの邪魔だった敵の一人であり、この場で出てくるのは敵対的な行動をするためだと考えた。

意外だったのはマティルダも同じであり、どうして商人と名乗ったジャーヴィスがこの場にいるのかと疑問に思った。
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