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(困ったわね……。このままだと実家が危ういわ)
実家のウィルクス男爵家の財政事情が悪化していることを知ったマティルダは不安に駆られた。
クレイグと結婚し実家から出たとはいえ縁が無くなるはずもなく、このままでは実家のせいで夫婦関係がこじれてしまうことも考えられた。
そうでなくとも熱烈な愛情を注がれているわけでもなく、何か大きな問題が生じれば婚姻関係の危機になり兼ねないことは予想できた。
(でもクレイグに相談しないわけにもいかないわね。下手に隠すと問題がこじれてしまうかもしれないし)
相談したところで力になってくれるか不安に思うように、夫婦としての信頼関係は強くなく、これも政略結婚による当事者の気持ちを蔑ろにした結果だった。
それでも相談しないわけにはいかず、気が進まないながらもマティルダはクレイグに相談を持ち掛けた。
「ウィルクス男爵家の財政状況が危ういだと!?」
大げさに驚いたクレイグの様子にマティルダは驚き戸惑ったが説明を続ける。
「まだ決定的ではないの。十分巻き返しは図れるはずよ。それで……コフマン子爵家に協力は頼めない?」
「はぁ……。マティルダには失望したよ。そもそもどうして結婚なんてしたのか理解していなかったのか?」
「……わかっているつもりよ」
コフマン子爵家は財政状況が悪化し、裕福なウィルクス男爵家から援助を受ける目的でクレイグとマティルダを婚約させた。
そのことはマティルダも理解しており、婚約後から結婚し今に至るまでの十分な援助があったからコフマン子爵家の今があることも理解しており、ウィルクス男爵家からの援助を減らせないかという狙いがあっての相談だった。
愛されていないことも理解していたが、この問題の対処を誤れば両家共倒れとなってしまうため、クレイグも何らかの譲歩なり協力をしてくれるのではないかという期待があった。
「そうか。なら、利用価値が無くなったことも理解できるよな?」
「利用価値って……。一方的に利用するだけしておいて、今まで援助してきた恩を感じないの?」
「恩? そんなのはお互い様だろう? お互い利用するために婚約し結婚したんじゃないか。利用価値が無くなれば関係は破綻したようなものだ。何なら離婚するか? どうせ離婚するなら早いほうがいいだろう?」
「……わかったわ。離婚しましょう」
離婚するために相談を持ち掛けたわけではないが、クレイグの言動は信用を失わせるには十分すぎるほどであり、態度からも愛情なんてないことは明らかであり、離婚は当然だと思えた。
クレイグにとってもウィルクス男爵家を助けるために財産を使いたくないという思いがあり、離婚のチャンスを逃したくはなかった。
こうして両者が望み離婚することが決まった。
(こんなにあっさりと離婚できてしまうのね。家のために結婚して我慢してきたけど全部無駄だったのね。無駄どころか実家が一方的に援助しただけだから大損じゃない)
改めて考えると損ばかりであり、何のために結婚したのかとマティルダは疑問を抱き、やがてそれは怒りへと変わっていった。
離婚してしまえばコフマン子爵家に援助する必要もなく、援助がなくなれば困窮するのはコフマン子爵家も同じである。
そもそも寄生しているコフマン子爵家を切り捨てられればウィルクス男爵家の財政状況も改善するかもしれず、離婚が仕返しの始まりでもある。
(クレイグが望んで離婚したのだからコフマン子爵家が困窮してもクレイグの責任よ。それにウィルクス男爵家を利用するだけ利用したコフマン子爵がどうなろうと自業自得じゃない。自分でどうにかしようとしなかったのだから痛い目を見ればいいわ)
「何かおかしいか? まあショックで頭がおかしくなってしまうのも理解できる。だが同情はしない。離婚は決定だ」
黙ったマティルダが笑みを浮かべたことで不審に思ったクレイグ。
しかしすべきことは明らかであり、マティルダがどういった態度であれ離婚を取りやめる理由にはならなかった。
離婚したらどうなるのかまるで理解していないクレイグは道化師のようであり、クレイグの振る舞いがマティルダには滑稽で、思わず笑いだしそうになる。
「そうね、速やかに離婚しましょう」
今まで見せたことのない笑顔になったマティルダを不気味に思ったクレイグだった。
離婚すると決まり、二人は速やかに行動し離婚が成立した。
これでもう二人は他人であり、虚しい関係は終わった。
実家のウィルクス男爵家の財政事情が悪化していることを知ったマティルダは不安に駆られた。
クレイグと結婚し実家から出たとはいえ縁が無くなるはずもなく、このままでは実家のせいで夫婦関係がこじれてしまうことも考えられた。
そうでなくとも熱烈な愛情を注がれているわけでもなく、何か大きな問題が生じれば婚姻関係の危機になり兼ねないことは予想できた。
(でもクレイグに相談しないわけにもいかないわね。下手に隠すと問題がこじれてしまうかもしれないし)
相談したところで力になってくれるか不安に思うように、夫婦としての信頼関係は強くなく、これも政略結婚による当事者の気持ちを蔑ろにした結果だった。
それでも相談しないわけにはいかず、気が進まないながらもマティルダはクレイグに相談を持ち掛けた。
「ウィルクス男爵家の財政状況が危ういだと!?」
大げさに驚いたクレイグの様子にマティルダは驚き戸惑ったが説明を続ける。
「まだ決定的ではないの。十分巻き返しは図れるはずよ。それで……コフマン子爵家に協力は頼めない?」
「はぁ……。マティルダには失望したよ。そもそもどうして結婚なんてしたのか理解していなかったのか?」
「……わかっているつもりよ」
コフマン子爵家は財政状況が悪化し、裕福なウィルクス男爵家から援助を受ける目的でクレイグとマティルダを婚約させた。
そのことはマティルダも理解しており、婚約後から結婚し今に至るまでの十分な援助があったからコフマン子爵家の今があることも理解しており、ウィルクス男爵家からの援助を減らせないかという狙いがあっての相談だった。
愛されていないことも理解していたが、この問題の対処を誤れば両家共倒れとなってしまうため、クレイグも何らかの譲歩なり協力をしてくれるのではないかという期待があった。
「そうか。なら、利用価値が無くなったことも理解できるよな?」
「利用価値って……。一方的に利用するだけしておいて、今まで援助してきた恩を感じないの?」
「恩? そんなのはお互い様だろう? お互い利用するために婚約し結婚したんじゃないか。利用価値が無くなれば関係は破綻したようなものだ。何なら離婚するか? どうせ離婚するなら早いほうがいいだろう?」
「……わかったわ。離婚しましょう」
離婚するために相談を持ち掛けたわけではないが、クレイグの言動は信用を失わせるには十分すぎるほどであり、態度からも愛情なんてないことは明らかであり、離婚は当然だと思えた。
クレイグにとってもウィルクス男爵家を助けるために財産を使いたくないという思いがあり、離婚のチャンスを逃したくはなかった。
こうして両者が望み離婚することが決まった。
(こんなにあっさりと離婚できてしまうのね。家のために結婚して我慢してきたけど全部無駄だったのね。無駄どころか実家が一方的に援助しただけだから大損じゃない)
改めて考えると損ばかりであり、何のために結婚したのかとマティルダは疑問を抱き、やがてそれは怒りへと変わっていった。
離婚してしまえばコフマン子爵家に援助する必要もなく、援助がなくなれば困窮するのはコフマン子爵家も同じである。
そもそも寄生しているコフマン子爵家を切り捨てられればウィルクス男爵家の財政状況も改善するかもしれず、離婚が仕返しの始まりでもある。
(クレイグが望んで離婚したのだからコフマン子爵家が困窮してもクレイグの責任よ。それにウィルクス男爵家を利用するだけ利用したコフマン子爵がどうなろうと自業自得じゃない。自分でどうにかしようとしなかったのだから痛い目を見ればいいわ)
「何かおかしいか? まあショックで頭がおかしくなってしまうのも理解できる。だが同情はしない。離婚は決定だ」
黙ったマティルダが笑みを浮かべたことで不審に思ったクレイグ。
しかしすべきことは明らかであり、マティルダがどういった態度であれ離婚を取りやめる理由にはならなかった。
離婚したらどうなるのかまるで理解していないクレイグは道化師のようであり、クレイグの振る舞いがマティルダには滑稽で、思わず笑いだしそうになる。
「そうね、速やかに離婚しましょう」
今まで見せたことのない笑顔になったマティルダを不気味に思ったクレイグだった。
離婚すると決まり、二人は速やかに行動し離婚が成立した。
これでもう二人は他人であり、虚しい関係は終わった。
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