婚約解消したのに嫌な予感がします。……もう振り回されませんよね？

6.

突然の訪問は失礼だが、クライヴはハインズ伯爵の令息であり、紛うことなき貴族である。
使用人では無礼だからと追い返すこともできず、報告を受けたアーネストは仕方なく対応することにした。

「クライヴが何の用なんだか……。危ないかもしれないからコンスタンスは出てこないでね」
「わかったわ。クライヴは何をするかわからないから気をつけてね」
「ああ」

アーネストは不安を表さないようにするコンスタンスに安心させるように微笑みかけ、何があろうと愛する妻を必ず守ると決意した。

コンスタンスにできることはアーネストの無事を祈ることだけだった。





アーネストがクライヴを待たせている応接室へ行くなり、不遜な態度のクライヴが言い放つ。

「お前が俺のコンスタンスを奪った男か」
「失礼だな。君はクライヴか？　ハインズ伯爵家の人間は礼儀を知らないようだな」
「礼儀だと？　俺の婚約者を奪っておきながら何を言う！」

激怒したクライヴを見てアーネストは話が通用しないことを痛感し、まともに対応しても無駄だと判断した。

「君はコンスタンスと正式に婚約関係が解消されている。僕とコンスタンスが婚約しようが結婚しようが文句を言える立場ではない」
「くっ、だがコンスタンスは俺のことを愛しているはずだ！　俺がコンスタンスへの愛に気付いたように、コンスタンスだって俺のことを愛しているに決まっている！」

あまりにも都合のいい思い込みにアーネストは頭が痛くなるように感じたが、ここでしっかり対処しなければコンスタンスに危害が及ぶかもしれず、自分を奮い立たせる。

「僕の妻の気持ちを勝手に決めつけないでくれるかな？　コンスタンスが愛しているのは僕だけだ」
「そんなはずはない！　俺は気づいたんだ！　コンスタンスこそ俺が愛すべき女性だったのだと！　コンスタンスだって同じ気持ちを抱いている！　俺にはわかるんだ！！」
「それこそ思い込みではないか。僕の妻の気持ちは僕のほうが理解している」
「そんなはずない！　会えばわかる！」

都合の悪いことは認めないクライヴのせいで同じような話を繰り返し、話は平行線のまま無駄な時間が過ぎた。

もう十分に礼は尽くしたとアーネストは判断し、次の段階へと進ませる。

「もういい。こいつを追い出せ。抵抗するようなら痛めつけても構わない」
「はっ」

命じられた使用人がクライヴを追い出そうとするが、クライヴは口では抵抗するものの、暴力に訴えるようなことはしなかった。

「今日のところは帰ってやる！　だが忘れるな！　コンスタンスは俺を愛しているんだ！」

喚き叫ぶクライヴにアーネストは無限で軽蔑の眼差しを向けた。





アーネストはすぐにコンスタンスに報告しに行き、アーネストの無事を見たコンスタンスはほっと胸を撫で下ろした。

「終わったの？」
「今日のところは、ね」

まだ問題が完全に解決していないことを察し、コンスタンスは一つの疑問を口にする。

「ハインズ伯爵が対処するはずだったのに、どういうことなの？」
「もしかしたらハインズ伯爵の知らないところだったのかもしれない。いずれにせよ確認しないといけないね。伯爵が対処できるならそれでいいし」
「そうね」

クライヴの有責で婚約を解消したことでハインズ伯爵は立場が弱くなっており、クライヴに問題を起こさせないよう条件を呑んだにも関わらずこの結果となればハインズ伯爵家にとって大打撃になるであろう。
もしハインズ伯爵が対処しないようならアーネストやカーライル侯爵の出番となり、問題が大規模化し、それこそハインズ伯爵家の息の根を止めることになってしまうかもしれない。

アーネストは手段を選ばずに最愛の妻、コンスタンスを守ることを全力を尽くす。

「安心して。絶対にコンスタンスを守るから」
「信じているわよ、アーネスト」

二人は抱き合い、お互いの愛と温もりを感じ合った。

（アーネストと結婚できて本当に良かったわ）