婚約解消したのに嫌な予感がします。……もう振り回されませんよね?

Mayoi

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クライヴは親にも告げず、家の金や宝石を大量に持ち出し、書置きを残して旅に出た。

「自分を探す旅に出るだと!? 勝手なことをしおって! コンスタンス嬢との結婚式はどうするというのだ!?」

クライヴの父親、ハインズ伯爵はクライヴの身勝手な行動に怒った。
怒ってどうにかなるものではないが、怒らずにはいられなかった。

それからは執事に宥められ情報収集を第一とし、クライヴから何か聞いているとすれば婚約者のコンスタンスだということでコンスタンスに接触を図った。

コンスタンス、正確にはセントクレア伯爵の意向もあり、事情の詳しい説明と今後のことについて打ち合わせをすべく、セントクレア伯爵邸へ赴くこととなった。

「くっ、クライヴのせいで謝罪しなければならん。セントクレア伯爵に謝罪することになるとは」

同じ派閥に所属し同じ伯爵位であるため、ハインズ伯爵はセントクレア伯爵のことを一方的にライバル視していた。
クライヴとコンスタンスは派閥の意向もあり、しかもコンスタンスが嫁ぐため、ハインズ伯爵にとってはセントクレア伯爵に勝ったように思えていた。
それが一転し、今度はクライヴの有責で謝罪する見込みが濃厚となってしまったのだ。

(くそっ、クライヴのせいで)

ハインズ伯爵は何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。





指定された日、指定された時間には余裕をもってセントクレア伯爵邸へ着いたハインズ伯爵。
馬車から降り、セントクレア伯爵邸を前にし、これから待っているであろうクライヴの仕出かしたことへの追及を考えると胃が痛む思いだった。

「くそっ、クライヴのせいで、よりにもよってセントクレア伯爵に頭を下げなくてはならない」

同じような愚痴はもう何度も零しており、従者も聞いていない振りをするので誰も何も言わず、ハインズ伯爵の言葉が虚しく響くだけだった。

「旦那様」
「わかっておる。行くぞ」

従者の言葉に促され、セントクレア伯爵は重い足取りでセントクレア伯爵邸へ入っていった。

使用人に出迎えられセントクレア伯爵の執務室へと通された。
応接室ではないところは客扱いしていないということであり、クライヴの有責でこのような問題が起きたというメッセージが込められていた。

「よく来てくれた、ハインズ伯爵」
「この度はクライヴが申し訳ないことをした。謝罪する」
「謝罪は受け入れよう。それよりも今後のことを話し合うべきだな」
「同感だ」

謝罪が済んだことでハインズ伯爵は下手に出るのをやめた。

「こうなった以上、婚約解消は確定だ。異論はないな?」
「もちろんだとも」
「それで婚約解消の理由だが、クライヴ殿の事情による一方的なものであり、コンスタンスには何の非もないということでいいな」
「……良かろう」

ここまでは覚悟していたため、ハインズ伯爵も甘んじて受け入れた。
だが、次は完全に予想外のことだった。

「それでここに全てはコンスタンスに任せるというクライヴ殿のサインがある。さて、どうしたものかな?」
「そんな!? どうしてそんなものが!?」
「クライヴ殿が旅に出るというからコンスタンスがその後始末をすることになったようだ。クライヴ殿の同意があることはサインでも明らかだ。確認するか?」
「くっ……。確認させてくれ」

確認するということはセントクレア伯爵の言葉を疑っているということであり、ライバル視していることからも信じられなくなっていた。
それが相手への心証を悪くすることだと理解していても、万に一つの可能性のためにサインを確認せずにはいられなかった。

サインを確認したところ、間違いなくクライヴの筆跡であり、ハインズ伯爵は希望が潰えてしまった。

「さて、どう責任を取ってもらおうかな?」

セントクレア伯爵がハインズ伯爵を絶望させるために追撃が始まった。
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