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ダミアンが訳ありの令嬢と婚約したことは噂を通じてジュディスの知るところとなった。
そして思うところがあり、エリオットに相談のような雑談を持ち掛けた。

「ちょっと複雑な気持ちです。ダミアン様に直接何かしたわけではないと理解しているのですが、もし私が何もしなければダミアン様もここまで婚約者探しに苦労することはなかったのではないかと思ってしまいます」
「ジュディス嬢、それは考えすぎだと思います。貴族の子女であれば自分の都合だけで婚約者を決められないのは常識ですし、何らかのメリットがあってお互い婚約したのだと思います。それでいいではないですか」
「そう……かもしれませんね」
「それにダミアン殿が自分でしたことの結果なのですから、そこまで気にする必要はないでしょう。自分でしたことの結果が自分に返ってきただけのことですから」

そう言われると自分が責任を感じる必要はないとジュディスは思えてきた。
エリオットの意見に考えや気分が影響されすぎだという自覚もあった。

「悩んだり迷ったりしてばかりの私で迷惑ではありませんか?」
「迷惑なんてことはありませんよ。僕たちは僕たちの人生を歩んでいくのですから」
「そうですよね……。ありがとうございます、エリオット様」
「いえいえ、ジュディス嬢の助けになったのであれば幸いです」

エリオットはジュディスへの微笑みを絶やさない。
いつだって安心感を与えるように、穏やかに話したり、優しく微笑んだり。
ジュディスはエリオットの婚約者で本当に良かったと思った。

「ところでエリオット様、いつも穏やかな口調ですけど、婚約者同士であればもっと親し気な口調でもいいとは思いませんか?」
「確かにそうですけど……。それをジュディス嬢が望むのですか?」
「できれば、そうしたいかなと思います。でもエリオット様に何か理由があれば無理強いはしませんけど……」

エリオットはため息を吐いた。

「実は本当の僕はそこまで心穏やかな人間ではないのです。ですので丁寧な口調を心がけることで自分を律しています。そうしないと……周囲に迷惑をかけるかもしれませんので」

とてもそうには思えず、ジュディスはエリオットの顔をまじまじと見てしまった。
エリオットは相変わらず微笑んでいるが、その裏に隠されたものを聞いてしまうと意識して笑顔を作っているのだと思えてしまった。

でもジュディスはそれが嫌ではなく、むしろよく話してくれたと思った。

「エリオット様はどちらでも構いません。私もエリオット様の選択を受け入れます。だって婚約者ですから」
「……ありがとうございます。では僕は今まで通りにします。それが僕たちの幸せになると思うので」
「わかりました、エリオット様」

またエリオットとの距離が縮まったとジュディスは感じた。
何も相手の全てを知ることが良いことだとは思えなかった。
エリオットが必要ではないと考えるのだからジュディスは受け入れることを選んだ。

(これも私たちの関係の在り方よね。私たちがこれを望んで受け入れたのだから、これが一番ね)

いつも優しく味方してくれたエリオットに、今度は自分が受け入れる番だとジュディスは思った。
こうしてお互いを理解し受け入れていくことで二人の関係は深まっていく。

それはいつしかお互いがかけがえのない存在として思えるようになっていくのだった。
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