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第三章 偽聖女の初陣
作戦立案
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「……エレノアお嬢ちゃん。聖結界の事で無理はしなくていい。誰が悪いわけでもねえよ」
レナードが意気込むエレノアに対し冷静になるように諭した。
だが聖王都エリングラード周辺に展開される聖結界によって、ノーラス村に皺寄せが来ている事は紛れもない事実だった。
もちろん聖王国にも事情がある。聖王国は『混沌』と呼ばれる不死生物に汚染された混沌の森と呼ばれる魔境と隣接し、それらに対する自己防衛をしているに過ぎない。結果的に聖結界と小鬼の行動に因果関係はあったとしても、その責任を問えるものではない。何より尊敬する大聖女アリア、そして歴代の聖女が命を削って護り抜いてきた聖結界を否定したくはなかった。
このノーラス村の状況を打開したいというのは、あくまでエレノア個人の感情に基づいたものである。昨夜、村長宅で受けた至れり尽くせりの歓迎、そして反骨精神の強い人々が住む、この村を気に入り始めているかもしれない。
「わかってるわ。ただ、個人的な感情で村にお返しをしたいだけ。聖王国は無関係」
「……頑固だな。いい性格してるぜ。それじゃあ協力を頼むが無理をしない程度にな」
レナードは頭を掻きながら苦笑いを浮かべると、太い両腕を組み考え事をしていた。エレノアにどういった協力を求めるか考えているようである。
「……光術師といえば回復魔法だ。正直、お嬢ちゃんは怪我人の治療をしてくれるだけでも大助かりだ」
レナードは無難ともいえる提案をした。確かに回復魔法の大半は光魔法に属し、光術師が最も得意とする分野である。エレノアが救護に当たれば、それなりの手助けにはなるのは間違いない。
それはレナードがエレノアを危険に晒したくないという、安全の配慮が含まれているように思えた。
「それだけでいいのかしら。回復魔法を使える光術師のおじいさんがいるとグレイに聞いたわ。後方支援はその方が居れば大丈夫じゃない?」
「……ああ、ロズウェルじいさんか。あの人は八〇近いんだ。持病も抱えてて無理をさせられん。その役割をエレノアお嬢ちゃんが受け持ってくれるだけでも大助かりって訳だ」
昨晩グレイが一人居ると言っていた光術師は、齢八〇近い御老体だったようだ。
歳をとると肉体労働と同じく、魔法労働も当然身体に堪える。これも潜在魔力量や日頃の鍛錬に関係するが、もし魔力量が人並みしかない場合、齢八〇を越えたら引退した方が賢明といえる歳である。
(……ノーラス村に留まり回復ね。まあ、それについては悪くないのかしら。リスクのある熾天翼を使うよりは堅実だけど)
後方支援を任せようとしているのは、聖結界の事で意気込むエレノアを冷静にさせたいという意図も感じ、そのレナードの意は汲みたいとは思った。前線に出てきた結果、相手に気遣いさせてしまっては意味がない。
ただ、普通に怪我人の救護に当たるだけでは、どう考えても状況の大きな改善は難しい。外堀を完全に埋め終えたら城壁を越えて小鬼が侵入してくる可能性が高く、そうなれば村の中での破壊行動を避けるのが、いよいよ難しくなってくる。
「レナード、私の意見を言っていいかしら? ……結局は外堀が埋まる前に打って出ないと、村に被害が出てしまう可能性が高いわね」
「……そうだな。ただ、打って出る方が当然難易度は高い。この村の堅牢な守りを捨てて野戦を挑むって事だ。待ち構えれば城壁を越えてきても被害は軽微で撃退出来る」
その言い方からしてレナードは多少の犠牲を覚悟の上で、籠城の継続を選択しようとしているのかもしれない。
「私が描いている図は、村に一切の犠牲者を出さずに小鬼全軍の撃破および撤退をさせる事。誰一人、ノーラス村から死傷者を出したくないの。それには堀が埋められる前に、村から出て野戦を挑む必要があると思う」
エレノアは頭の中に理想を描いてみた。小鬼繁殖の元凶とも言える小鬼王を仕留めつつ、小鬼の群れに民兵団の手によって徹底的に恐怖を植え付ける。
もし、それさえ果たせれば小鬼は当分の間、ノーラス村に近づこうとさえしなくなるだろう。
「損害なしか。……言うは易しだ。そいつはなかなか高い要求だぜ。だが、エレノアお嬢ちゃんは光術師だ。俺とは違った魔法を活かした戦術が思いつくものかもしれん。……何か案があるのか」
「……一度、高い処から様子を見たいのだけど。中央の監視塔は上れるのかしら?」
◇
エレノア、グレイ、レナードの三名は村の兵舎から、ノーラス村の中央に建てられた監視塔に移動した。塔の地下はエレノアとグレイが進入路として使った秘密通路であり、塔そのものは土の賢者ロックの遺産である。
高さにして二〇メートル前後。村の半径四〇〇メートルの中心部に当たり、その最上階からは村を容易く一望できた。
(いい眺めね。……そして、ここは御誂え向きだわ。行けなくもないかしら)
村の中央部に塔が立てられているのは、エレノアにとって都合が良かった。
小鬼王が居るのは、この塔から西側に五〇〇メートル程先。
本陣のある西側に小鬼たちは集中し、東側は真反対側という事もあり、若干手薄になっていた。
「東側が手薄みたいだけど。もし、打って出るとしたらあっち側かしら」
「村から出る場合はそうなるな。だが東門周辺は当然敵も大勢で待ち構えている。落とせないことはないがそれなりの被害を覚悟しなきゃ無理だ。……後は秘密通路を使って山に布陣する手もあるが、これは最後の手段にしたいな」
エレノアはレナードの説明を聞くと、目を閉じて状況を頭に思い浮かべ、シミュレートをした。
「……多分だけど、行けると思うわ。レナードが民兵団の指揮官でいいの?」
「ああ。そのつもりだが」
「それなら安心かしら。……これから私の案を言うわね。もしかしたら二人は出来るはずがないって思うかもしれないけど。……私はそれを実行出来る力があると断言しておくわ」
◇
「……という案はどう? これならレナードの言う通り、私は村に留まって回復に徹するで間違いないわ」
エレノアが自らの考えた戦術の説明を終えると、グレイとレナードは無言で顔を見合わせた。
それは、何を言っているのかとでも言いたげな困惑した表情にも見えた。
「確かに留まって回復を任せたいとは言ったが……本当に行けるのか?」
「多分ね。実戦で試すのは初めてだけど、私が積んできた修練の経験を踏まえれば可能な事。……出来るとしたら行けるのかしら」
「そりゃあな。少なくとも小鬼を一方的にぶちのめして追っ払うのは容易いぜ。……というか、本当に出来るなら明日にでも召集をかけて作戦を実行したい」
レナードはまだ信じられないのか、困惑した表情を崩さなかった。
「……エレノアさん。僕は君の事を、かなり低く見積もってしまっていた事になる」
普段自信に満ち溢れているグレイの表情から余裕が消え、そして抑揚の効いた声も、若干弱気になっているようにも感じた。
「あら、グレイ。私を誘った事を後悔しているのかしら? 嬉しかったのに」
「……いや。何としても君が欲しくなった。だが、僕の誘いに君が乗ってくれるかどうかが不安になっている。……君の期待に応えられるかどうかもね」
恥ずかしげもなくグレイはエレノアに告げた。彼にそう言われるのは嬉しくもあり、少し心臓が高鳴っているのがわかったが、同時にその思いに対し冷静な分析をしていた。
つまりは聖王国で不要の存在となった反動。それで説明がつく。今は心が誰かに必要とされたがっている。彼に対する特別な感情じゃない。そう思いを押し止めるように努めた。
「グレイ。私は約束は守るわよ。……そして、光魔法だけは誰よりも自信があるの。……作戦はレナードが召集をかけられるならば魔法力が満ちそうな明日にでも。……今日は簡単なリハーサルだけしたいわね」
レナードが意気込むエレノアに対し冷静になるように諭した。
だが聖王都エリングラード周辺に展開される聖結界によって、ノーラス村に皺寄せが来ている事は紛れもない事実だった。
もちろん聖王国にも事情がある。聖王国は『混沌』と呼ばれる不死生物に汚染された混沌の森と呼ばれる魔境と隣接し、それらに対する自己防衛をしているに過ぎない。結果的に聖結界と小鬼の行動に因果関係はあったとしても、その責任を問えるものではない。何より尊敬する大聖女アリア、そして歴代の聖女が命を削って護り抜いてきた聖結界を否定したくはなかった。
このノーラス村の状況を打開したいというのは、あくまでエレノア個人の感情に基づいたものである。昨夜、村長宅で受けた至れり尽くせりの歓迎、そして反骨精神の強い人々が住む、この村を気に入り始めているかもしれない。
「わかってるわ。ただ、個人的な感情で村にお返しをしたいだけ。聖王国は無関係」
「……頑固だな。いい性格してるぜ。それじゃあ協力を頼むが無理をしない程度にな」
レナードは頭を掻きながら苦笑いを浮かべると、太い両腕を組み考え事をしていた。エレノアにどういった協力を求めるか考えているようである。
「……光術師といえば回復魔法だ。正直、お嬢ちゃんは怪我人の治療をしてくれるだけでも大助かりだ」
レナードは無難ともいえる提案をした。確かに回復魔法の大半は光魔法に属し、光術師が最も得意とする分野である。エレノアが救護に当たれば、それなりの手助けにはなるのは間違いない。
それはレナードがエレノアを危険に晒したくないという、安全の配慮が含まれているように思えた。
「それだけでいいのかしら。回復魔法を使える光術師のおじいさんがいるとグレイに聞いたわ。後方支援はその方が居れば大丈夫じゃない?」
「……ああ、ロズウェルじいさんか。あの人は八〇近いんだ。持病も抱えてて無理をさせられん。その役割をエレノアお嬢ちゃんが受け持ってくれるだけでも大助かりって訳だ」
昨晩グレイが一人居ると言っていた光術師は、齢八〇近い御老体だったようだ。
歳をとると肉体労働と同じく、魔法労働も当然身体に堪える。これも潜在魔力量や日頃の鍛錬に関係するが、もし魔力量が人並みしかない場合、齢八〇を越えたら引退した方が賢明といえる歳である。
(……ノーラス村に留まり回復ね。まあ、それについては悪くないのかしら。リスクのある熾天翼を使うよりは堅実だけど)
後方支援を任せようとしているのは、聖結界の事で意気込むエレノアを冷静にさせたいという意図も感じ、そのレナードの意は汲みたいとは思った。前線に出てきた結果、相手に気遣いさせてしまっては意味がない。
ただ、普通に怪我人の救護に当たるだけでは、どう考えても状況の大きな改善は難しい。外堀を完全に埋め終えたら城壁を越えて小鬼が侵入してくる可能性が高く、そうなれば村の中での破壊行動を避けるのが、いよいよ難しくなってくる。
「レナード、私の意見を言っていいかしら? ……結局は外堀が埋まる前に打って出ないと、村に被害が出てしまう可能性が高いわね」
「……そうだな。ただ、打って出る方が当然難易度は高い。この村の堅牢な守りを捨てて野戦を挑むって事だ。待ち構えれば城壁を越えてきても被害は軽微で撃退出来る」
その言い方からしてレナードは多少の犠牲を覚悟の上で、籠城の継続を選択しようとしているのかもしれない。
「私が描いている図は、村に一切の犠牲者を出さずに小鬼全軍の撃破および撤退をさせる事。誰一人、ノーラス村から死傷者を出したくないの。それには堀が埋められる前に、村から出て野戦を挑む必要があると思う」
エレノアは頭の中に理想を描いてみた。小鬼繁殖の元凶とも言える小鬼王を仕留めつつ、小鬼の群れに民兵団の手によって徹底的に恐怖を植え付ける。
もし、それさえ果たせれば小鬼は当分の間、ノーラス村に近づこうとさえしなくなるだろう。
「損害なしか。……言うは易しだ。そいつはなかなか高い要求だぜ。だが、エレノアお嬢ちゃんは光術師だ。俺とは違った魔法を活かした戦術が思いつくものかもしれん。……何か案があるのか」
「……一度、高い処から様子を見たいのだけど。中央の監視塔は上れるのかしら?」
◇
エレノア、グレイ、レナードの三名は村の兵舎から、ノーラス村の中央に建てられた監視塔に移動した。塔の地下はエレノアとグレイが進入路として使った秘密通路であり、塔そのものは土の賢者ロックの遺産である。
高さにして二〇メートル前後。村の半径四〇〇メートルの中心部に当たり、その最上階からは村を容易く一望できた。
(いい眺めね。……そして、ここは御誂え向きだわ。行けなくもないかしら)
村の中央部に塔が立てられているのは、エレノアにとって都合が良かった。
小鬼王が居るのは、この塔から西側に五〇〇メートル程先。
本陣のある西側に小鬼たちは集中し、東側は真反対側という事もあり、若干手薄になっていた。
「東側が手薄みたいだけど。もし、打って出るとしたらあっち側かしら」
「村から出る場合はそうなるな。だが東門周辺は当然敵も大勢で待ち構えている。落とせないことはないがそれなりの被害を覚悟しなきゃ無理だ。……後は秘密通路を使って山に布陣する手もあるが、これは最後の手段にしたいな」
エレノアはレナードの説明を聞くと、目を閉じて状況を頭に思い浮かべ、シミュレートをした。
「……多分だけど、行けると思うわ。レナードが民兵団の指揮官でいいの?」
「ああ。そのつもりだが」
「それなら安心かしら。……これから私の案を言うわね。もしかしたら二人は出来るはずがないって思うかもしれないけど。……私はそれを実行出来る力があると断言しておくわ」
◇
「……という案はどう? これならレナードの言う通り、私は村に留まって回復に徹するで間違いないわ」
エレノアが自らの考えた戦術の説明を終えると、グレイとレナードは無言で顔を見合わせた。
それは、何を言っているのかとでも言いたげな困惑した表情にも見えた。
「確かに留まって回復を任せたいとは言ったが……本当に行けるのか?」
「多分ね。実戦で試すのは初めてだけど、私が積んできた修練の経験を踏まえれば可能な事。……出来るとしたら行けるのかしら」
「そりゃあな。少なくとも小鬼を一方的にぶちのめして追っ払うのは容易いぜ。……というか、本当に出来るなら明日にでも召集をかけて作戦を実行したい」
レナードはまだ信じられないのか、困惑した表情を崩さなかった。
「……エレノアさん。僕は君の事を、かなり低く見積もってしまっていた事になる」
普段自信に満ち溢れているグレイの表情から余裕が消え、そして抑揚の効いた声も、若干弱気になっているようにも感じた。
「あら、グレイ。私を誘った事を後悔しているのかしら? 嬉しかったのに」
「……いや。何としても君が欲しくなった。だが、僕の誘いに君が乗ってくれるかどうかが不安になっている。……君の期待に応えられるかどうかもね」
恥ずかしげもなくグレイはエレノアに告げた。彼にそう言われるのは嬉しくもあり、少し心臓が高鳴っているのがわかったが、同時にその思いに対し冷静な分析をしていた。
つまりは聖王国で不要の存在となった反動。それで説明がつく。今は心が誰かに必要とされたがっている。彼に対する特別な感情じゃない。そう思いを押し止めるように努めた。
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