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第三章 偽聖女の初陣
ミーティング
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村長宅での朝食後、グレイに兵舎に案内されたエレノアは、民兵団兵長レナード含む数名とミーティングを行う事になった。術の使い手であるエレノアとグレイの知見を活かした提案が欲しいというレナードの要望である。
「村外縁部の外堀を徐々に埋められている。まあ、少なくとも一週間以上はかかるだろうが、作業が終わったら城壁に張り付いて無理矢理越えてくるかもしれんな」
レナードはテーブルの上に羊皮紙の地図を開くと、小鬼を模した木彫りの駒を、羊皮紙の上に三個、四個と並べていった。
「レナード。こういった籠城戦って以前もあったの?」
「ここまで大規模なものは俺の知る限りでは無い。傭兵やってた頃に小鬼の集団と何度か対峙した事はあるが、上位種ってヤツでもここまで頭が回らないのが大半だ。……小鬼にしては不自然なくらい知恵が働いている。まるで人間様を相手にしているかのようだぜ。兵器や装備の質も良い。相当優秀な個体が出てきたって事だ」
レナードは頭を掻くと、状況の説明を再開した。
「山岳の西側から徐々に東に向けて勢力を拡大し、ついに中央にあるこの村まで押し寄せてきた。調子に乗って数を増やし過ぎて食料不足なのかもしれん。……そうだとしたら何としても、このノーラス村を抑えたいだろうな。ノーラスの心臓ともいえる、ここを支配すれば山岳一帯に小鬼の王国を築く事も夢じゃねえ」
ノーラス村は小鬼では築けない技術で造られた、土の賢者ロックの遺産である堅牢な外壁と監視塔があった。村の施設を破壊せずに奪取出来れば、そっくりそのまま拠点化出来る上、人間という名の文明を持った一番の天敵を山岳一帯から追い出す事が出来る。
「もし、食料不足ならば、犠牲をものともせずに落としにかかるかもしれないね。口減らしを兼ねて」
グレイの意見にエレノアは同意した。ノーラスには四カ月分以上もの食料の備蓄があるらしい。この村を上手く落とす事が出来れば、それだけで長期の食糧庫に早変わりする。
兵糧攻めでこの村を攻略できたとしても兵糧資源の旨みはなくなってしまう。堀を埋め終わったらグレイの言う通り、口減らしを兼ねて強引に突破を図ってくるかもしれない。
「一週間までに何とかしたいわね。……ノーラスにはどれくらい戦える人がいるのかしら」
「エレノアお嬢ちゃん、この村の住民は皆、民兵だ。男女問わず一〇歳以上は日課として鍛練の義務がある。……村長から小鬼三〇匹殺しの武勇伝は聞かなかったか?」
レナードの言葉に、エレノアは額に傷痕のある眼光鋭いソーンの老顔を思い出した。
今は杖を補助に使う身である。流石にリタイアしていると思うが若い頃は優秀な兵士だったのかもしれない。
「聞かなかったわ。勇ましいお爺様だったのね。……でも、建前ではなく本当の処の戦力が知りたいのよ」
「手厳しいな。……俺から見て、臆せず勇敢に戦える一人前の兵は五〇名。だが、言った通り、村人ほぼ全員が日常的に訓練はしているし、いざとなったら村人全員に武器を取る覚悟はして貰っている。リリアだって、週一回は合同鍛錬に参加してるんだぜ」
一軍としての戦力は多くはないが、少なすぎるという程ではない。
そして一軍に満たない村人も鍛練は行っているようである。全くの素人ではないという点では心強いものがある。エレノアは可愛らしいリリアが鍛錬している姿を想像し、思わず微笑を浮かべた。
このような険しい山岳に根付く住民である。聖結界の平和に甘んじて暮らす聖王国の住民とは元より覚悟が違う。そして戦術をかじった事のないエレノアだったが、五〇名の兵で、どう対処すればいいか、自分の扱える光魔法を踏まえ思考を巡らせ始めていた。
「人数差はかなりあるわね。今更だけど、こうなる前に傭兵は雇えなかったのかしら?」
「残念ながらな。以前は旧友の傭兵団を雇って、定期的に湧く小鬼を排除してたりしたんだが。今、傭兵は売り手市場らしい。……グレイよ、最近は剣王国の方もキナ臭くなってるんだろ?」
レナードは肩をすくめてグレイの方を向くと、グレイは珍しく渋い表情を見せて、溜息をついた。
「レナード。君の処に皺寄せが来ているなら、本当に申し訳ないと思う」
「……まあ、ノーラスと剣王国じゃ出せるお賃金も保障も違うからな。……いっそ、ここを剣王国が領土に組み込んでくれればな」
村人全員の総意ではなさそうだが、レナード個人としては剣王国の統治を望んでいるとも取れた。ノーラスを取り囲む三大国による非統治協定。よって、そうしては貰えない事情がある。
そして、組み込まれたら安全とは限らない気がした。そうなった場合は協定破棄となる上、ノーラス村は聖王国領および砂王国領の近接領に早変わりする。
「まあ、傭兵の連中は当てにならん。玉石混合だが石が多すぎる。旧友の傭兵団はアテになるが今は剣王国のお仕事で忙しい。……それ以外の奴は正直、雇うのに気が進まなかったっていうのもある」
レナードは一拍置き、さらに続ける。
「実力の無い無能なヤツや、やる気がないヤツもいれば、勝手に逃げ出すヤツもいる。……素行の悪いヤツもな。剣王国で一〇年以上傭兵をやってた俺が言うんだから間違いない」
「傭兵経験の長いレナードが言うなら間違いなさそうね。……当然、貴方はそうではないんでしょう」
「そういう気概で事に臨んでいるつもりだ。村が陥落するとまでは思っていないぜ。……だが、この戦力差で死傷者ゼロっていうのも中々ハードな要求だ」
彼は既に死傷者を想定しているようだった。堀を埋め終わった後、強引に城壁を突破すれば、小鬼の方が被害は大きくなりそうだが、村人も被害なしとはいかないかもしれない。傭兵経験の長い彼の想定は、ある程度の現実味があった。
「あの小鬼王の存在が大きいようだね。優秀な王か。だが、そのお陰で外敵による淘汰がされ辛くなった結果、餌が無くなるくらいまで繁殖し過ぎてしまったと」
グレイの推測。この険しい山岳地帯には小鬼の天敵となる怪物がいくらでも存在する。
山岳に出没する怪物として、鷲獅子、灰色狼、岩巨人といった名前が怪物図鑑に記載されていたのを覚えている。
そういった小鬼より強い怪物によって、ある程度は淘汰され調整されるのが自然の摂理だが、それらを駆逐できるだけの実力や知能を持つ上位種の小鬼が出てくれば話は別である。
だが、仲間が淘汰されない事で新しい問題が起きる。仲間が死なずに増え続ければ食糧難になり餓死者が出るのを避けられない。
「……それにしても、餌を求めるなら他を目指したっていいのに。確かに拠点としては便利でしょうけど、こんな要塞みたいな村を時間をかけて無理に落とさなくても」
エレノアは何気なく呟いた。これは彼女が理詰めで考えれば、すぐわかりそうな事であり、考えもなく口にしてしまった事である。
それは、何気なく得ていた恩恵を、当たり前のように享受していた事によるものだった。
「エレノアさん、北から西側にかけては広大な砂王国領だ。小鬼は熱砂の適応能力が極めて低いからね。向こう側には下りられない」
グレイはさらに続けた。
「南部は聖王国が聖結界を張って特定の怪物を遮断している。それで、押し出されるようにノーラス側に流れ込みやすくなっているんだ。そして、ここを落とせれば東にある剣王国側へ下る足掛かりにもなる」
グレイの地政学的な見地に基づいた説明を聞いたエレノアは、腑に落ちた表情を浮かべていた。
聖結界。その存在は人々に安寧を齎すものだとエレノアは教えられ、今までそう思ってきた。
「……そうだわ。それで……ノーラス村の人たちは、聖王国が嫌いなのかしら」
四日間歩いた往来の無い朽ち果てた山道。それは聖王国とノーラスの両者間の関係が冷え切った事を意味している。昨晩のソーン村長の態度からも聖王国には一切関わりたくないという意思がありありと窺えた。
それだけならばまだしも三国間の協定という枷により、ノーラス村は中立地帯として何処の国にも公には見放された地となっている。
エレノアは暗澹たる気持ちで、五年前、怪物によって父親を失ったリリアの事を考えていた。そして、その気落ちしている様子に、グレイもレナードも気付かなかった。
「……俺は別に好きでも嫌いでもねえよ。だがまあ、聖女様の御裾分けがこうやって来ている事は聖王国の連中は」
「ごめんなさい」
エレノアはレナードの言葉を遮るように謝罪の言葉を口にして、うつむいた。それはレナードに対する謝罪ではなく、父親を失ったリリアに対する申し訳なさから、無意識に飛び出したものである。
そのあまりにも無機質な声に、レナードは真顔になり、やがて気まずそうな表情に変えた。
「……エレノアお嬢ちゃん、気を悪くしたなら謝る。そんなつもりは全く無かった」
レナードが真面目な口調で伝えると、頭を下げた。
「……エレノアさん、君が聖王国の出身者だとしても、君個人には何の責任もない。聖結界、そしてノーラス山岳地帯を緩衝地帯に置くという三国間の盟約。この仕組みは大昔から出来上がっていたものだ。ノーラスの民も、それを承知の上で、この地で暮らしている」
そのように二人に言われたが、エレノアはかえって申し訳ない気持ちになった。
確かにグレイの言う通り個人の責任ではない。極光の書。聖女認定。聖結界。聖王国古来から続いている伝統の防衛システム。
だが、エレノアは最近まで聖結界の管理役になるはずだった人間である。結果として聖女にはなれなかったとはいえ、とてもではないが無関係とは思えなかった。
そして、聖結界の皺寄せでノーラス村に被害が及び死人まで出ているのであれば、一〇年間聖都エリングラードで平和を謳歌していたエレノアも全くの無関係ではない。
「……大丈夫。言った通り、今はもう聖王国とは無関係の人間だから。……そして小鬼については、やっぱり捨て置けないわね。絶対に協力させて」
「村外縁部の外堀を徐々に埋められている。まあ、少なくとも一週間以上はかかるだろうが、作業が終わったら城壁に張り付いて無理矢理越えてくるかもしれんな」
レナードはテーブルの上に羊皮紙の地図を開くと、小鬼を模した木彫りの駒を、羊皮紙の上に三個、四個と並べていった。
「レナード。こういった籠城戦って以前もあったの?」
「ここまで大規模なものは俺の知る限りでは無い。傭兵やってた頃に小鬼の集団と何度か対峙した事はあるが、上位種ってヤツでもここまで頭が回らないのが大半だ。……小鬼にしては不自然なくらい知恵が働いている。まるで人間様を相手にしているかのようだぜ。兵器や装備の質も良い。相当優秀な個体が出てきたって事だ」
レナードは頭を掻くと、状況の説明を再開した。
「山岳の西側から徐々に東に向けて勢力を拡大し、ついに中央にあるこの村まで押し寄せてきた。調子に乗って数を増やし過ぎて食料不足なのかもしれん。……そうだとしたら何としても、このノーラス村を抑えたいだろうな。ノーラスの心臓ともいえる、ここを支配すれば山岳一帯に小鬼の王国を築く事も夢じゃねえ」
ノーラス村は小鬼では築けない技術で造られた、土の賢者ロックの遺産である堅牢な外壁と監視塔があった。村の施設を破壊せずに奪取出来れば、そっくりそのまま拠点化出来る上、人間という名の文明を持った一番の天敵を山岳一帯から追い出す事が出来る。
「もし、食料不足ならば、犠牲をものともせずに落としにかかるかもしれないね。口減らしを兼ねて」
グレイの意見にエレノアは同意した。ノーラスには四カ月分以上もの食料の備蓄があるらしい。この村を上手く落とす事が出来れば、それだけで長期の食糧庫に早変わりする。
兵糧攻めでこの村を攻略できたとしても兵糧資源の旨みはなくなってしまう。堀を埋め終わったらグレイの言う通り、口減らしを兼ねて強引に突破を図ってくるかもしれない。
「一週間までに何とかしたいわね。……ノーラスにはどれくらい戦える人がいるのかしら」
「エレノアお嬢ちゃん、この村の住民は皆、民兵だ。男女問わず一〇歳以上は日課として鍛練の義務がある。……村長から小鬼三〇匹殺しの武勇伝は聞かなかったか?」
レナードの言葉に、エレノアは額に傷痕のある眼光鋭いソーンの老顔を思い出した。
今は杖を補助に使う身である。流石にリタイアしていると思うが若い頃は優秀な兵士だったのかもしれない。
「聞かなかったわ。勇ましいお爺様だったのね。……でも、建前ではなく本当の処の戦力が知りたいのよ」
「手厳しいな。……俺から見て、臆せず勇敢に戦える一人前の兵は五〇名。だが、言った通り、村人ほぼ全員が日常的に訓練はしているし、いざとなったら村人全員に武器を取る覚悟はして貰っている。リリアだって、週一回は合同鍛錬に参加してるんだぜ」
一軍としての戦力は多くはないが、少なすぎるという程ではない。
そして一軍に満たない村人も鍛練は行っているようである。全くの素人ではないという点では心強いものがある。エレノアは可愛らしいリリアが鍛錬している姿を想像し、思わず微笑を浮かべた。
このような険しい山岳に根付く住民である。聖結界の平和に甘んじて暮らす聖王国の住民とは元より覚悟が違う。そして戦術をかじった事のないエレノアだったが、五〇名の兵で、どう対処すればいいか、自分の扱える光魔法を踏まえ思考を巡らせ始めていた。
「人数差はかなりあるわね。今更だけど、こうなる前に傭兵は雇えなかったのかしら?」
「残念ながらな。以前は旧友の傭兵団を雇って、定期的に湧く小鬼を排除してたりしたんだが。今、傭兵は売り手市場らしい。……グレイよ、最近は剣王国の方もキナ臭くなってるんだろ?」
レナードは肩をすくめてグレイの方を向くと、グレイは珍しく渋い表情を見せて、溜息をついた。
「レナード。君の処に皺寄せが来ているなら、本当に申し訳ないと思う」
「……まあ、ノーラスと剣王国じゃ出せるお賃金も保障も違うからな。……いっそ、ここを剣王国が領土に組み込んでくれればな」
村人全員の総意ではなさそうだが、レナード個人としては剣王国の統治を望んでいるとも取れた。ノーラスを取り囲む三大国による非統治協定。よって、そうしては貰えない事情がある。
そして、組み込まれたら安全とは限らない気がした。そうなった場合は協定破棄となる上、ノーラス村は聖王国領および砂王国領の近接領に早変わりする。
「まあ、傭兵の連中は当てにならん。玉石混合だが石が多すぎる。旧友の傭兵団はアテになるが今は剣王国のお仕事で忙しい。……それ以外の奴は正直、雇うのに気が進まなかったっていうのもある」
レナードは一拍置き、さらに続ける。
「実力の無い無能なヤツや、やる気がないヤツもいれば、勝手に逃げ出すヤツもいる。……素行の悪いヤツもな。剣王国で一〇年以上傭兵をやってた俺が言うんだから間違いない」
「傭兵経験の長いレナードが言うなら間違いなさそうね。……当然、貴方はそうではないんでしょう」
「そういう気概で事に臨んでいるつもりだ。村が陥落するとまでは思っていないぜ。……だが、この戦力差で死傷者ゼロっていうのも中々ハードな要求だ」
彼は既に死傷者を想定しているようだった。堀を埋め終わった後、強引に城壁を突破すれば、小鬼の方が被害は大きくなりそうだが、村人も被害なしとはいかないかもしれない。傭兵経験の長い彼の想定は、ある程度の現実味があった。
「あの小鬼王の存在が大きいようだね。優秀な王か。だが、そのお陰で外敵による淘汰がされ辛くなった結果、餌が無くなるくらいまで繁殖し過ぎてしまったと」
グレイの推測。この険しい山岳地帯には小鬼の天敵となる怪物がいくらでも存在する。
山岳に出没する怪物として、鷲獅子、灰色狼、岩巨人といった名前が怪物図鑑に記載されていたのを覚えている。
そういった小鬼より強い怪物によって、ある程度は淘汰され調整されるのが自然の摂理だが、それらを駆逐できるだけの実力や知能を持つ上位種の小鬼が出てくれば話は別である。
だが、仲間が淘汰されない事で新しい問題が起きる。仲間が死なずに増え続ければ食糧難になり餓死者が出るのを避けられない。
「……それにしても、餌を求めるなら他を目指したっていいのに。確かに拠点としては便利でしょうけど、こんな要塞みたいな村を時間をかけて無理に落とさなくても」
エレノアは何気なく呟いた。これは彼女が理詰めで考えれば、すぐわかりそうな事であり、考えもなく口にしてしまった事である。
それは、何気なく得ていた恩恵を、当たり前のように享受していた事によるものだった。
「エレノアさん、北から西側にかけては広大な砂王国領だ。小鬼は熱砂の適応能力が極めて低いからね。向こう側には下りられない」
グレイはさらに続けた。
「南部は聖王国が聖結界を張って特定の怪物を遮断している。それで、押し出されるようにノーラス側に流れ込みやすくなっているんだ。そして、ここを落とせれば東にある剣王国側へ下る足掛かりにもなる」
グレイの地政学的な見地に基づいた説明を聞いたエレノアは、腑に落ちた表情を浮かべていた。
聖結界。その存在は人々に安寧を齎すものだとエレノアは教えられ、今までそう思ってきた。
「……そうだわ。それで……ノーラス村の人たちは、聖王国が嫌いなのかしら」
四日間歩いた往来の無い朽ち果てた山道。それは聖王国とノーラスの両者間の関係が冷え切った事を意味している。昨晩のソーン村長の態度からも聖王国には一切関わりたくないという意思がありありと窺えた。
それだけならばまだしも三国間の協定という枷により、ノーラス村は中立地帯として何処の国にも公には見放された地となっている。
エレノアは暗澹たる気持ちで、五年前、怪物によって父親を失ったリリアの事を考えていた。そして、その気落ちしている様子に、グレイもレナードも気付かなかった。
「……俺は別に好きでも嫌いでもねえよ。だがまあ、聖女様の御裾分けがこうやって来ている事は聖王国の連中は」
「ごめんなさい」
エレノアはレナードの言葉を遮るように謝罪の言葉を口にして、うつむいた。それはレナードに対する謝罪ではなく、父親を失ったリリアに対する申し訳なさから、無意識に飛び出したものである。
そのあまりにも無機質な声に、レナードは真顔になり、やがて気まずそうな表情に変えた。
「……エレノアお嬢ちゃん、気を悪くしたなら謝る。そんなつもりは全く無かった」
レナードが真面目な口調で伝えると、頭を下げた。
「……エレノアさん、君が聖王国の出身者だとしても、君個人には何の責任もない。聖結界、そしてノーラス山岳地帯を緩衝地帯に置くという三国間の盟約。この仕組みは大昔から出来上がっていたものだ。ノーラスの民も、それを承知の上で、この地で暮らしている」
そのように二人に言われたが、エレノアはかえって申し訳ない気持ちになった。
確かにグレイの言う通り個人の責任ではない。極光の書。聖女認定。聖結界。聖王国古来から続いている伝統の防衛システム。
だが、エレノアは最近まで聖結界の管理役になるはずだった人間である。結果として聖女にはなれなかったとはいえ、とてもではないが無関係とは思えなかった。
そして、聖結界の皺寄せでノーラス村に被害が及び死人まで出ているのであれば、一〇年間聖都エリングラードで平和を謳歌していたエレノアも全くの無関係ではない。
「……大丈夫。言った通り、今はもう聖王国とは無関係の人間だから。……そして小鬼については、やっぱり捨て置けないわね。絶対に協力させて」
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