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第3章 ゆるやかな流れの中で
別れ
しおりを挟む瞬に告白されたと思ったら、あっさり振られてしまったような感じだった。
余りにあっけなくて、榊ですら一瞬茫然としてしまったくらいだった。
泣いて縋ってくれたならキスくらいしてやってもいいと思っていたのに、瞬は言うだけ言ったらそれで満足して目を逸らしてしまった。
お互いに心が通じ合ったからと言ってどうこうなる訳では無いのは分かっていた。
だがそれをすんなり割り切られてしまうと、それはそれで少し寂しくもあり、胸の奥が締め付けられるような鈍い痛みを感じた。
やはり長く一緒に居過ぎてしまったと思う。
自分がこんなにもダメージを受けるとは思いもしなかった。
もし明日から瞬を躾けなくてもよくなったら、多分当分何もする気にはならないかもしれない。
瞬の躾けには追加手当てだって貰っているのだから文句は言えないのだが、やはりそれでも安いと思う。
それくらい自分は今回の躾けに自分の総てを出し尽くしたと思う榊だった。
瞬を失った虚無感でしばらくは立ち直れなくなるだろうとも思う。
有栖川には立ち直れないようなら久しぶりに甘えてくれてもいいと優しく気遣ってももらえたが、もう誰かに泣きつくのも、誰かに縋って生きていくのも懲り懲りだった。
これからの人生は誰にも頼らず、自分だけで生きていこうと思っていた。
そして誰かを新たに躾けるのも瞬で終わりにしようと思っていた。
世話をするにしても、もっと違った形もある。
その為にも榊は早くここから出なければならなかった。
榊は清々しい表情を見せ一歩前進したかのような瞬に最後に一言釘をさす。
「本当に飲み込みが良すぎて瞬は困りますね。だからすぐ教える事が無くなってしまうんですよ。
でも、何があっても忘れないでくださいね」
「分かっています。
『恥じらいと貞淑さ』ですよね。
これはお父様にとって絶対な天使の理想なのですから」
「そう言う事です」
それから二人で見つめ合って静かに笑った。
唇を合わせる事も、とめどなく涙を流す事もなかった。
***
そして本当に奇跡は起きたのだった。
翌日
堂島が瞬を迎えに来る事になったのだった。
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