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第3章 ゆるやかな流れの中で
天使の真実(8)
しおりを挟む元天使の子供である瞬が元天使の守護者であった堂島によってこの施設に送られて来るとは皮肉な事だった。
だがそれも瞬が元天使のもとで幸せに暮らしていれば、こんな事にもならなかったとも思う。
元天使と堂島達の音信が途絶えてから約十年の月日が流れ、ある日堂島は偶然元天使が可愛らしい子供を連れているのに出くわしたのだった。
いや、正確に言うならば目に留まったのは元天使の方では無かった。
堂島の目に入って来たのは、自分が十年以上の年月を掛け守り抜いて来た天使と同じ顔をした瞬の方だった。
もし瞬を連れていなければ、それが元自分が崇拝し守り続けて来た天使だと気付かなかったかもしれなかったらしい。
それくらい元天使は天使の面影を無くしていたとの事だった。
確かに美しい男だとは思ったが、もう少年とは言えない者になってしまった元天使に、堂島は哀れに思う気持ちはあっても惹かれるものは何も無かった。
むしろその彼の横で一心に慈愛のこもった視線で父親と母親に交互に微笑みを浮かべる子供の顔から目が離せなくなってしまったのである。
確かこの子の母親はとっくにこの子のを捨てて出て行ったはずだと風の噂で聞いていた。
堂島は胸に引っかかるものを覚え帰宅すると、直ぐに学院OBで構成されているコミュニティーの仕事に従事していた有栖川と連絡を取り、その後の天使の動向を探ってもらうとさまざまな実態が見えて来た。
元天使はその後女とは別れ、子供は実家へ預けられた。そして元天使は自分は途中だった学業に専念し、大学を卒業すると家業を継ぐ為に修行に入った。
その間、子供は実家で祖父母に手厚く扱われたかと言うと、そう言う訳では無かったらしい。
そして堂島が出会った頃の瞬はようやく再婚した父親に引き取られ、新しい母親と同居し始めたばかりの頃だった。
だがその再婚相手のお腹にも既に新たな命が宿っている事が分かる。
それからしばらくは元天使の動向と瞬のその後を静かに伺っていた堂島だった。
だがしかし、堂島の胸に引っかかっていた悪い予感は次々現実となっていった。
瞬のどこか無理をして大人の視線を惹きつけようとする笑顔の裏に潜む寂しそうな瞳が、堂島の胸に突き刺さりどうしても離れなかった。
そして瞬が継母からの育児放棄の虐待を受けている事も元天使の家の家業もあまり順調じゃない事も掴んだ。
そうして傾き掛けた事業を更に転ばす事は意図も簡単な事だった。
融資先の銀行に悪い情報を流し融資を断ち切らせた。
そして企業解体屋に情報をリークすればトントン拍子に元天使の家の家業は終末に追い込まれていった。
その天使と同じ顔をした子供が幸せであれば何も堂島だってただ嫉妬にかられようと、手を出すつもりは無かったかもしれない。
だが、その愛らしい子供が見せた無邪気な笑顔の下に隠した救いを求めるような目がどうしても脳裏から離れなかった。
ぱっと見ではきっと誤魔化され誰にもわからないだろうが、元天使を十二年間見守り続けて来た堂島にはその子の笑顔が偽物だと言う事は手に取るように伝わって来た。
そうして元天使に融資の話を持ちかけ、代わりにその子供を養子に欲しいといえば、簡単に瞬は差し出されたのだった。
堂島は何故かそれを嬉しいとは思わなかった。
ただ哀しみだけがこみ上げて来て、瞬をコミュニティーの有栖川が任されていた施設に預ける事にしたのだった。
少年趣味のある自分が今瞬を手元に置いたら、直ぐにその穢れなき身体を犯してしまうかもしれない恐怖にもかられていたのだろう。
堂島にはそれを犯せば天使を貶めたあの女達と自分も同じ事のように感じてしまったのだった。
だから直ぐには瞬を引き取れ無かった。
その代わり施設で堂島の希望通り、瞬には極力性徴を抑えさせ、前で逝く事を教えずに後ろの孔だけで感じられる身体へと仕上げてもらった。
だが協力してくれた有栖川からも、躾け役を引き受けてくれた有栖川の愛弟である榊からも、もう潮時が来たと言われたら、いくらなんでも逃げる事はかなわなくなるだろうと思う。
そして瞬もそんな堂島の性癖を理解して受け入れようとしてくれているのが画面を通しても伝わっているだろうと思うのだった。
瞬は子供ながらに周りの事をよく見ていた。
邪険に扱われて来た瞬だからこそ、人の痛みがよく分かる子に成長していたのだった。
こんな異常な躾けにいい加減文句や精神的な異常を示してもおかしくは無いはずなのに、瞬は曲がらずに躾けを受け入れてくれていた。
それも全ては自分をこれから愛してくれる堂島の為でもあった。
榊はそんな瞬ならば必ず堂島を幸せへと導けるだろうと思うのだった。
彼の心はまだ傷ついているのである。
一番近くで守って来たものがどんどん醜く堕ちていく様を助けるどころか、最後は更に地獄へと墜したのが自分だと責めてもいるのだろう。
だがもうすぐそれも瞬が手元に行けば終わりを告げる事だった。
堂島の傷ついた心を癒せるのは、もはや本当の天使になった瞬だけと思う。
だから瞬にはその事情をきちんと話しておかなければならなかった。
そして瞬ならそれをきっと受け入れ、理解するだろうと確信していた。
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