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第3章 ゆるやかな流れの中で
天使の真実(4)
しおりを挟む「うちの有栖川と堂島様そして瞬のお父様は皆同じ学校の同級生でした。瞬は実のお父様からは学院の事を聞いた事がありませんか?」
瞬は遠い昔の記憶を遡ってみた。
そう言われてみれば瞬が小学校に上がる時に学院がどうのという話を祖父母達が話しているのをチラッと聞こえてしまった事はあった。
だが瞬はあの女の血が混ざっているから無理だと又母親の事を悪く言われているのも同時に聞こえて来た。だからそれ以上聞きたくもなくて話が聞こえないところに逃げこんでしまった。
そして瞬はそのまま地元の小学校に上がったのだった。
その後はいっさいそんな話も無く、父からも自分の昔の話を聞かされた事も無かった。
だからすっかり忘れてしまっていた事だった。
「父からは有りませんでした。でも僕が小学校に上がる時、祖父母がそんな話をしていた事があったような気がします。
でもそれ以外では学院の話は聞いた事がありません、本当に何も知らないのです」
瞬の瞳が悲しそうな色を秘めているのを察し、榊も話を先に進めた。
「そうですか。学院は小中高の一貫教育の全寮制の学校なのです。ですから十二年もの間、子供達は親元から離れ、寝食を共にする事になります。外界とは隔てられ、勿論携帯電話などは持ち込めません。帰省するのは年末年始くらいのもので、それさえ決められた日数は短いのだそうです。
ですが、彼らは別にそれを不服とは思ってはいないようで、むしろ学院の中で自分達の独自のコミュニティを形成し、その中に一つの社会が出来上がり、縦横の繋がりを重んじ、学生が学生を統治する日々に充実感さえ覚えるようになっていきます。
そして学院はここと同じように滅多に外部の人間が入って来る事もなく、厳重なセキュリティーで警護されているばかりか、山奥にある為よほどの物好きでもない限り盗撮も叶わないような場所にあるそうです。その点においてはここと学院は似ているところがあるかもしれません」
榊の話を瞬は興味深げに聞いていた。
実の父も堂島もこの施設長である有栖川も同じ学院の同級生だと言うのが何気に嬉しかったりもしていた。
そしてこの施設が学院と似てセキュリティーが厳重な場所だという事も今初めて聞いた瞬だった。
今の榊は確かに瞬が聞かなければ答えてくれなかったであろう秘密を確かに教えてくれているような気がしていた。
今更だからこそ、もう隠しておかなくてもいいのかもしれないが、それは堂島や有栖川にとっては個人情報のようなものも含まれている。
だが、それを明かしてくれた榊の思惑はまだ続きがある事が分かっていた。
瞬の質問は『天使』とは何かについてだったのだ。
その答えにまだ辿りついてはいない。
その答えを導く為に、それを引っくるめて学院の事も、堂島達がみんな同窓である事も明かしてくれたのだと思った。
瞬は父達の学生時代の話が聞けると思うと、やはりどこかワクワクして来た。
だから瞬は榊の話を遮る事なく、続きを聞きたいと期待を込めて榊の腕におとなしくその身を預けていた。
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