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第3章 ゆるやかな流れの中で
天使の真実(3)
しおりを挟む少し震えている瞬の薄い身体を抱く手に力を込める榊だった。
「正直、私は瞬が自分から言いださないなら、ここを出るまで伝えないでおこうと思っていました。
瞬が疑問を持たず、このまま堂島様の元へ行っても別に今の瞬ならそのままで十分愛されるに値すると思ってるのは本当です。
瞬はそれだけは何も不安を抱かずにいてください。
ただし、そういった卑屈な態度をしていたら、そりゃ天使にはなれないかもしれませんけれどもね…
でも、やはり瞬も不安だったのですね。本当に申し訳ありませんでした。
堂島様の元へ行く前に瞬が自分からこうして何か聞きたい事があるならと、ここなら誰の目にも耳にも入らないと思って散歩という名目でこんな森の奥深いところまで連れて来てしまいました。
少し疲れましたか?」
瞬はそれにはすかさず首を横に振った。
確かに疲れてはいた、こんなに気持ちを曝け出した事がなくて、肉体的にと言うより、精神的に疲労していたのだった。
まだ股間の昂りもぶり返し、そこがズキンズキンと鼓動しているのが分かる。
だがそんな事より今は榊に質問に答えてもらう事の方が重要だった。
瞬はようやく榊がこんな森の奥まで散歩に連れ出してくれた理由が分かった気がした。榊も瞬が自分から何か聞きたい事があるなら答えてくれるつもりでいてくれたのだと思う。
それはやはりもうすぐ別れが来るからなのだろうと思う。
今だからこそ、最後に瞬にその『天使』と呼ばれるモノの真実を伝えようとしてくれていたのだった。
「瞬は自分とあなたのお父様…実の父親とは似ていると思いますか?」
榊のその問に、瞬は何を今更実の父なんかを持ち出されるのかがさっぱり分からない。
それは養子に出されると決まりここへ連れて来られたあの日から、考えないようにして来た事の一つだった。もう二度と戻れる場所ではないような気が子供ながらにしていたし、躾けが始まってからは考えている余裕すら無かった。
それが今何故、自分と実の父親とが似ているかどうかなんて持ち出されるんだろうかと疑問が持ち上がる。
「実の父ですか?
あまり似ていないと言われて来ました。僕はどちらかと言うと母親に似ているとずっと言われて…」
そう言うと瞬はまた言葉に詰まってしまう。
その続きを言ったらまた『卑屈』だと取られたら嫌だったからだ。
だが実際に言われ続けて来たその言葉は、実の母と自分とを蔑む言葉ばかりだった。
だからこそそうならないように反面教師である事に努めて来た。
『あの女に似て』と言われる度に瞬の心が傷付かなかったかと言われたら、それは傷付いていて当然の事だった。
「そうですか。
私は瞬のお母様の事は詳しく存じあげませんが、あなたの実のお父様の事は多少教えていただいています。
任された子供を躾けるにあたってその子が今までどんな生い立ちにあったかは重要な事ですから。
そしてそこからどのように意識を変えさせてこれからの主人である方へ似合う子供に躾けて行けばいいのかを考えて躾を行うのが私チューターの仕事なのです。
それは瞬も分かっていただけますね?」
「…はい」
「その私から申し上げますと、瞬とあなたの実のお父様はお顔立ちは大変良く似ていらっしゃいました。
少なくとも堂島様や有栖川と一緒に写っていた学院での写真を見る限りは、まるでそこにあなたが一緒に写りこんでいるのじゃないかと見紛うばかりでしたよ」
「え!?お父様達が一緒の写真があるんですか?そこに有栖川様もご一緒だったんですか?」
瞬は驚きが隠せなかった。
実の父親からは堂島が友人だとは聞いていたが、どこのどんな友人なのかを追求するなんて当時の瞬には出来る筈もなかった。
ただ金に困っている友人に資金を用立て、不要な子供の瞬まで面倒を見てくれる友人という人ならお金には不自由している事もなく、そしてきっとある意味大金を払い瞬をここで躾けを受けさせる余裕もある人なんだとは思っていたが、堂島も有栖川も実の父も同じ学校の出身者だというのは今初めて知った事だった。
まだそれでも点と線がつながらず、頭の中で混乱するばかりの瞬だった。
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