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第3章 ゆるやかな流れの中で
別れの兆し(2)
しおりを挟む「わっ!」
気を付けろと言ってるそばから瞬が落ち葉に足を取られ転びかけるのを、榊の繋いでいた手をサッと上に持ち上げたので、瞬は落ち葉の中に顔から突っ込む事は無かった。
瞬の身体は榊の片手にブランとぶら下がっていた。
その出来事に二人ともあっけに取られシンと静まり返ってしまったが、その後すぐに榊の方がぷっと笑ってしまった。
「まるで罠にかかった兎のようですね」
「笑わないでください…」
そう言って瞬の頬がまた紅く染まってしまう。
「しょうがないですね。
散歩なんだし、せっかく歩かせてあげようかと思ったんですけど、抱っこでもしてあげましょうか?
それともおんぶがいいですか?」
瞬は本当なら歩いてみたかった。
でも榊の腕の中に居られる時間も好きだった。だから抱いてもらう方を選んでしまった。
「抱っこがいいです」
「わかりました。
落ち葉は表面は乾いて見えても折り重なった下は湿っていて滑ります。
歩くのにコツがいるところもありますからね。慣れていないと転んで怪我する場合もあります。
大切な預かりものの瞬を傷付ける訳にはいきませんからね。
ほら、私の首に手を回してください」
そう言われて素直に榊の首に細い腕を回す。
部屋では何度もそうして抱き上げてもらっているのに、外でそうされると服だってコートだって着ているのに、瞬の身体は榊の熱が直に伝わってくるようだった、それが伝わると自分の身体の中からも熱が湧き上がってくるような感じがした。
外が寒過ぎる所為なのかとも思う、吐き出す息が白かった。
その所為か無意識に榊の首にいつもよりついギュッとしがみ付いていたらしい。
「瞬そんなにしがみ付かなくても落としたりしませんよ」
「あっ。
ごめんなさい」
「大丈夫ですけど。
あまりギュッとされると私が前が見えなくて、二人で転んでしまったら、守れ無くなってしまうので」
榊は瞬を守ってくれている。
それは躾けを受けている瞬が一番よく分かっていた。
痛い事をしても瞬の限界を理解して、けしてそれを超えることはしてこなかった。
とは言っても、自分がここでされている躾けと言うのは、他の少年に比べたら随分緩い事は理解出来ていた。
瞬の主人である堂島は瞬にきちんとした教育も受けさせてくれたし、誰にでも身体を分け与えるような事を強要するつもりも無いらしかった。
毎日排泄の管理はされていても、それ以外はほとんど何も無い。
後ろの孔を綺麗に洗われて解される事はあってもその先は無かった。
他の少年達はそこに張り型を受け入れたり実際チューターのモノを飲み込んだりしているのに、榊は瞬にはあの躾けは必要無いと言い、後ろの孔や、口を使って主人を受け入れる躾けはされる事も無かった。
むしろ身体が大人になる事を拒まれている。
性的な成長を主人が望んでいない事だけは伝わって来たのだった。
ここに連れて来られた子供が皆何らかの理由で主人の為に躾けを受けている事は理解していた。
自分もそれは同じだと思う。親に必要とされなかった自分は、欲しいという主人に譲渡されたんだと幼かった瞬にも理解出来てしまった。
堂島が望んでくれなかったら、多分自分はあそこで既に死んでいたかもしれなかった。
身体がでは無く、心が死んでしまっただろうと思う。
瞬が居た家では、もう既に瞬がいる場所は無く、小さな物置のような部屋が全てだったし、与えられる食事もきちんとしたものだろうと一人で食べると砂を噛んでいるような味しかしていなかった。
だから、ここに連れて来られて全部の事は榊に任せろと言われて正直嬉しかったのだった。
ここでは新しい養父に代わって全て榊が自分の事を見てくれていた。
食事も、排泄も、入浴も、勉強も全部だった。
朝起きると榊が見詰めてくれる、そこからまた瞬が眠りに落ちるまで。
だから、瞬にとってはここが天国にいるようなものだった。
あそこに居るよりはずっとマシだったのだった。
自分が望まれているからこそ主人に気に入って貰えるようにここで榊が躾けてくれている。
榊に躾けてもらっている事に応えるのは、主人も為であり、瞬の中では榊の為だった。
正直、もう外の世界になど戻りたくも無かった。
だが、そう言えばせっかく拾ってくれた主人に申し訳ないし、榊にもだった。
榊はあくまで主人の代わりに瞬を愛してくれているだけだった。
そう強く言われていた。
勘違いをしてはいけないと、ここでこうして居られるのは全てお父様のお陰であり、感謝するのはお父様へだと心と身体に刻み込まれた。
だから、けして口には出せない。
だが、瞬が一番好きなのは榊だった。
それだけは間違いない。
でも、もうそれも終わりなんだと言われる事はなんとなく分かっていた。
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