優しい時間

ときのはるか

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第3章 ゆるやかな流れの中で

ご褒美

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 躾け係は一対一で毎日休みもなく、子供がここに連れて来られた日から去って行く日まで共に過ごす。
 躾け役はその間休みなど無い。

 有栖川のようにコミュニティの人間の中でもそれなりの人格者がここの専属の躾士になる事がほとんどだったが、榊のように躾けを受けた経験者が躾け役として招かれる場合もある。

 ここに居る子供の数に応じて躾け役の入れ替わりはよくある事だった。

 一人の躾けが終わるとようやく躾け役にも休みがもらえる。
 又は休みではなく、高い報酬を手にここを去る事も出来る。

 一回の躾け報酬はかなり高額だった。

 長期休暇か退職するかは、それは躾け役に一任されていた。

 だが去る場合は勿論口外無用が条件だった。

 そんな事は言われなくとも誰だって分かっている。
 公には出来ない事がここでは行われているのだから。

 榊はここに戻って来てから、何人かの子供の躾けを担当し、その後は休暇をもらう事にして来た。

 躾けというのはする側もされる側も気力と体力を使い果たす。

 一人の子供の一生を左右する大事な躾けに手を抜く事は出来ないのだから、それこそ寝る暇もなく一人の子供の為に心血を注ぐのだった。

 だが瞬ほど一人の子供の躾けの為に時間を費やした事は無かった。

 普通、一人の子供に掛ける時間は一年から一年半。長くてもだいたいが二年以内には主人の元に送り出す中で、瞬はもう季節が三巡しようとしていた。

 だからもう本当に、教える事など、ほとんどないのだった。

 気休め程度の受験問題を抜粋してさせたりしてみても、瞬は飲み込みが早く直ぐに出来てしまう。

 榊もお手上げだという感じで勉強が出来て嬉しそうな瞬の顔を見詰めた。

「瞬、ご褒美に少し外を散歩してみますか?」

 榊に散歩に連れてってもらえるなんて滅多に無い事で瞬の目が輝く。

「はい!行きたいです!」

「じゃあ、その前にお手洗いは行っておきますか?」

 トイレという事は榊の指が自分を触ってくれるという事だった。
 想像しただけで瞬の頬が薔薇色に染まってしまう。

 相変わらず素直に恥じらいを見せる可愛い瞬を抱き上げて、榊はトイレへと連れて行くのだった。



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