優しい時間

ときのはるか

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第3章 ゆるやかな流れの中で

時は流れて

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静かに施設の時は流れていった。

いくつかの季節が巡り、また同じ季節が繰り返していったかもしれない。

でもどこかそれもどうでもよかった。

施設の窓から見える景色は決まっていた。

目の前の深い森とその隙間から見える空だけだった。

木々の色の移ろいと、空の色、それと雲の高さで季節を感じる事が出来る。

瞬は陽の光が当たらない地下室から陽の光が入る二階に部屋には移ったが、変わらずそこで躾けを受けていた。

初めに有栖川から頑張れれば早くお父様の元に戻れると言われた期間は、とっくに過ぎていたけれど、瞬はそれにも文句も言わず、従順に従っていた。

瞬には瞬なりにここでの生活が普通になってしまい、慣れてしまった事も確かに否めなかった。

だから前ほど早くここを出たいとは思わなくなってしまった。

だが、早く出たいとあまり思わない自分の気持ちが、ただ慣れてしまったからではない事を自分でも分かっていた…。


***


瞬は書き終えた答案に自信があった。
どれも榊が教えてくれた事だから自分の中で何度も復習していたのだった。

それが苦しい躾けの最中でも出来るようになってしまった自分が…
もうだいぶここに来てから
慣らされてしまった事を自覚していた。



瞬が満足気に榊に視線を投げかける。

「どれ見せて」

瞬は榊が採点してくれている表情を見ているのが好きだった。

そしてその時の赤ペンを持つ榊の指が大好きだった。

色々身体に何かしてくる時の榊の指は容赦なくて、恥ずかしいところも全部剥き出しにされる。

けれど、そんな時も榊の指はけして自分が傷が付かないように気遣ってくれているのが瞬にも伝わっていた。

榊の指は長く綺麗で、よく手入れが行き届いていて、その指が瞬の身体の恥ずかしいところに入って来る時は自分でも身体の奥から何か熱が湧き上がるのが分かる。

その時は何をどうすればいいのかも、榊の指が教えてくれた。

優しく自分の身体を高めてくれる。

だから何をされても我慢が出来た。


…でも、やっぱり一番好きなのは、こうして榊が自分の勉強を見てくれる時の赤ペンを握っている時の指先だなと瞬は思う。

つい見つめていると自分の頬が熱くなるような気がしていた。

俯き加減の榊が真剣に採点をしてくれて、ふと視線を上げた時

そんな瞬と視線が絡み合う時があると

ホワッと胸の奥が熱くなるような感覚を瞬は抱えていた。

だが、それはけして外には出してはいけないものだとも感じていた。

瞬にももうそれは分かっていた。

自分が誰の何の為に、こんな山奥で躾けという名の下で、身体を徐々にある事に向かって慣らされているのかも。

主人であり、今後瞬を養子に迎え引き取ってくれるという堂島は、自分を養育してくれると同時に、自分は彼から愛される対象でもあるのだと身体が教えてくれた。

身体というか、榊がそうだと言わんばかりに躾けて来るから、瞬も自分はここを出たらお父様にそこを愛されるのだろうと感じていたのだった。

瞬は二階に移ってからは、昼間は制服を着てひたすら学校でやるべき勉強をして、合間に榊に今まで通りに躾けを受ける。
一応メリハリのある時間を過ごしていた。

そんな瞬の顔の輝きはすっかり本来の子供の持つ愛らしい表情を見せ、よく笑うようにもなった。

やはり地下室にいた間は瞬は彼なりに緊張の連続だったのだった。
それを健気にも我慢して過ごしていた。

それがあったからこそ、二階で服を身につけ勉強を教えてもらえるだけで、それがなんて幸せな事なのだろうかと感じてしまうのだった。

そして榊は課題を瞬に出して姿を見せない事も増えた。

一人で居る時間ははじめは嬉しかったが、徐々に物足りなくなってしまった。

与えられる課題も終わってしまうとやる事が無くなってしまう。

時々、同じような年頃の子供が庭を彼のチューターと一緒に散歩している姿を見かける事があるが、声をかけられるような状況ではないらしかった。

彼は彼で多分主人の躾けを受けているのだと瞬は理解していた。

彼の首には犬につけられるような革の首輪がついていた。

それが彼の首で光り輝くのが見える。
多分その首輪のラインストーンはダイヤだった。
それが日の光に当たってキラキラ輝いていた。

首輪にリードがつけられ、彼はチューターに引かれて散歩の練習のようだった。

裸ではないが極めて裸に近い格好をしていた。
そして彼の股間を形や大きさは多少違うが革の下着が覆い、ベルトのお尻の穴からはフサフサした犬の尻尾が生えていた。

歩くたびにその子の身体がビクビクと震える。
多分感じているのが瞬にもわかる。

そんな彼の顔は瞬のあの時と同じようにどこか諦めたような、でもこれはこれでもう幸せなのだと悟りきった表情をしているのだった。

その姿を夢中になって眺めていたら、いつのまにか榊が戻って来ていて、瞬はギクッとなる。

「課題が簡単過ぎましたか?」

「まあ、そんな難しくもなかったです」

だいぶここでの榊とのやり取りにも慣れて来た瞬は時折こんな風に挑戦的なことを言ったりも出来るようになって来た。

「言いましたね。
一問たりとても間違っていたら、お仕置きですよ」

「いいですよ」

瞬もここでの生活が普通になりつつあるのであった。



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