優しい時間

第1章 執着と躾

難しい躾

椅子に磔になり次々と質問を受けた。

『どんな食べ物が好きか？』
『どんな勉強の教科が得意か？』など、今瞬が感じている尿意とは関係の無い事ばかりのように思う。
まだ幼い瞬にはそれが『焦らし』という、躾の常套手段だという事も分からないのだった。

ただいい子にならなくてはその先に進ませて貰えない事だけは本能的に悟り、くだらない質問にも真剣に答えていた。

その従順さが榊を喜ばせ、果ては主人を喜ばせる事になる事をこの少年は教えられなくてもその術を身に付けている事が素晴らしかった。

それは恥じらいを忘れず貞淑である為の絶対条件でもある。

媚びる事を身につけさせ、自ら誘い込むよう躾をオーダーする主人も少なくは無い。
淫乱さを身につけさせ主人の手を煩わせずとも媚態を演じられるビッチな子供は多頭飼いにはぴったりだし、また誰かに譲る時もそんな子たちは次の主人にも直ぐに順応出来るように躾けられている。

だが、瞬のように貞淑さを忘れないように躾をオーダーする主人はたいていその子に深い執着があり、自分だけに懐き、生涯背く事なく主人に忠誠を誓う、そんな従順でかつ恥じらいを忘れず、それでいて主人の庇護欲を誘いながら媚態を醸し出す、そんな子供を望んでいるのだった。
多頭飼いは決してしない主人が望む唯一無二の存在として、瞬はここを出たら主人からの寵愛を一身に受ける事になるのだろうと思う。

それが大空を自由に羽ばたく羽を室内程度にしか飛べないように切られた状態にされようと、主人に生涯深く愛される事になるのだから、籠の鳥としてはこんなに幸せな事はない。

榊は瞬がこの施設から巣立って行く日の姿を思うと思わずうっとりとして恍惚な顔をしてしまったが、深く被った警帽によってそれは瞬に見られる事はなかった。

そんな瞬の躾を任される事は榊にとっても大変やり甲斐がある躾だった。

ただしそれは、言い返せは大変難しい躾でもあるという事だった。