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原作クラッシャー

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劇の要望用紙を職員室に持ち返り、担任はじっくりと検討した。
【俺が〇〇さんとイチャコラできる話キボンヌ】
「・・・。」
担任は絶句した。
要望用紙は、無記名の為、誰が書いたかわからない。
俺って誰だよっ!
担任は読みながら突っ込んだ。
2枚目。
【俺が〇〇さんと・・・。】
全てを読まずに廃棄用に重ねていった。
だから、俺って誰だっつうに。
気を取りなおして。
【私が、お姫様から王子様を奪い幸せに暮らすお話。】
私って誰だ・・・。
俺と私のオンパレードに頭を悩ます担任。
そんな中。
【不届きな男どもをぶち殴り、ハッピーエンドになるお話】
うん、緑屋だな。どうしても殴りたいわけだ。
何か不満な・・・。
まあ、役だろうな。面談してフォローいれとかないとな。
【王子のセリフが少ないお話。】
うん、間壁だな。
セリフ覚える気なしだろうな。
【俺がお姫様に蹴られるお話。】
【俺がお姫様の椅子になるお話。】
【俺が・・・。】
担任はそっと、それらを廃棄用のほうに重ねていった。
「劇の方、どんなですか?」
進学クラスの担任が話しかけてきた。
平凡高校の2年生は3クラスしかなく、うち1クラスが進学クラスとなっていて、2年生から振り分けられる。
「まあ、面倒くさいと感じてるようです。」
「うちのクラスは、やりたくないと言ってますがね。」
「何処も一緒ですか。」
「でもまあ、進学クラスと言えど青春の1ページですから、いい思い出になるでしょう。」
「そうですかね?」
勇気たちの担任は、否定的だった。
「高校生の文化祭と言えば青春でしょ?」
「私は高校時代の文化祭を覚えていません。ああ、2年の時のお化け屋敷は覚えてますが、先生はどうです?」
「あ、あれ・・・。」
進学クラスの担任は何をやったか思い出せなかった。
「高校の文化祭なんて、そんなもんですよ。」
「でも、先生はお化け屋敷を覚えてるじゃないですか?」
「そうですね・・・。光と戦ってました。」
「え?」
「段ボールや限られた暗幕で、暗闇を作ることの苦労を知りました。光が・・・光が・・・とうなされたのを今でも覚えてます。ああ、同級生の顔は微塵も思い出せませんが。」
「・・・。」
「まあ劇の場合は、保護者たちからの評判がいいのと、写真に残りますから、そう言った意味では思い出になるでしょうな。」
「そ、そうですな。先生のように黒歴史にならないといいですが・・・。」
「黒歴史ですか・・・。」
「何か問題が?」
「うちのクラスのお姫様役は緑屋なんですよ。」
「あ、ああ・・・。」
昨年の準ミスに選ばれている為、先生全員が勇気の事を知っていた。
「黒歴史にならないといいですが。」
「そ、そうですね。」
進学クラスの担任は、相槌をうつしかなかった。
勇気たちの担任は、いつものようにシュレッダーをして、紙くずの半分を自宅で処分した。
「しかし、あいつら、アホばかりだな・・・要望用紙は結局10枚も残らなかった。」

翌日、担任は橋高ナツコに要望用紙を手渡した。
「そのうなんだ、すまないが、これだけしか残らなかった。」
「大丈夫です。脚本は、演劇部から頼まれることもありますし、適当にやります。」
「うん、なんだ。今回のは適当でいいんだがな。」
「何か?」
「演劇部から、そのう・・・評判がな。」
橋高ナツコの評判は、すこぶる悪かった。
「ああ、原作クラッシャーの事ですか?」
「まあ、それだ。」
「大丈夫です、気にしてませんから。」
「そ、そうか。まあ先生が言う事じゃあないんだが、原作があるものは、原作に沿った方がいいんじゃないかな?」
「私、原作読みませんので。」
「読もうよ、せめて、原作はよもう、なっ。」
「致しません。大体、原作通りなら脚本は要らないんじゃないですか?」
「いやあ、先生はいると思うんだけどなあ。」
「それに私は自分の事を原作クラッシャーとは思ってませんので。」
「そ、そうなのか?」
「言うなれば原作イリュージョンです。」
「そ、そうなんだ・・・。先生勉強不足だったな。」
「私は設定だけ読んで書いたり、あらすじだけ読んで書いたりするのが大得意です。もちろん私、独自の解釈で書いていきます。」
「そ、それは凄いなあ。」
「先生、安心してください。全員参加の素晴らしい脚本を書いて見せましょう。」
「頼んだ。うん橋高に期待しているから。」
「ご期待にそれる様がんばります。」
担任は、不安の文字しか思い浮かばなかったが、高校の文化祭の劇なんて、内容はどうでもいいかと思うことにした。
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