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練習試合

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「おい、1年全員いるか?」
「「「はい。」」」
四天童大付属高校3年の岡平は、1年生の引率をしていた。
「は?お前何でいるの?」
1年生全員というわけではない、ベンチ枠や、秋からベンチ入り確実のいわゆるベンチ枠候補は、来ていない。
はずだったが。
「はい、1年ですよ、俺。」
「いやいや、お前ベンチ枠じゃねえか。ここへ来てるんじゃねえよ。」
今年の新入生ナンバー1の戸村が、シレっといるので、岡平は頭を抱えた。
「まあ、いいや。お前、試合には出さないから、ラインズマンか審判やっとけ。」
「なんですと?全員、試合に出れるんじゃないんですか?」
「普通の1年限定だ。」

「平ちゃん、久しぶり。」
岡平は、平凡高校の体育館につくと直ぐに、平岡に挨拶をした。
「岡ちゃん、今年の引率は岡ちゃんなのか。」
「ああ、ベンチ枠にも入れないから、1年の引率に選ばれちまったよ。」
「なるほど。」
平岡と岡平は、同中でバレー部だった。
「部室はないので、申し訳ないが、その辺で着替えて貰える?」
「ああ、構わないよ。」
男子の部活の場合、外や体育館の済みで着替えるのは日常茶飯事だった。
「全員、着替えたらいつも通りの練習だ。練習前には平凡高校の皆に挨拶を忘れないように。」
「「「はい。」」」
岡平は着替えて、1年に指示を出した後、平岡の元へ歩いて行った。
「総監の先生が、宜しくと言ってたよ。」
「いや、こちらの方がお世話になってるし。」
「1年に体育館を使わせてもらうんだ。こっちの方が世話になってると思うけど?」
「うちみたいな弱小と練習試合をしてくれるのは、四天童大付属だけだよ。昔から、四天童大付属の先生には目を掛けて貰ってるみたいだし。」
「まあ、あの人は、バレー好きの生徒が、バレーを出来なくなりつつある現状を憂いているから。」
「うちの廃部の件も、色々と動いてくれたみたいだし。」
「力になれず申し訳ないって言ってたよ。」
「そんなことないさ。僕たちの味方になってくれた、唯一の大人だしね。」
「平ちゃんは、大学へ行くんだろ?」
「ああ。」
「バレーは?」
「続けるつもりさ。岡ちゃんはどうするんだい?四天童大は、大学の1部リーグだろ?」
「続けるさ。選手としてじゃなく指導者を目指してね。」
「へえ。指導者かあ。岡ちゃんにはあってそうだな。」
「まあ、指導者を目指したらどうかってのは、総監の先生に勧められただけなんだけどね。」
「ちゃんとした指導者がいて、羨ましいよ。」
「平ちゃんも一緒にどうだい?」
「僕は家があるからね。」
「そうか。」
「岡ちゃんが、バレー部が無くなった学校でバレー部を復活させるなんて事を楽しみにしておくよ。」
「何それ、俺が主役の物語?」
「いやいや、主役は生徒だろ?」
「そりゃあそうか。」
そう言って、二人は笑った。

平凡高校と四天童大付属の練習試合は、変則3セット。
変則というのは、勝ち負けに関わらず、3セット行われる。
毎年、3-0で平凡高校が負けているのは言うまでもない。
サイドアウト制だった昔と違い、現在はラリーポイント制。ミスが即、失点に繋がるようになった為、0ゲーム負けは減少した。
その為、1セット目は、25-10で、四天童大付属が勝利した。
部員数が、12名しかいない、平凡高校は、2セット目で全員が出場ということになった。
浩一は1セット目で出番が終了したのは、言うまでもない。
「ほう、2セット目は大きいのと小さいのがいるなあ。」
岡平は、真斗と勇気を見て、そう言った。
「ん?対角にあの二人?リベロじゃないのか?」
平凡高校にリベロは居なかった。
リベロは、ユニフォームが違うので一目でわかるようになっている。というかわかるようにしなければならない。
昔であれば、わざとサーブをミスして、ローテをするような戦法が存在したが、ラリーポイント制では単なる失点にしかならない。
「あの小さい体格で、前衛はどうするだ?」

真斗は持ち前の体格で、ブロックとアタックを決めて、大いに貢献していた。
「いい、1年だ。どっから借りて来たんだか。」
動きは、1年らしく、ある程度、決まった事しかできていない。
バレー初心者というのが岡平にもすぐに分かった。
その為、他の部から借りて来たんだろうと思っていた。
「しかし、まあ。次でローテか。」
10-10と拮抗した2セットだが、真斗が後衛に行き、勇気が前衛へと上がる。
四天童大付属の1年は、全員が経験者。
【普通にオープンで、抜けるだろう。】
岡平が思っていることは、1年も思っていたようで、オーブンでアタックを打ってきた。
【思う存分、打たしてもらう。】
四天童大付属の1年は、そう思い、勇気がブロックにとんだ位置から、渾身のアタックを放った。
バシっ。
バンっ。
ドンっ。
ボールは、四天童大付属のコート内に転がった。
「「「「はっ?」」」」
四天童大付属の殆どの人間は、何が起きたか理解できなかった。
殆どと言ったのは、審判とラインズマンの殆どが四天童大付属の人間が、担当しており、さすがにその面々は、何が起きたかは理解していた。
渾身のアタックを四天童大付属が放ち、勇気がそれを綺麗にブロックした。
ただ、それだけなのだが。
【えっ、俺、ブロックされたの?】
アタックを打った1年は、そう思った。
「おい、今、めっちゃ飛んでなかったか?」
岡平は、ベンチに居る1年に聞いた。
「え、ええ。」
「おい、ブロック気を付けて。」
岡平は大きな声で、選手たちに言った。
「「「はい。」」」
選手たちが返事をする。

四天童大には、スポーツ学科にデータアナリストコースなるものがある。
この為、高校バレーでも大学生が、アナライザーとして参加している。
現在のバレーボールは情報戦となっているのだが。
同じ地区の学校であれば、情報を渡したくないのが実情だが、四天童大付属の総監督は、バレーボールを愛している。その為、対戦相手になる可能性がある平凡高校の情報収集は一切行わない。
この日も、カメラは数台設置しているが、全て自校のデータを収集する為のものだ。
「1年、カメラだが、1台だけ、相手の前衛が映るようにしろ。」
「は、はい。」
一瞬、疑問に思ったが、3年の言うことは絶対なので、そのようにした。
「こりゃあ、やられるぞ。」
岡平が呟いた通り、2セット目は25-22と負けてしまった。
「3セット目は俺が出る。」
誰も、岡平に逆らう事は出来ない。
が。
「ちょっ、先輩ずるくないです?俺も俺も。」
戸村が自分も出せと言ってきた。
「は?お前は出さないって言っただろ。」
「先輩の対角は誰がやるんです?3セット目まで落としたら?」
「たくっ、お前はどっちだ?」
「でっかい奴で。」
「小さい奴の方が打点は高いだろ?」
「そりゃあ、そうですが、そんなに強いアタックじゃあないでしょ?」
勇気のアタックは、打点が一番高い。
しかし、威力はそこまでない。
練習試合まで時間が無かった為、打点を最重視し、威力までは、練習していなかった。
「まあいいか。」
3セット目は、岡平と戸村が選手として入る事になった。
「悪いな平ちゃん。平ちゃん見てたら、疼いちゃってさ。」
「嘘言うなよ、岡ちゃん。負けたくないんだろ?」
「ああ、その通りだ。」
そう言って、岡平は、ニヤっと笑った。

ブロックには大きく分けて2種類ある。
細かく分ければ、一杯あるが。
攻めるブロックと、守るブロック。
攻めるブロックは、相手のアタックを跳ね返すブロックで、守るブロックは、繋げる為のブロックだ。
打点が高い勇気のアタックは、触れないかというとそうでもない。
ネットから離れて、ブロックに飛ぶ、そこまで威力はないので、片手でボールに触る。
それだけでボールの滞空時間は長くなるので、レシーブで拾いやすくなる。
こうやって、岡平は勇気のアタックに触っていった。
戸村も同様で、威力の強い真斗のアタックを、高く後ろに上がるようにブロックした。
四天童大付属の守りのブロックが功を奏して、25-20と四天童大が3セット目を勝利した。
「最後は大人げなかったけど、悪かったな、平ちゃん。」
「いや、楽しかったよ。」
「あ、あのう・・・。」
言いにくそうに副審をやっていた四天童大付属の1年が岡平に声を掛ける。
「どうした?」
「自分は、試合に出てません・・・。」
「あっ・・・。」
勝利するのに必死で、全員出場を忘れていた。
「ほ、他に出てないものは?」
数人が手を上げた。
「す、すまん、平ちゃん。あと1セット頼めるか?」
「ああ、構わないさ。」
4セット目は、平凡高校もメンバーを交代したので、25-17と負けてしまった。
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