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姉妹喧嘩

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「王妃様、ブラッディフッドがいらっしゃいました。」
「そう、では、ご案内して。」
「了解しました。」
兵士は頭を下げて、ブラッディフッドを呼びに行った。
「結婚式以来だな、エラ。」
「どうしましたブラッディフッド?」
「いや、何、弟子を引き取りにな。」
「弟子?ブラッディフッドに?」
「本来ならエラが弟子になる予定だったのにな。」
「その節は申し訳ありませんでした。」
この国を出て、ブラッディフッドに弟子入りする予定だったエラは、姉の命を助ける為、夢を諦めて王妃になった。
「それで、お弟子さんとは誰なのでしょうか?」
「アナスタシアだよ。」
「は?私の姉?」
「ああ、居るんだろ、ここに。」
「いや、しかし・・・。姉は娼婦を・・・。」
「あんまり娼婦と言ってやるな。アレは、ドクがマルガリータの為に作った服なんだからな。」
「ドワーフの職長が、ヴィルドンゲン国の女王様の為に?」
「ああ、そうだ。」
「では、姉は本当に冒険者に?」
「ああ。で、何処に居るんだ?」
「牢に入れております。」
「なんでまた・・・。」
「また飛び降りでもされたら、困りますので。」
「ま、まあ・・・仕方ないか。」
「姉をここへ。」
エラは、兵士に命じた。

牢から出され、ついに禿と対面させられるのかと思っていたアナスタシアだが、待っていたのはブラッディフッドだった。
「お、お師匠様~!」
ブラッディフッドへタックルをかますかのように腰に抱き着くアナスタシア。
ブラッディフッドならではこそ、自分より大きい者がタックル気味に抱き着いてきてもビクともしなかった。
「なあ、アナ。私はいつでも戻って来いと言っていたが?」
「・・・。」
「クビになったんだろ?ロビンの所を。」
「し、失礼な。お互い合わなかっただけです。」
「そうか。」
「それより聞いてください。あの女、私を禿で油ギッシュなおっさんに嫁がそうと・・・。」
そう言って、アナスタシアは妹を指さした。
「あの女って、妹だろうに・・・。」
呆れたようにブラッディフッドが言った。
「姉さん、何度も言うけどハゲール子爵は、禿ではないわ。」
「凄いなアナ。子爵夫人になるのか?」
「なりませんっ!お師匠様、聞いてください。」
「なんだ?」
「C級のロビン達とは、合わなかった私ですが、実は今、B級の冒険者とパーティーを組んでいます。」
「へえ・・・。」
「おや、信じてませんね?」
「いやいや、可愛い弟子の言うことだ。信じてるさ。」
「さすが、お師匠様!妹とは違いますね。それでですね、どうしても私に力を貸してほしいとB級冒険者が言うわけですよ。」
「ほう。」
「だから一刻も早く合流しないと。」
「誰とだ?」
「B級冒険者とです。」
「ちなみにカインとかいうB級冒険者なら私が殺ったぞ。」
「・・・。」
「何か文句でもあるのか?」
「いえ、そんな。お師匠様に文句なんてありませんよ。カイン達は何をやらかしたのですか?」
何が何だかわからないが、とりあえず理由を聞いてみた。
「ブラックオニキスを知ってるか?」
「いえ。」
「人を生贄にして作る魔石の事です。その製造は、禁忌とされていますがね。」
王妃エラが姉に説明した。
「それにカイン達が関わっていたんですか?」
「ああ、そうだ。」
「もしかして、私もその禁忌を手伝わされる所だったんでしょうか?」
「まあ、あいつらが禁忌を犯そうが私には関係ない事なんだが。事もあろうに私の弟子を生贄にしようとしやがったんでな。」
「へえ、お師匠様の弟子を。命知らずな奴らなんですね。いい感じの冒険者だと思ってたのに・・・。ん?」
「お前は魔石にされかけてたんだよ。」
「な、なんですとっ!」
「姉はずっと眠らされていたようです。」
王妃エラは、ブラッディフッドに説明した。
「まあ、寝てたら状況はわからんか。」
「お、おのれ~!カインめ、次に会う時があったら、絶対に許さない。」
全身からどす黒いオーラを放つアナスタシア。
「だから、私が殺ったと言ったろ。もうこの世には居ない。」
「むっ・・・では、この怒りは誰に・・・。」
「お前を魔石に変えようとしていたのは、魔術師協会だな。結構な額の懸賞金が掛けられていたみたいだぞ。」
「ということは、私は、カイン達によって魔術師協会に売られたので?」
「だろうな。」
「お、おのれ、魔術師協会め。ヴィルドンゲン国に行く機会があれば、グリッセンと共に滅ぼしてくれる・・・。」
どす黒いオーラを纏い、童話作家グリッセンと魔術師協会を呪った。
「まあ、関わった魔術師協会の人間も、既にこの世には居ないがな。」
「・・・。お師匠様が?」
「いや、マルガリータが処刑した。」
「・・・。」
「どうした?」
「いや、別に・・・。」
アナスタシアの見返したいランキング堂々の1位がヴィルドンゲン国女王のマルガリータだ。
ちなみに妹のエラが2位。
「姉さんマルガリータ女王様には、感謝しないと。」
「何でよっ!」
「命を救われたのに何を言ってるの?」
「くっ・・・。」
「ブラッディフッド、今まで姉を弟子にして、面倒を見て頂きありがとうございました。」
深々と頭をさげる王妃エラ。
「別に構わないさ。」
「ですが、姉は子爵夫人になりますので。ブラッディフッドにも婚礼の儀に出席して頂きたいと思います。」
「ちょっと、エラ。勝手に話を進めないでっ!」
もしアナスタシアが普通の人間であったなら、ブラッディフッドも手放しで喜んでいただろう。アナスタシアは、もう普通ではない。それは地霊ノームから聞いていた事。
「アナ、お前はどうしたい?」
「私は禿とは結婚しません。冒険者ですから。」
「そうか。アナは、こう言ってるぞ?」
「姉さんが、冒険者になりたいなんて聞いたことがないわ。何を言ってるの?」
「そうね、私は冒険者になりたかった訳じゃないの。それはあなたが言う通りよ。でもね生きていくには冒険者になるしかなかった。そして今、私は現役の冒険者よ。」
「100歩譲って、姉さんが冒険者であるとしましょう。それが結婚しない理由には、ならないわ。」
「冒険者がなんで、貴族と結婚するのよ。」
「私の母は、冒険者であり、貴族と結婚したわ。今更何を言ってるの?姉さんだって知ってるでしょ?」
「う・・・。」
完全に言い負かされたアナスタシアは、助けを求めるようにブラッディフッドの方を見た。
「じゃあ、こうしないかエラ。アナと立ち会って、勝った方の思うようにするっていうのは?」
「本気で言ってるのですか?ブラッディフッド。」
「ああ、本気だが?アナはどうだ?」
「そんな、お師匠様。私が妹を傷つけられるわけないじゃないですか?」
「ちょっと待って、姉さん。姉さんが勝つ前提なの?」
「当然でしょ?私は現役の冒険者なのよ?」
「ふざけないで、私が小さい頃から鍛錬をしていたのを一番身近で見て来たでしょ?私は王国一の武闘家なのよ?」
「武闘会と言ったって所詮は、お遊戯でしょ?冒険者とでは世界が違うわ。」
人をイラつかせたり、煽ったりするのだけは天才的だなとブラッディフッドは思った。
「い、いいわ。陛下と相談してくるから、待っていて。」

相談の結果、姉妹による王前試合が行われる事になった。
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