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王宮の展示室の休憩スペースで私はお茶をしていた。

「ねえ、アウエリア?私とエカテリーナ様では、どっちが好きかしら?」

とんでもない事を聞いてくる王妃様。

「あら?私も気になるわ?」

王妃様と逆側、私の隣に座っているお母様も身を乗り出すように聞いてきた。

なんだ、これは?
右側に虎、左側に狼とは、この事か?

「エカテリーナ様は、しょせんは義母。血の繋がりなんて一滴もないでしょ?」

「あら?血の繋がりと言っても、従妹の娘でしょ?他人みたいなものでしょう?」

バチバチバチバチっ!

こ、こわっ。
なんだ、これは?
18歳で処刑される運命が私にはあるが、まだ8年も先の事。
なに10歳で修羅場を迎えてんの?

うっそん?
えっ?
まじでっ?

「「さあ、アウエリア。はっきりして頂戴。」」

ぎゃーーーっ
夢なら醒めて欲しいっ。




がばっ・・・。

辺りは、まだ暗く私はベッドの上で起き上がった。

あっぶねえ・・・夢でよかった。

私は隣ですやすや眠るアリスを見る。
癒される~。
私の癒しゲージが上がっていく。

「まだ朝には早いわよ?ほら。」

はっ?

逆側にお母様が居た。
また、潜り込んだな。

お母様は私を寝かせて、布団を掛け直した。
そして、私は・・・。


紅茶の香りで目が覚めると既にお母様が優雅に紅茶を飲まれていた。

「アウエリア、おはよう。」

「おはようございます。」

「う・・・ん、お姉さま、おはようございます。」

私に続いてアリスも起きた。

「おはよう、アリス。」

「伯母さま、おはようございます。」

「おはよう。」

「昨晩はありがとうございます。」

「ふふふ、全然、大丈夫よ。」

昨日もお花摘みに付き合ったのか。
アリスは可愛いからなあ。

んっ?
私は気が付いてしまった。
まずいっ、これは一大事だっ!

私は、叔母様と二人で話せるように段どった。

「何?私の苦労話が聞きたいの?」

最早、私の生母の話という建前さえ隠そうとしない叔母様。

「そんな事より一大事です。」

「そんな事って何よ?どんだけ私がコンスタンス様に迷惑を被った事か。」

「今を見ましょうっ、今を。」

「で、何が一大事なの?」

「お母様が、私とアリスの交換を目論んで居ます。」

「ないないない。」

「何を呑気な事を。アリスは可愛いんですよ?」

「あんたは、自分がどれだけ溺愛されているかを自覚しなさい。」

「それは、お母様が娘を欲しがっていたからで、私よりアリスの方が可愛いじゃないですか?昨日も私のベッドに潜り込んで、アリスのお花摘みに付き添っていました。」

「まったく義姉さんは・・・。」

「ちゃんとお母様に釘をさしておいた方がいいですよ?」

「アリスは、私に似て優しい目をしているから。」

「何で急に目の話を?」

「アウエリアは吊り目でキツい系でしょ?」

そりゃあ、悪役令嬢ですから。

「私がこっちに来てから、よく聞かれるのよね。『アウエリア様の目は吊り目かしら?』って。」

「なんですかそれ?」

「派閥の人間には、ちらっと会った事はあるのでしょ?」

「そりゃあ、うちで開かれるお茶会の時に、遠目にですけど、会釈くらいは。」

「それで、目の事をよく聞かれる訳よ。」

「はあ。」

「で、派閥の人が義姉さんに言ったわけ。『お嬢様の面差しが、ますますエカテリーナ様に似てきましたね。』って。」

「はい?」

「そうしたら義姉さんの機嫌が爆上がりよ。『最近は、気性まで私に似てしまって、何をするか分ったものじゃないから目が離せなくて』なんて言って、終始笑顔だったわ。」

「・・・。」

「派閥であんたの事、悪く言える人間は皆無よ。」

どんな存在だ・・・。

「何で、気に入られたんでしょう?」

「私が聞きたいわよ。何したのあんた?」

「さ、さあ?」

お母様が私を気に入るような事をしただろうか?
一切、思い浮かばない。
やはり、目つきか?

「まあ、あんたの下らない心配事より・・・。」

そこから、私の生母の話が長々と始まったのだが、愚痴ばかりなので、内容は一切、頭に入ってこなかった。




愚痴から解放され、フラフラしていると執事長のモーゼスに呼び止められた。

「お嬢様、兵士見習のジョンが挨拶したいと。」

誰それ・・・。
犬みたいな名前は、覚えやすくていいのだけど。

モーゼスについていくと、兵士見習が待っていた。

「お嬢様、ありがとうございました。」

何でお礼?私何かした?

「ホルモン焼きとモツ煮込み、最高に美味かったです。」

ああ、大量購入だから賄いにも出るのか。

「田舎に帰ったら、自慢話になります。」

「田舎?アーマード領?」

「いえ、違うところです。」

てっきり、アーマード領へと配置換えかと思ったが。

「仕事を辞めて田舎に帰るって事?」

「まあ、そんな所です。」

「ふむ。実家から帰って来いとか言われたの?」

「いえ・・・。田舎に帰って職探しです。」

「はい?」

意味がわからない。

「この者は刃物が苦手なようで。」

ああ、刃物恐怖症か。
それで兵士は無理だろう。
見習だったって事は、木剣は大丈夫なのだろう。
では、先端恐怖症の線は消える。

「包丁も駄目なの?」

「は、はい。」

じゃあ、料理人も無理と。
ふーん。

「死ぬ気で学ぶ気があるなら、仕事を紹介してもいいけど?」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、算術は出来るのかしら?」

「簡単な物なら。」

「じゃあ、ついてきて。」

ふふふ、ついに私の派閥を動かす時が来たっ!
勝手に出来た派閥ではあるが、あるなら使ってみたくなるのが人の心情だ。

「アリス先生、生徒を連れてきたわ。」

「生徒さんですか?」

アリスは、広間でビルと二人、算盤の練習をしていた。

「そうよ、ビルと一緒に、こっちのポチも教えてちょうだい。」

「お、お嬢様・・・。」

「何?」

「ジョンです。」

おしいっ!

「では、アリス先生、私も一緒に宜しいでしょうか?」

そう言ってモーゼスが恭しく礼をした。

「はい、まかせてください。」

こうして、アリス先生による算盤教室が始まった。
私が思っている以上に、アリスの算盤は成長していた。




アリスは算盤とお絵描きを練習している。
継続は力なりと前世では子供の頃から言われる事だが、子供に言っても、まったく意味はない。
殆どの人間が、それに気が付くのは、大人になってからだ。
意味がないのに延々と同じことをしゃべりまくる校長が、何と多い事か。

私の部屋で、アリスは、私が書いたデッサンを元にお絵描きする。

「お姉さまのように、見たままを描くのが出来ません。」

「見たままを描くのは誰にもできるようになるわ。」

「そうなんですか?」

「だって、そのままを描くんだもの。誰でも出来るわよ。」

「私も?」

「ええ、いっぱい、いっぱいお絵描きしていたら、そのうち描けるようになるわ。」

「うわあ。」




翌日、私は、家令のコットンを呼び止めた。

「絵本を作りたいので一式、揃えておいて。」

「了解しました。お嬢様が作られるのですか?」

「アリスが作るのよ。」

「わかりました。」

二つ返事で引き受けてくれるコットンは、実に頼みやすい。
隣のお父様は訝しむように私を見ている。

ちゃんと言いつけは守ってますよ~。

私は目で意思を伝える。
伝わってんのかな?




絵本一式といっても、前世の書店で売っていたような物ではなく、個人が楽しむ手作り絵本だ。
一式を揃えて貰いアリスに伝える。

「お絵描きの練習で絵本を作りましょう。」

「わあ~。お姉さまが作ってくれるのですか?」

「アリスが作るのよ。」

「私が?」

「そう、世界に一つだけの絵本よ。」

「うわあ。」

「題材を決めましょう。何の絵本にしたい?」

「姫騎士がいいですっ!」

即答だった。

前世のプ〇キュア並みに人気があるな。この世界の姫騎士は・・・。
私には、まったく刺さらんかったけどな。
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