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私が部屋で、パターゴルフをしていると、シェリルが入ってきた。

てか、この人、うちで働いてるのか?
毎日居ない?

「ねえ、シェリル。毎日来てない?」

「はい、奥様と相談もありますし、今は領主様も滞在していますから。」

ふむ、理由は至極真っ当だ。

「で、私には何の用?」

私の事を金の生る木だと公言してるので、ある程度の警戒はする。

「先日、ご依頼いただいた物の試作品が出来ました。」

そう言って、シェリルが差し出したのは、木製の泡だて器だった。

「金属製は無理だった?」

「はい。」

泡立て部分は竹ひごのような物で作られていた。
まあ、仕方ない。

「リリアーヌ、厨房に行くから、ダリアを呼んできて。」

「畏まりました。」

そして、私は厨房に向かうのだが。

「何故にシェリルが、ついてくるの?」

「今から、それを使われるのですよね?」

「そうだけど。」

まあいいか。

厨房に着くと、既にダリアは、リリアーヌと共に待っていた。

「お呼びですか?お嬢様。」

「ええ、これを使ってクリームを作ってくれる?」

「何ですか、これ?」

「かき混ぜ棒の試作品よ。」

「これが?」

そう言って、試作品をマジマジと見ている。

「料理長、クリームの寝かせたものはある?」

「はい、こちらに。」

お茶会用メニュー考案の為、毎日、作られているのを私は知っていた。

「じゃあ、ダリア。試してみて。」

「判りました。」

ダリアが、氷水で冷やしているボールの中身を攪拌していく。
みるみるとクリームが出来上がってくる。

うんうん、大成功だ。

「ちょっ、ダリア。ストップ、ストップ。」

止まらないダリアを、強制的に止めた。
なんちゃってクリームは攪拌しすぎると、ボソボソになるのだ。

「すみません。我を失っていました。」

まあ、ギリ、クリームとして使えるレベルだから問題ないか。

「お嬢様、その道具は何でしょう?」

料理長が興味津々に聞いてきた。

「見た通りのかき混ぜ棒よ。」

「1つしかないのでしょうか?」

「試作品だからね。完成したら、いくつか厨房に置くようにするわ。」

「是非に、お願いします。」

社交シーズンが到来したら、クリームが、大量に必要になるのは必至。
そんな事になれば、料理長と副料理長の手首が壊れてしまう。

「シェリル。試作品を大至急用意して。」

「了解しました。いくつ必要でしょうか?」

「出来る限りよ。」

「わかりました。」

「申し訳ありません。ありがとうございます、お嬢様。」

料理長が深々と礼をした。

「お嬢様、これは食べ物ですか?」

シェリルが間抜けな質問をしてきた。

厨房で、食べ物以外が作られる訳ないだろうに・・・。

「ダリア、試食用に少し、よそってあげて。」

「畏まりました。」

ダリアが一口分を小皿に乗せて差し出した。

「これだけですか?」

少ないことに苦情を言うシェリル。

「太りますよ?」

「これだけでいいです。」

シェリルは、ダリアの忠告に素直に従った。

一口食べて固まるシェリル。

まあ、そうだろ、そうだろ。

復活すると・・・。

「お嬢様、これは売れます。お菓子の革命が起きます!」

目がお金に変わっていた。

「材料に、お金が掛かっておりますが?」

ダリアが冷静に突っ込む。

「確かに、この甘みは、庶民には無理でしょうが・・・、なら貴族社会にっ!」

「それはアーマード商会の領分ではないのでは?」

「・・・。」

リリアーヌの冷静な突っ込みに、シェリルは押し黙った。

貴族社会に広めるのは、お母様の領分だ。
広めるというよりも、ピザート家の権威を示すと言った方がいいのか?
まあ、私にお茶会は無関係だから、別にいいか。

「このクリームというのを作るために、この器具が必要なのですね。」

「無くても作れるけど、その場合は、料理長と副料理長の負担が大きすぎるのよ。」

「了解しました。直ぐに戻って、試作品の作成にとりかからせます。」

そう言って、出来る女風を気取って、シェリルは戻っていった。

「料理長、これは、預けておきますので、料理長と副料理長で管理してください。」

ダリアが、そう言って、かき混ぜ棒を料理長に渡した。

「かなり助かる。ありがとう。」

料理長は、ダリアに感謝していた。

「お嬢様、申し訳ありません。私の為に作って頂いたのに。」

「いいのよ、ダリア。まだ試作品だしね。正式に出来れば、ダリア用をプレゼントするわ。」

「ありがとうございます。」

「私も何か欲しいです。」

意味の分からない事をリリアーヌが言い出した。

「あんたも、かき混ぜ棒が欲しいの?」

「別の物をお願いします。」

「却下よ。」

「なっ・・・。」

「ブローチを貰っときながら、浅ましい。」

ダリアがリリアーヌに突っ込んだ。

「これは、お嬢様専属の証です。」

どや顔のリリアーヌ。
もう、ほっとこう。




社交シーズンがやってきた。
アーマード伯爵夫人が当家に、滞在する。
と言っても、宿泊するのは別の館だ。
ピザート家には、同派閥家の館がいくつもある。
ただ、アーマード家は、お父様の出身家であるので、食事の時は、私たちと一緒にとる。

「あなたがアウエリアね。ユリアナ・イデ・アーマードよ。宜しくね。」

挨拶からわかる通り、叔母さまは、サバサバ系女子だった。

「初めまして、アウエリア・ピザートです。」

「あなたが居て助かったわ。アリスを連れてこられないところだったわ。」

「はい?」

「ほら、アリス。ちゃんと挨拶しなさい。」

アリス?

叔母さまの後ろから可愛らしい少女が現れた。

ズッキューンっ!

私のハートに矢が突き刺さる。

何っ?えっ?
天使?天使が現れた。

見たところ、5、6歳というところだろうか、小さなお人形さんだ。
可愛い過ぎるっ!

「アリス・イデ・アーマードです。」

ぐはっ、鼻血出るわっ!

「ようやく、会えたわね、アリス。エカテリーナ・ピザートよ。宜しくね。」

「はい、伯母さま。」

「ユリアナは、意地悪よね。いつまで経っても連れて来ないんだから。」

「連れて来られる訳ないでしょっ。」

「まあ、酷い。そう思わない?アウエリア。」

「あの何で私が居て、良かったんですか?」

面倒を見ろと?見るよ。はい、喜んでっ!

「あなたが居れば、アリスを養女になんて話も無くなるでしょ?」

ああ、なるほど、なるほど。
ん?
養女?という事は・・・私の妹に?

「お母様、私、妹が欲しい。」

「まあ、それはいい案ね。」

「義姉さん、冗談でも、そんな事は言わないでっ!」

「あら、本気だけど?」

「余計、たちが悪いわっ!アウエリアも余計な事は言わないで。」

お、おうっ・・・、初対面で怒られました。

「私は、義姉さんと話があるから、アウエリアは、アリスの面倒を見て頂戴。」

「はい。(喜んでっ!)」

「アリス、私の部屋に行きましょう。」

「はい。」

うはっ、かわええ・・・。

アリスの手を取り、私の部屋へ。

あれ?
通常、私が歩くと誰かが付いてくる。
リリアーヌだけでなく、他にも数人。
しかし、アリスに付き従う者が居ない。

「アリスは、お付きの人は居ないの?」

「はい。皆、アーマード領に居ます。」

「そうなんだ。あれ?じゃあ屋敷ではどうするの?」

「お母さまのお付きの人が居ますから。」

「でも、夜は?寝る時は別よね?」

「はい・・・。」

シュンっとなるアリス。

貴族は、母娘で一緒に寝る事はない。
ピザート家は、別だけど・・・。

妹をシュンっとさせた責任を取らねば。

「じゃあ、王都に滞在中は、私の部屋に泊まる?」

「えっ?いいんですか?お姉さま。」

ぶはっ!
お姉さま頂きました。

「全然、問題ないわ。私の部屋広いし。」

「うわあ。でもお母さまに言わないと。」

「叔母様には私から言うから、大丈夫よ。」

うん、私、サバサバ系の人は苦手じゃないんだよね。


「うわっ、広い、広い。本当に広い。」

私の部屋に着くとアリスは大はしゃぎした。

やっぱあれか、貴族令嬢が見ても私の部屋、広いんだね・・・。
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