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「ふう・・・。」

大物を仕留めてやった。
中々、手古摺らせおって。
宝物庫にあるものと違い、展示室のアクセサリーは、自由度が半端ない。
身に着ける物ではなく、見せる為だけの物として作られているんだろう。
デザインの一部分を参考にするくらいしか、出来ないなこれ。
完璧にデッサンし終わった後に、そんな事を思っても、後の祭りだ。

「お嬢様、そろそろ昼食に致しませんか?」

ダリアが頃合いをみて話しかけてきた。

「そうね。」

私とダリアは、あのギスギスした空間に戻る。

「王妃様、申し訳ありませんが、私と娘は、軽食を取らさせていただきます。」

娘を殊更、強調するお母様。

側仕えのダリアからは言い出せないので、ここは私が。

「王妃様、もし宜しければ、王妃様の分もございます。」

私が、そう言うと、お母様の方から強い視線が感じられる。
怖いから、そっちの方は見ない。

「まあ、私の分まで。」

喜ぶ王妃様。

「当家の軽食ですし、王族の方には、お口に合わないかと?」

刺々しくお母様が言う。

「ご心配なく、私は嫁入りした身ですし、生粋の王族ではありません。エカテリーナ様は、よくご存じのはずでは?」

「・・・。」

駄目だ、この二人が相容れる事なんてない。
生まれながらの天敵という言葉が、よく似あう。


「はあ。とても美味しいわ。さすが、ダリアね。」

王妃様がそうダリアに話しかけた。

「ありがとうございます。」

ダリアが恭しく礼をする。

ふむ、王妃様はダリアの事を知ってるんだ。
当家でお茶会等を取り仕切るのは、ダリアだけど、そもそも王妃様は、もちろん王妃様派閥の人は、来てないし、どういう知り合いなんだろ?

「何度かダリアを私の側仕えにと打診はしたんだけど、いい返事は貰えなかったわ。」

王妃様が、とんでもない事を言いおった。
いや、駄目でしょ。
天敵から引き抜こうなんて・・・。

「申し訳ありません。私は、ピザート家で、自由にさせて頂いておりますので。」

ダリアが申し訳なさそうに答えた。

「他家の側仕えを引き抜こうなんて、とても王族のなさる事ではありませんわ。」

静かに食事していた、お母様がズバッと攻撃した。

「あら?でも王宮で働ける事は、励みになるんじゃないかしら?」

真っ向勝負に出た王妃様。

駄目だ、この二人。水と油だ・・・。

その後もギスギスした状況は続いたが、私は、再びデッサンに赴いたので、難を逃れた。

帰り際、お母様が手を差し出したので、手を繋いだまま展示室を後にしたのだけど。
背後から突き刺さるような視線を感じて、私は、怖くて後ろを振り向けなかった。

その晩、当然のようにというか、私はお母様の部屋で寝る事になった。

この際、思い切って聞いてみよう。

「何故、お母様は、王妃様と対立してるのですか?」

「そうねえ、元々反りは合わなかったのよ。向こうが2つ上には、なるのだけども。でもね、相手は王妃様でしょ?私もさすがにねぇ。今の公爵夫人に間を取り持って貰って、恭順の意を示そうと頭を下げに行ったのよ。」

「お母様が?」

「ええ。あの女が、王太子妃になった時だったわ。」

まさかの衝撃的な事実が・・・。
で、何でここまで、拗れてるのか。
何となく嫌な予感が・・・。

「そしたらね。あの女、何て言ったと思う?」

「え、えっと・・・。」

「「あら、エカテリーナ様は、その程度でしたのね。その辺のつまらない令嬢と変わりませんのね。がっかりだわ」って言ったのよ。どう思う?」

そう言って、お母様は、仰向けになっている私を食い入るように覗き込んだ。

王妃様・・・、何でそんな事を・・・。
何となくは理由が分かる気はするけども。

「お母様は悪くないと思います。」

「まあ、アウエリアは私の味方になってくれるのね。嬉しいわ。」

味方になるとは言ってないのだが、このままにしておこう。

しかし、あれだ。
もう、どうしようもないね。
私は、それ以上、考える事無く静かに眠った。
くぅ~。




朝、紅茶の香りに目覚めるとお母様の部屋だった。
リリアーヌの姿はなく、紅茶をいれてくれたのは、エルミナだった。

「おはようございます。」

お母様に丁寧にあいさつした後、エルミナにも朝の挨拶をした。

「お嬢様が起きるかで、紅茶をいれる腕がわかりますね。」

「そうかな?」

「紅茶の香りを部屋中に蔓延させるには、ちゃんとしたいれかたじゃないと無理ですから。」

ふむ、確かに私がいれた時も、上手く出来た時は、香りが強いし、そうなのかもしれない。

「じゃあ、アウエリアを起こせるのは、エヴァーノを除けば3人だけという事ね。」

「そうなりますね。」

お母様の問いに、エルミナが恭しく答えた。
ちなみに、家令や執事長も紅茶をいれることが出来るのだが、貴族社会では、嫁入り前の令嬢の部屋に男性は、入れない。
という事は、私を起こせるのは女性だけという事になる。

私は、ゆっくりと紅茶を楽しんで、お目目を覚醒させた。

朝食後、お父様と話す機会があったので、時間割についての要望を伝えた。
習い事が多すぎるっ!

「算術の先生から、アウエリアには、もう教える事が無いと言われたから、それを減らそうか。」

よっし!

「ついでに、歴史とか礼儀作法も減らして頂けると?」

ここは一気に畳みかけないと。

「それは、アウエリアの頑張り次第だね。」

「・・・。」

正論で返された。

貴族の歴史は、本当にめんどくさい。
横文字というか、長い名前のオンパレードだ。
各家々の歴史や、貴族の名前を覚える為に、歴史の授業は、前世の日本よりも重要視されている。
そういやあ、前世の歴史って選択科目だったよね・・・。
この世界の貴族にとっては、必須科目。
くっ・・・。

まあいい、算術の授業は減ったのだから、喜ばしい事だ。

そして午前の授業を・・・。
減った?減ってる?

側仕え達の休憩時間中、今日も今日とて3人が私の部屋に。

「では、第8回お嬢様連絡会を行います。」

ダリアが言った。

というか何だそれ?
私の部屋で何やってんの?
しかも、第8回って数字が生々しい。
本当にやってそうだ。

「先日、お嬢様が、王妃様の縁戚という事がわかりました。」

「「はっ?」」

リリアーヌとエルミナが素っ頓狂な声をあげた。

「奥様はご存じなのですか?」

エルミナが聞いた。

「知っているから、お嬢様に付き添ったのでは?」

リリアーヌが言った。

ひとの部屋で、私の連絡会とかマジやめてくれない?
私は渋々と自分でいれた紅茶を飲む。

「以前、お嬢様が王妃様とお茶をしているとクロエに言われました。そう言う事だったんですね。」

「王妃様は、どの程度、お嬢様に執着を?」

エルミナが聞いた。

「お嬢様を見る瞳は、愛娘を見ているようでした。」

「「・・・。」」

ダリアの言葉に二人が、絶句した。




それから、算術の授業が減った感が一切なく時は過ぎていった。
王妃様と禁断の宝物庫でデッサンをした後、王妃様の部屋で。

「昔、お母様が王妃様に恭順の意を示したことがあったと聞きました。」

「随分と懐かしい話ね。」

「どうして、こんなに拗れているんでしょう?」

「だって、つまらないでしょ?誰もが私の派閥だったら、張り合いがないもの。」

うん、そんな事だと思った。

「でもね。今は後悔しているのよ?」

おっ、これは修復の可能性が?

「まさか、コンスタンスの娘をとられる事になるなんて、当時は思いもしなかったわ。今から謝ったら返してくれるかしら?」

そんな事をしたら、火に油を注ぐ事になる。
うん、聞かなかった事にしよう。

「アウエリア、デッサンが終わった後も、遊びに来てね。」

「はい。」

毎週、王宮に通うようにお父様に言われている。お母様は猛反対しているが・・・。
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