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「それよりもアウエリア、明日は王宮の展示室へ行くんだから、準備はしておいてくれ。」

準備と言われても、画板と用紙と筆記用具くらいだ。

「旦那様、お嬢様の昼食はいかがなさいますか?」

リリアーヌが聞いた。

「それは、私の方で用意するから問題ないよ。明日は、私と一緒に王宮へ行こう。リリアーヌは屋敷に居てくれていいよ。」

「いえ、私も共に王宮へ行きます。」

「そうは言っても、展示室には入れないよ?」

「控えの間でお待ちしております。」

「わかった。当初はコットンにでも、頼もうかとも考えていたんだが、コットンも仕事があるからねえ。」

コットンは、当家の家令であり、準男爵の爵位を持っている。
普段は、お父様と王宮へ行き、宰相の補佐をしている。

「あなた、コットンは、アウエリアに接近禁止にしているでしょう?」

お母様が指摘した。

「ああ、そうだったね。」

コットンは、私に接近禁止となっている。
まあ、私のせいなんだが・・・。




「困った事があったら、何でも言って下さい。私が力になります。」

私が屋敷に来て間もない頃、家令のコットンは、そう言ってくれた。
お父様と同年代の優し気な男性だ。

という事で、私はさっそくコットンを頼ってしまった。脳筋を排除するべく・・・。

結果は、大事に発展した挙句、何も変わらず仕舞という最悪のものに。

王宮騎士団を巻き込み、終いには、陛下まで巻き込んでの大騒動。
お父様が方々に頭を下げて終息した。
その結果、コットンは、私への接近禁止。私はコットンを頼らない事を約束させられた。

うーん、苦い思い出だ。

翌日、馬車で王宮へ。
私とお父様は、貴族用の馬車で、今日はリリアーヌも行くので、使用人用の馬車も王宮へ向かう。
準男爵であるコットンは、私への接近禁止命令の為、リリアーヌと同じ使用人用の馬車で、王宮へ向かった。

私は、お父様と二人展示室へ。
展示室の前には、兵士が二人立っていた。

イミテーションなのにご苦労様です。

「昼には、迎えが来るからね。そっちで昼食をとるといい。」

「はい。」

私は素直に返事した。

展示室に入り、私に簡単な説明をして、お父様はお仕事へ向かった。

さて、何処から手を付けよう。
折り畳み式の軽い椅子を貸し出して貰っているので、どこからでも、とっかかり可能だ。

とりあえずは、簡単そうなネックレスを。

ふむふむ。
軽くデッサンをするわけだが。
手慣れているな、私。

うーん・・・、美術部だったような?
部長だったような?
そんな気がする。
曖昧だけど。

とりあえず、軽く2つをデッサンした。

よしっ!
大物をしとめるかっ!

私が3つ目に選んだのは、胸飾りかという様な豪奢なネックレス。
手応えがありそうだ。

カリカリカリ・・・。

カリカリカリ・・・。

私はデッサンに没頭した。




「ふう・・・。」

仕留めてやった!
かなりの時間を要したが、何とか終了した。

ふと視線を感じる。

何だろう?

振り返ると私の方を見ている一団が居た。

豪奢な衣服に身を包んだ女性。
お母様と同世代くらい。

それを取り巻く3人の側仕え。

休憩スペースのような場所に、座り、紅茶を飲みながら、こちらを見ていた。

「・・・。」

絶句した。
絶句する以外、どうしろと?

ここは展示室。
貴族以外、入れない。

が、例外はある。

王宮は、王族の住まいであり、王族の側仕えなら、貴族でなくとも、ここに入る事が出来る。

つまり、紅茶を優雅に飲んでいるお方は、あのお方だ。
お母様が、あの女と呼んでいる・・・。

お母様の娘が、展示室に来ているということで、見に来たのだろうか?

えっ?めっちゃピンチじゃない?
粗相をしたら、18歳を待つまでもなく終わってしまいそうな・・・。

私は、おどおどしながら、私を見ていた一団に近づいた。
そして、丁寧に挨拶をする。

「お初にお目にかかります。アウエリア・ピザートと申します。本日は、こちらにアクセサリーのデッサンに参りました。」

そうやって、頭を下げた。
もちろん、ずっと下げたままだ。

「聞いています。顔を上げてアウエリア。」

私は、ゆっくりと頭を上げた。

「こちらへどうぞ。」

側仕えの人が椅子を引いてくれた。

が・・・。
ここで、座っていいの?
えっ?

戸惑いはしたが、座れというなら座るしかない。

ここは敵地か?
ある意味、敵地な気がする。

「ちゃんとデッサンは出来ている?」

「は、はい。3つほど。」

「見せて貰えるかしら?」

もちろん、断る事なんて出来ない。

例え、貶される事が、解っていてもだ。

「クロエ、どうかしら?」

そう言って、側仕えの人に見せる。

「素晴らしい出来栄えかと。とても10歳が描いたとは思えません。」

側仕えの人は、絶賛してくれた。
まあ、敵陣とはいえ、私は一応貴族だし。

しかし、王妃様は、そうはいかないだろう。
私は、王妃様の敵の娘だ。
そこには、養女とか血の繋がりは関係ない。

「とても素晴らしいわ。アウエリア。」

あ、あれ?

「王妃様、そろそろ昼食のお時間かと。」

「あら、そうね。では行きましょう、アウエリア。」

はい?

何故に私が?
え?
有無を言わさず王宮の中を連れていかれる。
何処へ?

お昼はお父様が用意してくれているんでは?


??
???

ま、まさか、お父様っ!謀られた?えっ?
私に王妃様とお母様の緩衝材になれと?

無理無理無理無理無理っ!
そんなん禿げてまうっ!
貴族令嬢なのに禿げてまうぅぅぅぅ・・・。

気づけば、豪奢な部屋へと案内された。
壁には大きな絵が3枚。

恐らく王妃様と思われる女性の絵が1枚。
王妃様ともう一人女性が描かれている絵が2枚。

うーん、基本自画像がある部屋は、その人の部屋ってのが多いみたいだ。
というのも、貴族の部屋なんて、自分の部屋とお母様の部屋しか見た事が無い。
お母様の部屋には、もちろんお母様の自画像が飾ってあった。

ここは王妃様の部屋?
で、一緒に描かれている女性は誰?

頭に?を浮かべながら、私は絵を見つめていた。

「アウエリアは、絵が気になるのかしら?」

「は、はい。」

「それは私とコンスタンスの絵よ。」

コンスタンス?はて?
何処かで聞いたような?

「私の妹よ。」

王妃様の妹かあ。
面差しも柔らかく美人さんだ。

「といっても、従妹なのだけど、本当の妹のように思っていたわ。」

過去形だ。
という事は、亡くなったのだろうか?
それとも、まさかの王妃様の従妹がお母様だった、なんてドラマのような展開はないない。
そもそも、お母様の名前は、エカテリーナだし、お母様の面差しは優しくない。
私と同じキツネ目で、私が言うのもなんだが、悪役貴婦人の中の女王の様な面差しだ。

「あなたの母親よ。」

「いえ、私のお母様の名前はエカテリーナですよ?」

ちょうど考えてたことを言われたので、私は即答した。

「あら、生母の名前は忘れちゃったのかしら?」

「生母???」

生母=実母・・・。
私の実母は、コンスタンス。

私を産んで直ぐに亡くなってしまったので、私は知らない。更には、フォールド家で、私の母の話をするものは皆無。
実父とは、会話すらなかったので、私が実母の事を知る機会はない。

という事は、この人が私の生母。

私は、ジーっと絵画の絵を見つめていた。

暫くの時間が経過した。
気を使ってもらったのか、誰も私に声を掛けなかった。

「す、すみません。」

私は頭を下げて、謝った。

「問題ないわ。お昼にしましょう。」

王妃様に、言われ、私は王妃様の部屋で昼食をとることになった。

ん?( ,,`・ω・´)ンンン?

王妃様が妹のように可愛がっていた従妹が、私の実母?
あれ?
私と王妃様は縁戚関係者?

何それ・・・。
もしかしなくても、私、最強のカードを手に入れた?

回避だ、回避!!
王妃様の縁戚にある私が、処刑になるはずがないっ!

ふっ、勝ったな。

私は、内心でほくそ笑んだ。
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