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「クロヒメは、向こうの馬たちと違って、これじゃないとブラッシング嫌がるから。」

そう言って、私は、クロヒメ専用のブラシを見せた。

「まずは顔をブラッシングしてみるわね。」

私がいつものようにブラッシングをしようとすると、まるでイヤイヤと言わんばかりに首を振るクロヒメ。

「え?何?嫌なの?」

「お、お嬢様~っ。」

遠くから私を呼ぶ声がする。
厩番の人だ。
クロヒメに近寄れないから、ちょっと離れたところに立っていたのだが。

「何?」

「先日、スザンヌさんが来まして。」

「誰それ・・・。」

「馬具屋のお姉さんの事かと。」

リリアーヌが答えてくれた。

「そのブラシが置いてあった隣にフェイス用ブラシがあります。」

「え?」

私はフェイス用ブラシを手に取った。

「や、やわらかっ!」

クロヒメ用のブラシだって、他のに比べたら柔らかいのだが、このフェイス用ブラシは、それよりも更に柔らかかった。

「お嬢様、触らせてもらっても?」

リリアーヌがそう言ったので、フェイス用ブラシを渡した。

「これは随分と柔らかいですね。」

そう言って、柔らかさを確認した後、フェイス用ブラシを私に戻した。

「これならいいの?」

私はクロヒメに聞いた。
軽く首を縦に振る。

それならと、私はブラッシングを始めた。
フェイス用ブラシで顔をブラッシングすると、何というか、クロヒメの目が気持ち良さそうに見えた。
てか、フェイス用ブラシまで・・・あんた本当、何様よ。
私は呆れるしかなかった。

ブレンダには一通りブラッシングを教える事が出来た。

「本当に凄い毛並みですね。艶があって。」

そう言われれば、そうかも。
ただの黒だけでなく、凄く艶がある。

「クロヒメは、ダリアやエヴァーノの所へ行って、角砂糖や果物をよく貰っています。」

リリアーヌが言った。

「角砂糖?馬に角砂糖やってもいいの?」

「遠出をした時なんかには、他の馬にもやっていますので、問題ないかと。」

「そ、そうなんだ・・・。あんた我が物顔よね、クロヒメ。」

とんだお姫様だ・・・。

「馬は背後に立つと蹴られる可能性がありますので、立ち位置には注意してください。」

リリアーヌが、ブレンダに言った。

暫くすると下働きのアンがやってきた。
アンにブレンダを紹介し、使用人の屋敷を案内するようお願いした。

◇◇◇

新しくメルディに作ってもらった貴族っぽい服。
はっきり言って窮屈だ。
窮屈ではあるが、今までの貴族服に比べたら100倍マシと言えた。
そんな服に身を包み、私はレントン商会へと出向く。

屋敷を出ると兵士の人とクロヒメが待っていた。
兵士の人は男性の為、クロヒメとは離れて立っていた。

「歩きよね?」

私は、リリアーヌに確認した。

「はい、クロヒメは、ただ散歩しているだけかと。」

「自由よね、あんたは、まったく。」

私は、そう言いながら、クロヒメの頬を優しく撫でた。

「クロヒメが居ると離れの厩舎の掃除が出来ませんので、散歩も必要と思います。」

リリアーヌが説明してくれた。

「なるほどね。」

ピザート家の門を出ようとすると、クロヒメまで出ようとした。

「いや、駄目でしょう。厩舎へ帰りなさい。」

帰りそうにない。
困っていた所、ブレンダがクロヒメを迎えに来てくれた。


「クロヒメはお嬢様が大好きなんですね。」

道すがら兵士な人が言ってきた。

「そうなのかしら?」

「ええ、間違いないですよ。俺たちは、出来るだけ近寄らないようにしてましたし。」

まあ、あそこまで慣れてくれたなら、私も落馬をした甲斐があったというもんだ。
私たち3人は、歩きで貴族街の門へと向かった。

何故歩きかって?ダイエットの為に決まってるじゃんっ!

門の所で、門番が私を三度見した。

「なあ、リリアーヌ。あれがお嬢様か?」

門番がリリアーヌに聞いていた。

「はい。何か?」

「お前の妹じゃね?」

「何処をどう見ても貴族令嬢でしょう?」

「そ、そうだが・・・。」

結局、門番の人は、リリアーヌに押し切られた。

貴族街の門には、貴族側の門番と、平民街側の門番が存在する。
貴族街から外へ出る時は、平民側の門番には、用はない。
平民側の門番は、何やら怪しげな人と話をしていた。

なんというか、あれだ。
世紀末にゴキブリの様に溢れ出すヒャッハーなモヒカン達。それを率いるボスが居た。

おい、門番。そんなヒャッハーなボスと話なんかしていて大丈夫か?えっ?
私は酷く心配になったのだが。

その門番がヒャッハーなボスを引き連れ、私たちの元へとやってきた。

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