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貴族街を出る時は、門を使う。
私が一人で出た時も、もちろん門を使った。
ピザート家の下働きだと言えば、出るのは簡単だった。
出た記録さえあれば、入るのも簡単で。
そうやって私は、一人で教会へ行って帰ることが出来た。

しかし、今日は揉め事が起こった。

「お嬢様があなたの妹とはどういうことですかっ!」

ダリアが、リリアーヌに文句を言っていた。

「お、お嬢様?」

門の兵士が、不審の声をあげる。

「気のせいです。」

リリアーヌが門番に告げた。

気のせいで通るのか?

門番はリリアーヌの気迫に負けたのか、聞いてないふりをした。

おいっ、いいのか門番がそれでっ!

なんとか、いつも通り貴族街を出ることは出来たが。

「あなたが余計なことを言うから、怪しまれたではありませんか。」

リリアーヌがダリアに苦言を呈した。

「私のせいですか?お嬢様を平民と偽るなんて。」

「今の格好のお嬢様を貴族と誰が信じるのですか?」

「・・・。」

ダリアは私の方を見て何も言えなくなったようだ。

「私も最初に下働きって事で貴族街を出たから、今更よね。」

「「「・・・。」」」

サントンを含め3人とも何も言えなかったようだ。

教会へ着くと、サントンは神父さんに挨拶だけして孤児院へ向かった。

って、サントン。既に私より常連じゃね?

「神父さん、聞きたいことが。」

「なんだろうね?」

「お手伝いに来てる女性の事なんですが。」

「ああ、心配せずとも独身じゃよ。」

「チっ!」

リリアーヌの舌打ちは、誰にでも聞こえるような大きな音だった。

「サントンも態々、休みの日にまで来てくれて、助かっておるよ。」

神父さんは、リリアーヌの舌打ちを気にする事もなく、そう言ってくれた。

「あとお願いがあるのですが。」

「ふむ、他ならぬアウエリアお嬢様のお願いじゃ。わしに出来ることがあるなら聞こう。」

「女性の厩番を探していまして。」

「女性の?」

「私の馬が、男性嫌いでして。」

「気難しい馬のようだのう。」

「動物好きの女性は居ませんかね?」

「ふむ、宰相家で働くとなれば、厩番とて信用のおける者でないとダメじゃろうなあ。」

「衣食住完備です。」

仕事着、食事、住む場所まで完備と、これ程、条件のいい職場は、そうはないだろう。

「わかった。一応聞いてみておこう。」

「お願いします。」

その日、孤児院の子供たちは、野菜チップスに大いに盛り上がった。
野菜嫌いの子供たちも居るのだが、それを気にせずに口いっぱいに頬張ってた。

ふっ、所詮子供ね。
・・・、うん、私も子供だけど・・・。

ダリアは、そんな子供たちの様子を、微笑みながら見つめていた。
と言っても、普通の人が見たんじゃあ微笑んでるかは判らないレベルだけどね。




翌日、いつものテラスで、ダリアとお菓子を楽しんでいるとクロヒメが来た。
うん、何を言っているか判らないだろう。
私も困惑するくらいだ。

使用人が休憩に使うテラスだから、外にある。
テラスだからね。
そこへ、クロヒメが、トコトコ歩いて来たわけだが。

いや、あんた、厩舎を抜け出したのか?えっ?

そこに居るのが当たり前のように立って、こちらを見つめている。

「どういう事かしら?」

私は、後ろに立っているリリアーヌに聞いてみた。

「恐らく、厩舎を抜け出したのかと。」

「勝手に抜け出せるものなの?」

「万が一の時に、怪我をしないよう抜け出すのは簡単です。」

ああ、暴れたりしたら、怪我しそうだものね。
だからって、勝手に出歩いたりしちゃ駄目でしょ?

「クロヒメ、厩舎に戻りなさい。」

ダメもとで言ってみたが、動こうとしない。

「どうしたものかしら・・・。」

「お嬢様、私に考えがあります。少々お待ちくださいね。」

そう言って、ダリアは何処かへ行ってしまった。

ボウルを持って戻ってきたダリアは、徐にクロヒメに近づいて行った。
ボウルを口元に持って行くと、クロヒメはペロペロと舐めだした。

「何をあげてるの?」

「蜂蜜です。」

「えっ?大丈夫なのそれ?」

「ええ、馬の好物ですよ。」

マジで?本当に?やっていいの?
くっ、ググれないのが辛い。
たまに、ついスマホを探してしまうのは、前世の悪い癖だ。

クロヒメは満足そうにしていた。
なるほど、お前も甘いものが欲しかったのね。

その後、3人で厩舎へと向かい、ついでなので、ダリアにブラッシングの方法を教えた。
女性しか、触らせないので、出来る人は一人でも多い方がいいだろう。

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