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「うーん、ん?」
マーガレットはガタンゴトンという振動で目を覚ました。
「ここはど……え!?」
夢見心地で体を起こした彼女は目をこすりながら、状況判断しようとしたがその前に気になることがあった。彼女は裸だったのだ。そして、目の前にはタオルを持ったメイド服の女性。このような状況は予想の斜め上だったのか驚きのあまり声を荒げてしまった。
「起きたのですね、おはようございます」
「お、おはようございます?え、えっと、今何をされて?」
「あなたの体を拭いているところでした。随分と濡れていてこのままでは風邪をひいてしまうと思い」
「あ、そうなのですね。ありがとうございます」
「ところで、綺麗な体していますね」
「あ、あまりジロジロと見ないでください!」
マーガレットは自身の体が人に見られていることを恥じて掛けられていた布で隠した。
「ちょっと待ってください。今、服を準備しますので」
「ありがとうございます」
そう言って一人のメイドはバックをガサゴソ漁り、そこから服を取り出した。その服は良くていいところの農村の娘が来ているようなもので、貴族である彼女にとって初めて着るものであった。これをスッと出したメイドはマーガレットが貴族であるということに気がついていない様子だった。ただ、それで良いのかもしれない。すでに彼女は家を追い出されたわけで貴族として接されることを望んでいるわけではない。
「それで、私は誰に助けられたのでしょうか?」
「ウィリアム・ジョンソン公爵です」
「公爵って、あの公爵ですか?」
「ええ、あの国でもっと偉いとされている公爵です」
「そうなのですか」
彼女は彼を知っている。彼は確かに優しく、道端で雨宿りをしている人を見かけたらきっと手を差し伸べてくれるだろう。気がつけば馬車に乗っていると言うことも納得できた。
「あ、もうそろそろで公爵の屋敷に着きます。着いたら、お風呂準備しますので入りましょう」
「良いのですか?」
「ええ。それに公爵様もそれを望んでいるでしょうから」
「ありがとうございます」
鬱蒼とした森を抜けてすぐに、大きな街が見える。ここが公爵の領地であり、その街の一番見えやすい位置にある大きな建物は言わずもがな公爵の家なのだろう。
その大きな建物に近づくにつれて馬車のスピードも緩やかになり、そのスピードは速くなることなく、幾分かして完全に止まった。
「では、行きましょうか。お風呂はすぐに準備できると思いますので」
「ありがとうございます」
馬車が止まったのと同時に、メイドたちは慣れた手つきで降りる。マーガレットはメイドの手を借りてゆっくりと降り、すぐにメイドに連れられて、屋敷の中へと入った。
「服はメイド服でも良いでしょうか?それしかないので」
「はい、構いませんよ」
「なら、良かったです。先にシャワーでも浴びていてください。頃合いを見て大丈夫そうでしたら、そのまま浴槽に浸かっても構いません」
「ありがとうございます」
「いえ。では、着替えを用意してきますのでごゆっくりどうぞ」
急ぎ足のメイドに連れてこられたのはメイド用の大浴場であった。まだ完全には浴槽が温まりきっていないせいか、まだ誰もいない完全貸切状態の浴場に一人ポツンと体にお湯をかけたり、体を洗って綺麗にしたりした。少し時間が経ってお風呂の温度を確かめる。
「熱い!」
冷え切っていた体は随分と温かくなっているというのについ声が出てしまうほどお湯は熱かった。ここでは熱いお湯を好んでいるのかそれとも前いた場所が冷たすぎたのか分からないが、彼女は文句を言うわけにもいかず、ゆっくりと体を湯船に浸からせた。
「ふぅー。ん?」
なんとかお湯の温度にも慣れた頃、脱衣所が段々と騒がしくなるのを感じ取った。どうやら、他のメイドたちもお風呂に入ろうとしているようだった。
「誰か一人、先に入っているようでしたが。あら」
一番最初に入ってきたメイドがそう言い、マーガレットを視認すると不思議そうな表情をした体を濡らす、洗うという一連の動作を行なった後、その彼女は湯船に浸かっていたマーガレットのすぐ傍にわざわざやってきた。
「見ない顔ですね。新人の方ですか?」
「ええ、まあ」
詮索するように聞いてきて笑う彼女が怖い。目線を逸らしながらマーガレットは答えた。本当は助けてもらった貴族と言うべきところなのだろうが、彼女の笑みに萎縮して咄嗟に嘘をついてしまった。
「そうなのですか。私はここのメイド長のユーベルと申します。今日の業務内容はすでに聞いていますか?」
「いえ、まだ何も知らされていません」
「そうですか。まぁ、新人ですから仕方がないですよね。今日、配属になったのですか?」
「はい、そうです」
「では、お風呂上がりに私が業務内容を教えてあげます」
「ええ、ありがとうございます」
その話があった後すぐに彼女はお風呂から出た。随分と長いこと慣れない熱いお湯に浸かっていたせいか、だいぶ茹だってしまった。用意されていたメイド服に着替え、メイド長の上がりを待つことにした。
少し経ち、続々とメイドたちが戻ってくる中、メイド長であるユーベルだけが、上がってこなかった。
「どうされたのですか?」
最後の一人が外に出ようとした時、ずっと椅子に座っていたマーガレットを気にかけてくれたのか声をかけてくれた。
「ユーベルさんを待っているのですが」
「あー。メイド長ですか。あの人はいつも長風呂なんです。きっと三十分しても帰ってきませんよ。何か、メイド長と話があるのですか?」
「ええ、そうです」
「では、少し私たちの部屋で待ちませんか?メモを置いておけば、上がった時に気がついて来るでしょうし」
「いいのですか?」
「ええ、構いません。では、ついて来てください」
「あ、はい」
ユーベルは随分と風呂は好きなようで、この待ち時間は他のメイドの部屋で待つことにした。
マーガレットはガタンゴトンという振動で目を覚ました。
「ここはど……え!?」
夢見心地で体を起こした彼女は目をこすりながら、状況判断しようとしたがその前に気になることがあった。彼女は裸だったのだ。そして、目の前にはタオルを持ったメイド服の女性。このような状況は予想の斜め上だったのか驚きのあまり声を荒げてしまった。
「起きたのですね、おはようございます」
「お、おはようございます?え、えっと、今何をされて?」
「あなたの体を拭いているところでした。随分と濡れていてこのままでは風邪をひいてしまうと思い」
「あ、そうなのですね。ありがとうございます」
「ところで、綺麗な体していますね」
「あ、あまりジロジロと見ないでください!」
マーガレットは自身の体が人に見られていることを恥じて掛けられていた布で隠した。
「ちょっと待ってください。今、服を準備しますので」
「ありがとうございます」
そう言って一人のメイドはバックをガサゴソ漁り、そこから服を取り出した。その服は良くていいところの農村の娘が来ているようなもので、貴族である彼女にとって初めて着るものであった。これをスッと出したメイドはマーガレットが貴族であるということに気がついていない様子だった。ただ、それで良いのかもしれない。すでに彼女は家を追い出されたわけで貴族として接されることを望んでいるわけではない。
「それで、私は誰に助けられたのでしょうか?」
「ウィリアム・ジョンソン公爵です」
「公爵って、あの公爵ですか?」
「ええ、あの国でもっと偉いとされている公爵です」
「そうなのですか」
彼女は彼を知っている。彼は確かに優しく、道端で雨宿りをしている人を見かけたらきっと手を差し伸べてくれるだろう。気がつけば馬車に乗っていると言うことも納得できた。
「あ、もうそろそろで公爵の屋敷に着きます。着いたら、お風呂準備しますので入りましょう」
「良いのですか?」
「ええ。それに公爵様もそれを望んでいるでしょうから」
「ありがとうございます」
鬱蒼とした森を抜けてすぐに、大きな街が見える。ここが公爵の領地であり、その街の一番見えやすい位置にある大きな建物は言わずもがな公爵の家なのだろう。
その大きな建物に近づくにつれて馬車のスピードも緩やかになり、そのスピードは速くなることなく、幾分かして完全に止まった。
「では、行きましょうか。お風呂はすぐに準備できると思いますので」
「ありがとうございます」
馬車が止まったのと同時に、メイドたちは慣れた手つきで降りる。マーガレットはメイドの手を借りてゆっくりと降り、すぐにメイドに連れられて、屋敷の中へと入った。
「服はメイド服でも良いでしょうか?それしかないので」
「はい、構いませんよ」
「なら、良かったです。先にシャワーでも浴びていてください。頃合いを見て大丈夫そうでしたら、そのまま浴槽に浸かっても構いません」
「ありがとうございます」
「いえ。では、着替えを用意してきますのでごゆっくりどうぞ」
急ぎ足のメイドに連れてこられたのはメイド用の大浴場であった。まだ完全には浴槽が温まりきっていないせいか、まだ誰もいない完全貸切状態の浴場に一人ポツンと体にお湯をかけたり、体を洗って綺麗にしたりした。少し時間が経ってお風呂の温度を確かめる。
「熱い!」
冷え切っていた体は随分と温かくなっているというのについ声が出てしまうほどお湯は熱かった。ここでは熱いお湯を好んでいるのかそれとも前いた場所が冷たすぎたのか分からないが、彼女は文句を言うわけにもいかず、ゆっくりと体を湯船に浸からせた。
「ふぅー。ん?」
なんとかお湯の温度にも慣れた頃、脱衣所が段々と騒がしくなるのを感じ取った。どうやら、他のメイドたちもお風呂に入ろうとしているようだった。
「誰か一人、先に入っているようでしたが。あら」
一番最初に入ってきたメイドがそう言い、マーガレットを視認すると不思議そうな表情をした体を濡らす、洗うという一連の動作を行なった後、その彼女は湯船に浸かっていたマーガレットのすぐ傍にわざわざやってきた。
「見ない顔ですね。新人の方ですか?」
「ええ、まあ」
詮索するように聞いてきて笑う彼女が怖い。目線を逸らしながらマーガレットは答えた。本当は助けてもらった貴族と言うべきところなのだろうが、彼女の笑みに萎縮して咄嗟に嘘をついてしまった。
「そうなのですか。私はここのメイド長のユーベルと申します。今日の業務内容はすでに聞いていますか?」
「いえ、まだ何も知らされていません」
「そうですか。まぁ、新人ですから仕方がないですよね。今日、配属になったのですか?」
「はい、そうです」
「では、お風呂上がりに私が業務内容を教えてあげます」
「ええ、ありがとうございます」
その話があった後すぐに彼女はお風呂から出た。随分と長いこと慣れない熱いお湯に浸かっていたせいか、だいぶ茹だってしまった。用意されていたメイド服に着替え、メイド長の上がりを待つことにした。
少し経ち、続々とメイドたちが戻ってくる中、メイド長であるユーベルだけが、上がってこなかった。
「どうされたのですか?」
最後の一人が外に出ようとした時、ずっと椅子に座っていたマーガレットを気にかけてくれたのか声をかけてくれた。
「ユーベルさんを待っているのですが」
「あー。メイド長ですか。あの人はいつも長風呂なんです。きっと三十分しても帰ってきませんよ。何か、メイド長と話があるのですか?」
「ええ、そうです」
「では、少し私たちの部屋で待ちませんか?メモを置いておけば、上がった時に気がついて来るでしょうし」
「いいのですか?」
「ええ、構いません。では、ついて来てください」
「あ、はい」
ユーベルは随分と風呂は好きなようで、この待ち時間は他のメイドの部屋で待つことにした。
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